この世界のスキル・アイテム“オリガミ”の秘密は僕だけが知っている

みけの

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その頃の、ナルシト伯爵邸~マイク・ナルシト伯爵視点~

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「楽しかったぁ!」
と、未だ興奮冷めやらない様子ではしゃぐのは娘のマリア。
 そして、
「ふふっ、マリアったらもう」
と、口調だけは諫めていても、上機嫌な本心を繕っていない妻のダリア。
 招待客達が全員帰った後、使用人達は片付けで追われている。誰もが右往左往している中、別世界にいるように、楽しかった今日の事を、妻と娘が語っている。


 今日はマリアの誕生日だった。身内のみの祝いなのだから簡単なものでいい、と言ったのだが伯爵家の娘に相応しいようにとダリアが豪華なものにしたのだ。
 結局王太子様と側近の方々が来られた為、結局は功を奏したが。
お姿を見た招待客達も、まさか王太子殿下が? と驚きを隠せずにいた。だがそれは即座に作り笑顔に取って代わる。
“お、王太子殿下が、来られるとは!”
“ナルシト嬢の誕生日が、王太子にとって大切とは! ナルシト嬢はさぞかし優秀な方なのでしょう”
口々に娘を褒め称え、やがて我が家に対する賛辞の嵐となる。その中心のマリアは鼻高々だったが……。
「どうしたの?パパ」
ずっと無言で顔をしかめている私を、不思議そうにマリアはのぞき込んできた。
「王太子様、来て下さったでしょう? パパは“本気にするな”って言ってたけど私の言う通りになったじゃない」
「すごいわよね、マリアは」
「王太子殿下のことはそうだが……」
口々に喜ぶ妻と娘に、多少きまずく思いながらも言ってしまう。

「お前達、カヤラ君の心配はしないのか?」

 それまでは普通だったのに、急に具合が悪くなった、と言って帰ってしまったのだ。
伯爵に指摘された途端マリアは、
「あ、あー……カヤラね……」
さっきまでのはしゃぎようが消え、焦るように目が泳ぐ。そこに重ねるように問いかけていく。
「それに……王太子殿下達の前でとった態度、あれは何だ? カヤラ君に対して変に怯えて見せて。あれじゃまるで、普段彼が君をいじめているみたいじゃないか。……私が知る限りだと、彼はお前に寛容だったと思うけど」
 そう。カヤラはマリアと同年代とは思えない程寛容で、我慢強い。本当なら理不尽と思われそうな事でも飄々と受け流せる狭量の広さには、大人として感心する時もある。
 見た目は普通、成績も普通。だがその中にある意思に強さを感じた。あたかも、常にない試練や苦しみを味わい、今ここにあるような。
マリアは良くも悪くも妻であるダリアに似ている。見た目の良さもだが、要領の良さも。
“母の”……ダリアに、似ている。
故に、心配になる。もし彼女まであんなことを考えているのなら……。


 「カ、カヤラって気弱じゃない! ユリ……王太子殿下の前で、上がっちゃったんじゃないかな? それとも変にビビったとか」
ジッと見つめる私にアタフタと苦し紛れな返答をしたマリアに
「もう、良いでしょう? あなた」
ダリアがうんざりしたように、口を挟んできた。
「マリアはとんでもない幸運を引き当ててくれたのよ? このナルシト伯爵家にまさか、王太子殿下がお越しになるなんて、わたくしの実家でもなかった事だわ、オリガ家の子供なんか目じゃない!!」
…………“オリガ家の子供”ね……。
「……君は、私の決めた婚約が不満なのか」
「…………え?」
オリガ伯は私の長年の親友だ。確かに目立つところはないが実直で堅実な、良い奴だ。
 だが妻から見ればオリガもカヤラ君と同様、野心のない男という認識なんだろう。野心がない、つまり自分を含めた家格を上げようとしない者。
彼女はそれが、不満なのか。

 私の機嫌が悪くなった事に気付いたのか、ダリアは慌てたように態度を変える。
「そ、そんなこと、ないわよカヤラ君は良い子! それは私も分かっているわ。出来る範囲で精一杯、マリアの事を気遣ってくれているし」
「……分かってくれているなら良いけど。……正直私は名を上げたり出世になど興味はない。今の伯爵家と領地を守れればそれで満足だ。……マリアにもだ。華やかな上位貴族の皆様に目がいくのは仕方ないが、私は」
「「“自分の身の丈にあった幸せこそ得る価値のあるものだ”でしょう?」」
2人同時に同じ内容を唱える。
「パパの口癖だもんねぇ……すっかり覚えちゃったわよ」
「……分かりました」
2人の顔には納得はしていないが面倒もごめんだ、と書かれていた。その後はマリアは明日登校する支度をすると言って、ダリアは使用人達の様子を見てくると言って去って行く。
 残された私は、近くのソファに体を落とし、天井を見ながら自問自答した。

私が、間違っているんだろうか? 
だがそれが私の本音なのだ。
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