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しおりを挟むけれど、付き合い始めると、それまでとは違ったところが見えてくるようになる。
彼からすると、遊び慣れてもいない高校生の女の子なんて、さぞかし扱いやすかっただろうと思う。
バカみたいに彼の言葉を簡単に信じていたあの頃を思い出すと、未だに腹立たしい。
彼が「付き合っていた」のは、確かに私だったのだろうと思う。けれど、彼は私一人じゃ満足していなかった。はっきり言うと、物足りなかったのだろう。彼が物珍しさで私に構っている時期は、付き合う前に終わっていたのだ。
落としてしまえば、適当に餌をやっておけば良かったのだろう。
飲みにも行かない、夜は一緒にいるのに時間の制限がある、それでなくても高校生相手なのだから、「彼女」として楽しむには、さぞかし不足に感じていたことだろう。
その上、今の私になら分かるけれど、彼も社会人一年生で、いろいろ大変な時期でもあっただろう。私に合わせてばかりいられないぐらいの苦労もあったかもしれない。
けれど、当然その頃の私にはそんな事は分からないし、分かっていたとしても浮気をくり返したことを仕方がないなどとは言う気もない。
そして浮気はするくせに、私よりも会社の人間関係や、友人たちの方を優先させたこともおもしろくなかった。
なのに、私は、会えば会うほど、上岡のことを好きになっていった。
以前は鵜呑みにしていた嘘に気付くようになっていても、「留衣」と幸せそうに名前を呼ばれて抱きしめられたら、もう、どうでも良くなった。
一緒にいれば、やっぱり彼しかいないと思ったし、その隣は自分の居場所だった。
「孝介さん」と、彼の名前を呼べば、笑いながら構ってくれる。それがうれしくて幸せだった。
会えない日は上岡に会いたくてたまらなかったし、会えば隣にいるだけで安心感と幸せがあった。なんでもない話をして笑って、彼が触れてくる感触を楽しんで、甘えて、時には甘えられて。
でも、私は気付いてしまった。彼が、私の事に、全く関心がないことに。
彼が簡単に嘘をつけていたのも、そのせいかもしれない。
今にして思えば、ペットのような物だったのかもしれない、なんて自虐気味に考えたりもする。
気が向いたときにかわいがる、愛玩する存在。
私の気持ちなど、どうでも良かったのではないかと思う。その時の反応さえ楽しめたら、それで。だから一緒にいるその時は必死で取り繕うし、私の機嫌を取ろうとするし、本当にかわいがっていたのかもしれない。
けれど、私自身への興味ではなかったのだ。私の気持ちなんて、その場で取り繕いさえすれば、どうとでもなる、どうでも良い物だった。
だから、私は、心の中で賭をした。
もし、彼が、私の進学先を聞いてきたら答えようと。でも、彼が聞かなかったら、何も言わない。
そして私は、その賭けに、見事破れたのだ。
私が県外の大学に志望して、そこで一人暮らしをすることを決め、地元を離れる瞬間まで、彼が、私のこの先をどうするか聞いてくれるのを待っていた。引っ越すその瞬間まで待っていた。
端末の解約をするその瞬間まで、彼が電話で「大学どこ?」って聞いてくるのを待っていた。
聞いてくれたら私はどこへ行くか話したのに。
でも、彼からの連絡手段を全て絶ったその瞬間に、ようやく私は諦めた。
新しい番号の変わった端末を手に、苦く笑った。
死にそうなぐらい苦しくて、別れることが辛くて、ぼろぼろと涙がこぼれた。
泣きながら、何度も、やっぱり自分から遠くへ行くことを伝えようかと思った。
こんな事するんじゃなかったと、自分のした賭を悔やんだ。
けれど、引っ越しを伝えても、彼とは遠距離恋愛になる。そんな状況に甘んじて、禁欲生活を彼がするとも思えなかった。余計に苦しい選択になるのも目に見えていた。
だから、必死でこらえた。
一人暮らしを始めてからは、地獄のようだった。慣れない間は、日常生活に慣れることで気を紛らわせていたけれど、慣れてからが地獄だった。
いつまで経っても、彼のことを忘れられないのだ。
会いたくて、会いたくて胸がつぶれそうだった。
突然行方をくらませた私の事を彼はどう思っているだろうと、そればかり考える日もあった。私がいなくなって悲しんでいるだろうか、悔やんだりしてくれているだろうか。私の百分の一でいい、苦しんでくれているだろうか。そのぐらいは好きでいてくれただろうか。それとも、もしかしたら、私がいなくなったことさえ気がついていないかもしれない。つながらない電話にさっさと見切りをつけて、もう私の事なんて気にもかけていないかもしれない。
何を思っても、苦しいだけだったけれど。
そうやって、泣き尽くして、まさか、忘れるのに三年もかかるとは思いもしなかった。そしてだめ押しの二年。
あんなに苦しんだ彼との別れを思い出して、私は笑う。
バカみたいだと。
あんなに苦しんでまでして別れたのに。一瞬で私の心はあの頃に引き戻されたのだから。
『留衣』
すがるように私の名前を呼んだ彼。
どうしようもなく好きで、この気持ちが、ひたすらに彼だけのことを思っていたあの頃と変わっていないようで、苦しかった。
好きなんかじゃない。あの頃の気持ちに引きずられているだけ。絶対に騙されない……。
あの男は、私を騙すことを、何とも思っていない人だから。
そう自分に言い聞かせる。なのに言い聞かせるその内容に胸がズキリと痛む。
彼が私を騙そうとしていると思うだけで苦しい。今日向けてきた言葉や表情が嘘と思うだけで苦しい。
あまりにもばかげた感情に、耐えきれず私は笑った。
情けなくて、泣きそうになるかわりに、わざと声を上げて笑った。
だから、彼が嫌いなんだと、何度も心の中でつぶやきながら。
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