魔王の花嫁

真麻一花

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 フリーシャの記憶の中には黒騎士の記憶がない。
 けれど「知っている」。
 それゆえ、妄想ではないといいきれない部分があった。
 けれど記憶の片隅でよみがえった黒騎士の声が、妄想ではなかったのだと感じられた。確かに彼の記憶が奥底にあるのだと思えて、フリーシャはうれしくなる。

 ええ、私の黒騎士。ええ。私は諦めない。今、この苦しみも耐えてみせる、乗り越えてみせる。だから、待っていて。私を守って。姉様を助ける力をちょうだい。
 あなたを思うことが私の力になる。

 フリーシャは彼に祈る。
 その存在はフリーシャにとって、御守りのような物だった。彼を信じることが力になっていた。支えだった。
 嫌な事があれば「いつか彼と共に……」と思うだけで耐えられた。辛い時は彼を想う。それはもう、癖のような物かもしれなかった。



『フリーシャ、一つ聞きたいのだが……』

 竜の声で我に返る。

『黒騎士とは、何者だ?』

 問われて、一瞬ひるむ。

「……私を迎えに来てくれる人よ」

 そういえばさんざん、彼の前では他人の気軽さで「黒騎士」「黒騎士」と気にすることなく叫んでいたが、黒騎士が何者かには、全く触れていない。フリーシャは、自分の事を話すのは少し苦手だった。
 何となく、白竜の王子とは意気投合した気分になっていたが、よく考えなくても出会ってから半日もたっていないのだ。

 なんと説明しようか。
 こう改めて聞かれると困る物で、なんと言えばいいのかとフリーシャは迷う。マーシアと二人だけの秘密の人を、初めて話すのだ。

『……恋人か?』

 黙り込んだフリーシャに、白竜が尋ねる。
 フリーシャは首をかしげた。

「さぁ……分からないの。彼が何者なのか、どこにいるのか。それすらも」

 でも、ずっと恋している。幼い頃から、彼が私の支え。思うだけで胸が温かくなるほどに。

『ならば、なぜ、そなたを迎えに来ると思うのだ?』
「……きっと、約束をしたのだと思うの。物心ついた時から、そう思っていたから。今でもそれを信じてる」
『……夢、か?』
「……夢……」

 フリーシャはかみしめるようにつぶやいた。そう、もしかしたら夢のような物かも知れないと、そう思えた。そして他人からしたら夢のような話でしかないのだろうとも。

「私の思い描く夢、私が見た夢……もしくは現実?」

 つぶやいてみるが、こうして言葉にすると、フリーシャ自身、この感情をどう表現すればいいのか分からなくなった。

「時々、私も考えるけれど、答えは出たことがないわ。でも、それが夢でも、現実でも、私にとってはそれが真実だから、信じているの」
『……そうか、つまらないことを聞いた。早く迎えに来るよう、私も祈ろう』
「ありがとう」

 フリーシャは白竜の優しさに、こっそりと微笑んだ。
 おそらくフリーシャの説明では、彼にはよく分からなかっただろう。本人でさえ、どう表現すればいいのか分からないような感情だ。フリーシャの確信は、他人が聞けば、ただの思い込みの激しい妄想だろう。
 そうとわかっていて、伝えられる言葉はどうしても少なく、うまく説明ができたとは思えない。
 けれど、白竜はフリーシャの言葉をそのまま受け入れてくれた。そしてそれ以上追求しなかったのは、彼の優しさに思えた。


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