魔王の花嫁

真麻一花

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10 師匠6

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「で、どうして異常な師匠のもとに魔王は釘を刺しに来るんですか?」

 フリーシャが詰め寄れば、アトールは目をそらした後、諦めたように溜息をついた。

「まあ、俺も、これだけ極端に魔力が大きいと、魔王と顔見知りになる機会もあったって事だ。道理は通らないが、話が分からない存在でもない。おまえなら、適当に追い払って、俺のところに一度来るだろうと思っていたんだ。しかし、まさかマーシア様をさらっていくとは思わなかった。まさか、花嫁捜しとは……」

 既にバレバレだった事実を、ようやくアトールが認めた。魔王が釘を刺してくるほどの魔力とは、どれだけなんだと呆れつつ、内容にもまた呆れた。

 師匠、言ってることが、ちょっとひどくないですか。

 フリーシャを守る気が皆無の内容である。恨めしそうにアトールを睨め付ければ、アトールはそれを気にもかけず、ため息をついてフリーシャを頭のてっぺんから足先まで眺めた。
 そしてゆっくりとフリーシャの顔を見たのたまった。

「まあ、花嫁捜しならば、おまえよりかは、マーシア様だろうなぁ……」

 フリーシャはすかさず、拳に怒りを込めて、みぞおちを狙って蹴りを入れる。

「師匠、一言余計です」

 自分で思った以上に低い声になっていた。
 残念ながら蹴りは止められた。ついでなので力を込めた拳も繰り出してみたが、そちらも軽く止められた。
 苦笑いしながら「危ないじゃないか」と言うぼやくアトールに、フリーシャは舌打ちをした。
 確かに、マーシアの美貌は人間離れした美しさだが、あえてそこの差を突っ込まれたくはない。

「とにかく、時間がありません。婚礼は次の新月と考えて間違いないでしょう。それまでに姉様を助けないと、姉様が……」

 更に繰り出されるフリーシャの拳や蹴りをさりげなくよけつつアトールは困ったように頭をかいた。

「分かっている。だがなぁ……」

 俺、手出ししないって、約束しちゃったんだよなぁ……、とぶつぶつと文句を言うアトールに、フリーシャはかちんと来る。

「それが、愛弟子と、自国の王女に対する言葉ですか!」

 敬愛する師匠の頭を今度こそ殴りつけ、フリーシャは怒鳴った。

「いや、そりゃ、お前ならともかく、マーシア様となると、手ぐらいは貸してやりたいとは思うさ。だがな、魔王ぐらいになると、口約束でもそれなりに強制力があるからな、どこまでなら大丈夫かと思って」

 アトールは殴られた頭をこすりながら首をかしげる。
 確かにそう言われると納得もいくが、しかし一つ気になることがフリーシャの脳裏をよぎる。

「師匠……さっきからずっと思ってたんですが。私が魔王と顔を合わすと思っていたのに、手出ししないなんて口約束しちゃったんですか……? 薄情すぎないですか……? 師匠には、人情って物がないんですか?」

 アトールを信頼というかあてにしていたからこその怒りに、フリーシャはぶるぶる震える拳を握りしめ、笑ってごまかそうとするアトールを引きつった笑顔でにらみつける。

「失礼なことを言うな。おまえなら大丈夫と思っていたからこそだ。信頼と言ってくれ」

 フリーシャはその言葉を鼻で笑う。

「信頼の要素が全くありません。わずかに残っていた信頼もたった今裏切られました。ほんっと役に立たないですね。…………それで。魔王のもとに行くには、そのまま魔王の城まで直行して大丈夫ですか?」
「信じられないといったその口で、よくそんな事が聞けるな」
「それとこれとは別です。もうくだらない戯れ言は良いですから、役に立たないなりに、知識ぐらいはさっさと教えて下さい」
「まったく俺の弟子は、どいつもこいつも偉そうな口をきくようになって……」

 アトールは、ぶつぶつと文句を言いながら地図を広げた。



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