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第二章 始まりの春と宵闇の海辺街

さよならニート、おはよう冒険

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『大人の様な子供もいれば、赤子以上に稚拙な大人もいる。
 それが世の中というモノだし、
 それだけ世の「子供」への定義は曖昧だ』

もし月日における法の定めがなければ、一体幾つになれば『大人』と数えられるのだろう。
見た目?
身長?
言葉遣い?
仕草?
それとも見えもしない『心』?

どれだとしても。それでも思うのは、真っ当な『子供』時代を謳歌できぬまま、強制的に『大人』にされた子供ほど憐れで、哀れで、『歪な』生き物はない、ということである。
子供、
子供。
可哀想な子供?
自分の『心』を守るため、『正気じぶん』を手放した、憐れな子供。
形だけの肩書と賞賛の中、どれだけ泣き出したくも笑うしかできない、哀れな子供?
空っぽの人形の様に笑うことしか許されなかった、醜悪みにくいアヒルの子でもあって、ただの子供でもあって……、

九条生れの歪な『天才こども』。

とも呼ばれる子供で、
名は体を表し、血は争えず。
けれどアヒルがどれだけ頑張った所で、結局はただのアヒルで。
いつか、いつかと、期待しては諦めてきたあの日の、子供。

自分の家を鉛の様な体で、当てもなく歩く、ひとりぼっちの子供。
そうやってひとりで彷徨い続けた明けぬ夜くらやみに、微かな光すら差すことなく。
子供から『大人』となり、法的にも『大人』となって。なのに尽力の末、ようやく自立したうつわに最後まで残っていたのはこれ以上枯れることのない眼と、沢山の穴が開いた心だけで、

そんな、流れ出たものはとうに枯れ果て。
『大人』になれど、自分がナニかすら分からず仕舞いの『子供心わたし』だけ取り残されてしまった子供時代。
ただ、それを見て初めから『価値』がないと決めつけたのは存外、周囲の大人センセイ達ではなく、まだ『子供』と呼べる頃の私自身だ。



人の優しさは信じないクセに、「無償の愛は存在しない」ことだけを信じきり。
一度でも縋ってしまえば手放せなくなると、脆く壊れそうになる自分を恐れ、さし伸ばされた手すら振り払う。
そんな歪で天邪鬼な人物像こそ今でいう『彼女』で、『嘗ての私』と呼べる人間だった。





———もう直ぐ夜が明ける。
嘗てないほど軋む心臓の音には気づかないフリをして、前だけに目を向けた。
鏡に映る虚像を壊し作り変える度、また塗りつぶしていく。

……という無意味な繰り返しを繰り返す今現在。特に耳を澄まさずとも、窓の外でまだフクロウ(ぽい何かが)鳴いている時分。
今生における実の父親の不意討ちで思考回路を落されたのが、凡そ三日前の話。
そして同時に、そんなアポなし常識なしICBM発言に一瞬にして全公爵邸が混乱に陥ったのも、凡そ三日前の話。
前世基準からして顔と声が無駄に良いマジファンタスティック人間である筈なのに、時折の言動でマジFuck youと化す今生のお父様。

そのお父様へ、今の娘から送られる一言は。
「立場や職業柄忙しいのは分かるし、理解もできるが。それでもせめて! この度における戦火前、もっといっぱい説明してからお仕事に戻って欲しかったでござる」
である。

娘のここ三日での心情を要約すれば、主にこんな感じ。

一日目のあの後、本人以上に動揺し出した周囲を見て逆に冷静になったのが本人。
で、寧ろ大人たちの諸事情により留守番組となってしまった例のシスコンお兄様等を宥めるのに一日を費やす羽目となったのも、一日目。
この度の諸悪ひだねであろう、お父様の話でチラッと出たまだ見ぬ虫さん? を恨む以前にどうでも良くなるほど心身共々、やたら疲れた。
ので、その日は何時もの如くぐっすり眠れた……と思う。

そして二日目の朝から嘗てないほどそわつく周囲に「夢の様にやって来たお父様に比べ、現実は普通に夢じゃなかった」と再確認し。
いくら前世を取り戻したとは言え、今生の身での初めての扉開けてがいしゅつに多少戦慄しつつも、何だかんだ周囲に流されるままその日は就寝。
実家の使用人一同と財力のヤバさも再確認した怒涛の一日だった……と思っている。

———が、最大の問題となるのがやはり三日目というモノで。
昨日ともなる三日目の朝。いつものメイドのお姉さん達と散歩に出れば、未だかつてないほど聞こえて来た野郎共の雄叫び。
に、お嬢様の鼓膜はご臨終したし。一度行ってみればまさかのバトルロワイアルが朝っぱらから、実の我が家で開催されていた件について。
その場、その時。お嬢様が適当な人を捕まえ聞くと、どうやら今回における護衛役の残り枠を賭けたマジでガチな真剣勝負をしているらしい……。

だから今となるも、この様に振り返る度。ここまで来れば最早、遠足前の小学生かよとツッコムには物騒過ぎて。
ちゃっかり見学しつつ。それでも、今回も! 流石F世界と一寸引き気味になったのが三日目であり、昨日のアトランティアだ。

某博士たち不在のリアルな分、お供の厳選の仕方がゲーム以上にガチ仕様。
まだ例の虫()も出てないはずだのに、既に実家の敷地内がこんなにも物騒な世の中なのだから……ここまで考えたモブは「考える」を辞めた。
そしてセーブも出来ず、真面なロードも出来ぬまま、気が付いたら「今日」となっている、それが人生というモノである。

子供も楽しめる例の曲D世界観以上、大人ですら普通に危ないF世界。
……でなくとも、生れて初めての外、生まれて初めての眠れぬ夜。
良くも悪い、遠足前に眠れなくなるのは子供だけではないのだ。

そしてどうせ眠れないのなら、と。今宵改め、大分前から始まったのがひとりミラクルモブで。
そのまま一通りボッチではしゃぎ倒し、賢者タイムへ突入したのが今。
鏡の前で座り込み、アトランティアは「クソやべぇ」と思い馳せ。

「マジやべぇよ、初めましての相手にどんな顔をするのが正解なのか、少しも思いだせない……」

というのが、今の彼女の心境だった。

あくまで前世思考からの話ではあるが……。それでもあの夏の日から今もこうして、鏡に映るはこの身体の主で、えげつねぇ美少女である筈なのに。
だのに! 主立つ中の人のせいで、引きこもり成分が余りにも強すぎるし、実の所で強すぎたのが今日この頃である。

享年22+今生10=××だし、どう足搔いても22≧10……
ただでさえ元アトランティアも現アトランティアも生粋なセルフ幽閉型はこいり娘なのだから、この世は地獄です……。

「前世から引き継がれしヒッキーと雪の字の性が、まさかのここまで来て、こんな陰キャ的弊害にブチ当たるなんてッ!!」


と、
この世界、主にこの国でいう所のパジャマこそ着ているものの。これぞ、赤疲労十歳児(仮)真剣必殺状態での深刻な悩み。
さよならニート生活、おはよう冒険の日々。

……というわけありでのヤクしかない、彼女の見るこれからの新世界は、ご覧の美少女仮面★ヒーキーコーモリのなかからの提供でお送りします。
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