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第9部 ウォルド領

第85話 謝罪の気持ち

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「単刀直入に聞くわね、あなた達はなに?」

 え?
 なにって?

 普通、人相手なら『誰?』だよね。
 それを『なに?』て。
 何が言いたいんだろう、ギルマスは?

「さあ、本当のことを言ってちょうだい。悪いようにはしないわ」

 ま、まさかもう俺達が、男爵夫婦だってわかったのか?
 早くないか?
 いったいどうやって。

 ギルマスのイノーラさんは、俺達を一人一人見ている。
 そして俺を見つめた。

 やはり本当のことを言うべきなのか?
 逆にそれはそれで、『有』かもしれないが。

「さあ、本当のことを言って。何もかも分かって…「「いいえ、言えません!」
 パメラさんが口を開く。
「冒険者は犯罪者でもない限り、出生や生い立ちを問わないのが決まりでしょ」
「そ、それは」
「ギルドマスターのあなたが、それを破るの?」
「でもここの責任者とて、確認しなければならないのよ」

 俺達がヴィラーの村の領主だという事が、そんなに重要なのか?

 とても険悪な重たい空気になった。
 そして沈黙が訪れる。

「分かったわ。答えられる範囲で構わないから、質問に答えてくれるかしら」
「答えられる範囲ならいいわよ」
「では、あなた達はジリヤ国の東側から来たのでしょう」
 
 な、なぜ分かったんだ。
 ジリヤ国東側のアレンの街から来たことを。
 各州に間者を放っているのか?

「えぇ、そうよ。それがなにか?」
 パメラさんが淡々と答える。


 や、やはり魔族か。
 ここで、私が上手くやらないとこの街は大変な事になる。

「そう、やっぱりね。でも人間社会にはルールがあるのよ。分かる?」

「えぇ、もちろんよ。人間社会における 『ルール』 とは『規則』や『決まり』のことでしょう。『ルールに反すること』 は、『悪いこと』 であり 『してはいけないこと』 でしょう。ルールを守らない人が増えると、社会は混乱し不安定になるわ。他人の物を奪ったり、人の身体や心を傷つけたりする行為が増えて、安心して暮らすことができなりなる。ルールを守らない行動や、言動は社会を壊す行為だわ」

 なぜ、そんなことを聞くんだ?
 俺達がギルドで暴れたからなのか。
 そんな無法者に見えるのか?

 それにパメラさんもよく、ペラペラと言葉が出てくるよな。
 右手首に布を巻き、左目に黒い眼帯をした中二病スタイルでは説得力がね。

 しかし凄いな。
 何時の間にか水の回復魔法が使えるようになってるし。
 いったいどうしたんだろう。

 まるで急に頭の回転が良くなり、知識が豊富になった様に見える。

「そ、そうね。そこまで分かっているから、私は何も言わないわ。知識人としての行動や発言を期待しているから」
「そうしたいけど。でも今後、今日みたいなことがあったら私は戦うことにしたわ。大切な家族を泣かせたり、傷つけることは許さない。相手が『ルール』を守らないなら、私も我慢はしないわ。今回の事でわかったの」
「そ、それは…」
「今日、冒険者達が私達にしたことは、私がさっき言った『人間社会のルール』の反することだもの。そして今度から私の大切な旦那様を、怒らせる原因は排除するからね」

 パメラさんが凄い目でギルマスを見た。

「「「 ヒィ~~!! 」」」

 私は思わず鳥肌が立った両腕を手で抑えた。
 この女、今凄い魔力を放出したわ。
 やばい、140歳にして初めてチビった。
 今日から私はチビリンて呼ばれるんだわ。

 しかし4人がヤバいんじゃなくて、1人1人がヤバそうだ。

「それに今回の事でなんだか自分に自信がついたわ」
「私もよ」
「私も同じよ」

 なにが『同じよ』よ。
 魔族の女3人が、『自信がついた』とか言っている。
 そんなにギルドの冒険者は弱かったと言うの?
 ハナクソ並だと。
 ハナクソ丸めて万金丹まんきんたんだと!

 どうにかしないと。
 そうだわ!

「あなた達のレベルはもうFレベルではないわ。特別に4人共Cランクに上げてあげるから。帰りに受付でギルドカードを更新してね」
 本当ならAランクでも良いくらいよ。
 でも私の判断でいきなりAには出来ないからCランクね。

「Cだってよ、オマリっち(エリアスっち)」
「そうだね。まあ受けられる依頼が増えるから良いか」

 や、やばい!
 全然、嬉しそうじゃない。
 
「そ、それから、これからはあなた達だけの特権で、素材の買取額を1.1倍。いいえ、1.2倍にするわ。これならいいでしょ?」

 俺達は顔を見合わせた。
「お、お願いよ~!これで手を打ってよ」

 ギルマスのイノーラさんが、両手を胸の前で組みながら涙目で訴えてくる。
 特に小人族ホビットは身長が130cmくらいしかない。
 小さな女の子が涙目で俺達を見上げ訴えてくる。
 これを断る訳にはいかない。


「分かりました、ギルマス」
 あなた達の謝罪の気持ちを受け取ります。

「えっ、ほんと。良かった。良かったよ~、エ~ン」
 泣きじゃくるギルマスを、その後なだめるのが大変だった。
 12~3歳に見える女の子が泣きじゃくる。
 その姿を見てとても可愛くて、俺は思わず思ったことを口に出した。

「早くギルマスみたいな可愛い子供が欲しいね」
「きゃ~、子供だなんて!」
「バカバカ!恥ずかしい~」
「もうオマリっち(エリアスっち)のエッチ~!」

 3人の女性達は顔を赤くして照れている。


 私の様な可愛い子供がほしいだと?
 可愛いなんて言われるのは、何十年ぶりかしら…。

 魔族なら外見は若く見えても長生きだから、彼らは私より年上かもしれない。
 140歳の私が子供に見えるほどに。

 歳を重ねた狡猾こうかつな4人の魔族達。
 これからこの街はどうなるの。
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