処刑回避のため、頂点を目指しますわ!

まなま

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閑話2 ある公爵令息の憂鬱 交流編

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「先日はありがとうございました」

「わざわざよろしかったですのに…」


僕はお茶会が終わった2日後、さっそくレギーナ殿下に会いに来ていた。
ハンカチのお礼という名目で。

ちなみにお茶会でのあの時のふたりきりの逢瀬は、すぐにヴァシリー様に邪魔されてしまった。あのシスコンめ…!


「申し訳ありません…ハンカチの染みは落ちなかったので、新しいものを送らせてください。それと、これも…」

「まぁ!綺麗な花束!」


僕は新しく用意したハンカチと、花束を渡す。
淡いピンクを主とした、可愛らしい雰囲気の花束だ。


「殿下をイメージして作りました」

「わたくしを…?」


目をまん丸くして花束をまじまじと見つめる。


「わたくし、こんなに可愛らしい雰囲気かしら…」

「殿下は誰よりも可愛らしいですよ」

「な……」


顔が真っ赤だ。

ヤバい。可愛い。好き。


「ありがとう、ございます…………」


ふわりと微笑んだ殿下は…妖精かな!?
花束なんて霞んで見えるほどの可愛さ!!
あぁぁ――――――、持ち帰りたい。そして閉じ込めたい。愛でたい。食べたい。好き。

……最近、自分の思考に引く。

そんなアブナイ頭の中を紳士の仮面で隠す。
怖がらせてはいけない…。確実に捕まえなくては。それはもう、雁字搦めに。


「お茶の用意がしてありますの。もしお時間がございましたらご一緒に…」

「お時間ございますっ!!」


しまった。嬉しすぎて勢い余ってしまった。
殿下もびっくりしてるじゃないか…!僕は急いで余裕ぶる。
内心、狂喜乱舞だけども。
頭の中、天使がラッパ吹いて舞い降りてるけども。


「………是非ご一緒させて下さい」

「良かったですわ!」


すると殿下がもじもじとしながらこちらを伺い見てきた。

なんだこの生き物。可愛いな…。


「わたくし、花束をいただくのも、家族以外とふたりきりでお茶をするのも初めてですの。ガルロノフ様、ありがとうございます!」

「ぐっ…!」


ヤバイ、死ヌ。


「…私も殿下と初めてを共有できて嬉しいです。ぜひ、私のことはオレグとお呼びください。これからもどうぞ仲良くしてくださいね」

「オレグ様…!ありがとうございます!では、わたくしのこともぜひ名前で呼んでくださいませ…」


ぼぼぼ僕の、なななな名前を……呼ん……だ……………!!

頬を染めて恥じらう殿下…抱き締めたくなるほど可愛い。好き。

じゃあ、僕も遠慮なく…呼んじゃうよ?呼んじゃうよ!?
ヤバい、興奮で鼻息が…!鼻息を、抑えないと!!
出来る限り、甘く、優しく。


「では…レギーナ様?」

「はいっ!」

「はぅっ」


え、レギーナ様は発光してるの?
笑顔が可愛すぎて眩しすぎて見えない。目が潰れるかもしんない。
可愛くて性格もいいとか…君は神が与え給うた贈物かな?
好き好き好き好き。

お互い名前呼びとか…もう、これ恋人でしょ。明日には婚約でしょ。成人したらすぐ、結婚でしょ。
追々は「レーナ♡」「オーリャ♡」と呼び合って、レギーナ様と…いや、とふたりで毎日、朝を迎えるのだ!

またも幸せな妄想に溺れかけて………ハッとする。
今日は鼻血が出ないように気をつけないと……。
あの印象はなんとしてでも消したい。上書きしちゃダメだ。
それもう、消えないやつだわ。


「あら?お兄様!」

「やぁ!レーナにオレグ」

「……ゲ」


東屋に着くと、お茶の用意がされているとともに…お兄ヴァシリー様も用意されていた。

なにこれいらない。すごくいらない。

ニコニコといつもの爽やかな王子様スマイルを浮かべていた彼は…一瞬、ニヤリとこちらに視線を寄越してきた。

わざとか…………!!

笑顔を貼り付けたまま奥歯をギリッと鳴らしてしまったのは仕方がないだろう。


「お兄様、どうなさったんですの?」

「家庭教師の授業が思いの外早く終わったものでね。レーナにお礼を言いに来てくれたオレグに挨拶に来たんだよ。兄の務めだからね!」

「まぁ!そうでしたのね。お忙しいのに…ありがとうございます!」


どんな兄の務めだよ!

絶対、授業必死こいて終わらせたんだろう!お前そういうヤツだもんなぁ!?
お前こそ、邪魔しに来やがって…!


「そうでしたか…。、僕のために、ありがとう、ございます」

「いいんだ!気にするな!」


気にするかよ!いや、違う意味で気にするよ!お前の存在を!!どっか行けよ!!


「しかし、御身はお忙しい身でしょうから…もうお戻り頂いても結構ですよ?僕なんかのためにお時間を割かせる訳にはまいりませんから」

「いやいや!君が来てくれたのに、挨拶に行かないわけにはいかないだろう?俺の友人だしな!レーナのだしな!」

「ぐっ…」


分かってるよ!僕とレギーナ様が恋人じゃないくらい!
性格の悪いヴァシリーは僕の心を的確に抉る。
でも、ただの知り合いというほど浅い仲ではないぞ!なぜなら…


「いいえお兄様!先程オレグ様は今後もわたくしと仲良くしてくださるとおっしゃいましたわ!お友達…ですわ?」


最後は不安になったのか、自信なさそうに僕を見上げる。
不安で、僕に…僕に縋って………!ぐは!可愛い!

好き好き好き好き好き!


「ええ、そうです。お友達です」


安心させるように微笑みかける。
すると、ほわりと顔の緊張が解け、笑顔になる。
僕の言葉で一喜一憂するレギーナ様…。

好き好き好き好き好き好き好き好き!

まだ友人なのは認めよう。あぁ、悔しいけど認めよう!でも必ず!僕は手にしてみせる!この可愛い可愛い可愛い生き物を!!


「………おい。顔が残念なことになってるぞ」

「………………教えてくれて感謝する」




その後もお茶や散歩を共にして、時に…というか毎回ヴァシリー様に邪魔をされながらも、僕とレギーナ様は交流を深めた。

なんだかんだと理由をつけて、僕がかなりの頻度で彼女に会いに行ったのだ。

それは僕がレギーナ様に会いたかったからっていうのと彼女に僕を好いてもらうためっていうのが一番の理由だったけれど、僕らが親密だっていうのを周りにアピールする意味もあった。


レギーナ様は僕が知る限り、ずば抜けて可愛い。欲目なしに見ても、可愛い。追随を許さないほど、どんな言葉を使っても言い表せないくらい、可愛い。

あの金色の髪もキラキラと美しいし、瞳も宝石みたいで…いや、どんな宝石よりも澄んでいて綺麗で………っと、危ない。彼女のいいところを挙げ始めると日が暮れてしまう。

ひと度人前に出れば、老若男女、誰もが目を奪われずにはいられない。
レギーナ様は美しすぎるほど美しく、そして可愛いのだ。

しかも彼女はかなりの才女だ。

何かにのめり込むと没頭し、探求し、突き詰めたいタイプの…言わば、研究者肌の彼女は、あらゆるジャンルの学問や語学をマスターしていた。
言葉通り、本当にしていたのだ。
研究者並に。10歳が。

僕、もう追いつけないよ!!


なのに彼女は僕をすごいと言う。

剣技が。姿勢が。立ち居振る舞いが。ダンスが。容姿が。
いいところを目聡く見つけ、心から褒めてくれる。

だから僕は彼女に格好付けたくなる。
彼女には勝てなくとも…せめて彼女以外には誰にも負けないように。

まだ広く知られてはいないが、レギーナ様が容姿も素晴らしく、才女で性格もいいと周りが気付いたら………!恐ろしい。実に恐ろしい。


だから僕は、全力で牽制する。


レギーナ様には余裕のある男を演じてはいるが、実際は必死だった。

どうしたら彼女に好かれるか?
どうしたら周りは彼女の一番が僕だと認識するか?
どうしたら周りは僕が相手じゃ仕方ないと諦めてくれるか?

必死に必死に考えて、演じて…その苦労が実を結んだのは、彼女と出会って1年後。


「その…お父様が、そろそろわたくしも婚約者を決めなければ、と…おっしゃってるんですの。もし…もし、オレグ様さえよろしければ……わたくしと、婚約して下さいませんか?」


顔を真っ赤にして、ウルウルな上目遣いで婚約のお願い…………いただきましたぁぁぁ!!!!

僕は涙を流しそうになるのを必死に、必死に、必死に、堪え………なんとか紳士の仮面が剥がれないように耐える。


「もちろん。僕でよければ喜んで」


レギーナ様の顔がそれはそれは嬉しそうに、綻ぶ。

その瞬間、僕には見えた。

天から光が降り注ぎ、レギーナの周りに大輪の花が咲くのを。
そうか…。彼女は天使じゃない。妖精じゃない。女神なんだ………!

好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!!


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