魔王の花嫁

真麻一花

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 魔物が先頭を切り、その後にフリーシャを乗せた白竜が続く。

『フリーシャ』

 飛びながら白竜が問いかける。

『相手は魔物だ。信用するつもりなのか?』
「信用しても、しなくても、道案内がいた方が早く着くと思うわ。もし騙している素振りがあるのなら、そのとき手を打てばいい。真実なら、これでいい。この方が手っ取り早く姉様のもとに行けるから」

 フリーシャの覚悟は決まっていた。
 しかし白竜はそれをとどめようとする。

『ならば、仮に真実だとして、間に合えば、今度はそなたが魔王の花嫁だ。どうする気だ』

 フリーシャの心臓が、どくりと音を立てた。
 魔王の花嫁となってしまえば、自分はどうなるのか。
 心臓が、どくり、どくりと追い詰めるようにフリーシャを揺さぶる。
 脳裏にまず浮かんだのが、黒騎士のこと。
 彼を、諦めると言うことになるのか。
 思った瞬間、心臓が悲鳴を上げた。
 イヤだ、と、切実に思った。彼のことを諦めることなど出来ない。
 けれど。
 フリーシャは唾液を飲み込む。
 動揺している自分を感じていた。フリーシャは、ためらっていた。

「フリーシャ」

 ためらうフリーシャに追い打ちをかけるように、白竜がひどく低い声で答えを促した。
 息を深く吸う。
 答えは、変えられない。
 だから。全ては後だ。そう心を決める。
 私の感情にとらわれてはいけない。ホントか嘘かはもう考えない。話に乗った以上、後は見極めるだけだ。最優先は、姉様だ。
 フリーシャは、自らの黒騎士を想う心を遮断する。
 そして無理矢理に口端を上げると、フリーシャはあえてなんでもないように、軽く言ってのけた。

「どうにかするわ。それに、今、一番に考えなければいけない事は、姉様の安全だもの。私は、あの魔物が言った事は本当だと思っているの。姉様と私を間違えたのは、あれは騙すための手口には見えなかったもの。ならば、姉様が私の身代わりになってしまったのだから尚更、姉様の事を先に考えないと。私が間に合えば、本来の状態に戻るだけだもの」
『そなた、何を言っているのかわかっているのか?』

 明るく振る舞うフリーシャに反応して、白竜の声に怒りが混じる。
 私のために、怒ってくれている。
 それがうれしくて、けれど今は辛くて、苦く笑って気持ちを静める。そしてことさら明るく笑顔を作る。声が、少しでも明るくなるように。

「だって、姉様は普通の女の子だもの。私には力がある。それがたとえ魔王から与えられたものだとしても。それに契っておきながら、今まで放って置かれたぐらいなのよ。きっと何とかなるわ。……それよりも」

 フリーシャは言葉を切ると、進行方向に目を向けている白竜をじっと見つめる。時折目が、心配そうにフリーシャをとらえている。フリーシャは切実なほどの思いを込めていった。

「白竜の王子、姉様の事をお願い。私の事なんていいから、姉様の事を守ってね。もしもの時は、私の事はいいから、姉様を連れて逃げてね」

 しかし白竜が声を荒らげた。

『私は、そなたを見捨てるつもりはない。そんなつもりなら、そもそもこんな事に付き合ったりはしない』

 怒れる白竜に、フリーシャが嬉しそうに笑った。

「やっぱり、あなたは私の幸運だわ。安心して姉様を預けられるもの。あなたに会えてよかったわ」
『フリーシャ! あきらめるのか?! そなたが言ったのだぞ、あきらめるなと!』

 フリーシャは微笑んだ。

「私はあきらめているわけではないわ。ただ、最善の道を考えているだけ。最善の道を考えた時、必要ならば、望んだ道も捨てるわ。けれど、残った道の中での最善を探すわ」

 半ば自分に言い聞かせるような言葉だった。

『そなたの言う最善とは、そなたが花嫁になる事ではあるまいな?』

 低く唸るように言った白竜に、フリーシャは一瞬言葉を詰まらせた。


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