ミュゼ・シルフィーの結婚の行方

みけの

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最終章 まさかの展開

怠惰の代償~ルミカとルース~

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~Sideルミカ~

 「これ、やっといて」

「これもよろしく~」

「え、ええ~!?」

 軽い口調で言う侍女達の手で、ドサドサッと目の前に山積みにされた汚れ物に、ルミカは何度目か分からない悲鳴を上げた。

「さっさとやっちゃってね~、次の仕事が待ってるから♪」
「それ、終わるまでご飯食べられないよ!」

 言わなくても良い捨て台詞を吐き、去って行く侍女達の背中を睨みつけるが、それでどうにもなる事はない。

 ルミカは今、リュドミラ侯爵家の下っ端侍女だ。下っ端に個人の部屋はなく、数人一部屋の狭い部屋の、更に隅っこが今の彼女の寝床だ。そこで朝早くから起こされ、夜遅くまで使われフラフラし、死んだように倒れこむ。そしてまた起こされる―――それを繰り返している。

「ちょっと! ここ本当に掃除したの? 滅茶苦茶汚れ残ってるじゃない! やり直してよ」

「それ終わったら次は、トイレ掃除だからね! 出来なかったらご飯抜きよ!」

 フラフラで更に怒鳴られ続け、神経もズタズタな状態でやった仕事も、ただ出来ないと怒鳴られてやり直しさせられる。

 ちゃんとしないと食事にありつけないルミカは、言われた通りに掃除しつつも沸々と、怒りと不満を募らせていた。

―――肉体労働なんて馬鹿がする仕事を、私がどうしてしなきゃならないの?

 来る日も来る日も肉体労働。仕事を変えてと訴えても、今まで味方だった執事や侍女長は、別人になったように冷たい視線を向けるだけで何もしてくれない。どころか、

『そんな暇は今の貴方にはないでしょう?』

『我々の首だって危ういのですから、貴方も貴方でどうにかして下さい』

 と、意味の分からない事を言われた。

 少しの隙をついて、ずっと自分が使っていた部屋に行ったら彼女の私物は一切無くなり、ただの物置部屋になっていた。

 ずっと自分を守ってくれていた暖かい場所は、暗く冷たい場所に変わってしまった。

―――どうして……こんな事になったの? 私は幸せに暮らしたいだけだったのに………

嘆けどその間にも、仕事はいくらでも押し寄せて来る。

「洗濯物、乾いたら畳んで仕分けしておいて! 間違えないでよね!」

「それ終わったらゴミまとめて!」


「もうイヤぁ………!」

 次々と襲い掛かる仕事と、もう自分を守ってくれるものがいないと言う現実。
それに絶望し、嘆き続けるルミカを知る者は誰もいない。


 ―――事もない。


S~ideルース~

 「ルミカ? ルミカがどうして……あんな目に?」

 こっそり様子を見に来たルースは、ルミカが使用人達にキツく当たられているのを目の当たりにした。出て行こうとするのを、近くにいた父の側近に阻まれる。

―――彼らは……ルミカを称賛していたはずなのに……?

 ルースが気絶してから目覚めたのは日が変わってからだった。目覚めれば両親がいて、使用人達が一様に暗い表情をしていた。
 一体どうしたのか、と首を傾げ、気絶する前の出来事を思い出した。

「……ルミカがすごく暴れていて……」

 まるで別人のようだった。いつもはかなげで、笑みを浮かべれば花のような彼女が一転、化け物に憑りつかれたように顔を歪ませ、暴力を奮っていて……。

 夢ではないかと思ったが、

「お前も私達も、あの娘に騙されていたのだ」

 書斎に呼ばれ父に言われ、現実であると思い知らされる。

 病弱だと思っていたルミカは、ずっと嘘をついていた。自分達に寄生するために。
ルミカにとって自分達は、財布扱いだったのだ、と。

 が、そういわれてもルースは、ルミカを憎む気になれなかった。

「とにかくもう、あの娘の事は気にするな。それよりお前もシルフィー領に修行に行くのだろう? せっかく邪魔者がいなくなったのだ。ミュゼ殿との距離を縮める事に集中しろ」

「………お言葉ですが父上、ルミカをあのような環境に置く程、彼女は悪い事をしたのでしょうか?」

「っ、まだお前はそのような事を……。

 したであろう? この屋敷で今まで好待遇でいた事、使用人を使ってのミュゼ殿への仕打ち、ミュゼ殿の仕事仲間

に恋するあまりに使用人のものを奪おうとした事だ。

ミュゼ殿は気にしていないと言っていたが、傷ついていないから、罪が無くなる訳ではないぞ」

「し、しかし……」

 未だルミカを庇おうとするルースの様子に、侯爵は洗脳がまだ解けていないのかと頭痛を感じる。騙され、良いように使われていた使用人達と、適当な誉め言葉でおだてられるままに、ルミカに翻弄されるだけだったルースとの違いか。

 人は自分を肯定してくれる者に対し、強く出る事が出来ない。

「言っておくが今のあの娘への当たりがキツイのは、恨み以外でもあるぞ。仕事の出来が悪いからだ」

「そりゃあルミカは、今まで働いた事が無いんですから」

「それはあの娘を構っていたお前にも言える事だ」

 胸の辺りを指差され、ルースがギチ、と固まる。

「『薔薇の貴公子』などと言われ、貴族達におだてられる事に慣れ切っているお前は、シルフィー領でビシバシ扱かれる事になるだろう。あの娘を保護するという名目で現実から逃げていたのだから」

「………………」
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