魔王の花嫁

真麻一花

文字の大きさ
39 / 62

39 対峙3

しおりを挟む

「姉様、私は大丈夫」

 取り乱したマーシアを強く抱きしめると、フリーシャは首を横に振った。

「姉様、ありがとう。私は大丈夫です」

 フリーシャは、なお強くマーシアを抱きしめた。
 嬉しかった。こんな状況にあってもなお、自分の事よりフリーシャを思うマーシアの心が。
 反面、それほどまでに思ってくれているのに……と思うと、自分が許せなく思えた。それでも、とフリーシャはマーシアを抱きしめる腕の力を緩める。

「姉様、彼の側なら安全です」

 フリーシャはすぐ後ろに控えていた白竜を振り返った。

「彼は、私をここに連れてきてくれたんです。彼がいたから間に合ったんです。彼は味方です」

 マーシアを白竜のもとへと促し、フリーシャは白龍と目を合わす。

「白竜の王子、姉様をお願いします」

 白竜が小さくうなずき、マーシアが白竜の側にいるのを確認して、フリーシャは再び魔王を振り返った。

「フリーシャ!」

 納得など行くはずのないマーシアが彼女を止めようとするのを、白竜が押さえる。

「離して! フリーシャ!」

 フリーシャはマーシアの叫びを背に魔王に向かって足を踏み出した。
 姉様は無事だった。

 もう良い。姉様がご無事なら、もう、それだけで。
 だから、この先は、私の問題。

 フリーシャは気持ちを落ち着けるように目を閉じる。
 今度はゆっくりと息を吸うと、覚悟を決める。
 安堵する心を押し込めた先に、フリーシャの中にこみ上げてくる感情は、怒りか、それとも。
 フリーシャは広間の中央に立つ黒衣の男の顔をじっと見つめる。

 持て余すほどの感情の渦が胸の内にあった。
 あのとき魔物が言った。フリーシャは運命の花嫁なのだと。
 魔王の半身なのだと。
 目の前には、人にあらざる美しい魔物がいる。

 あれが……。

 改めてその存在を真正面にとらえてフリーシャは息をのむ。この場を支配するような圧迫感に心臓が捕まれたように思えた。

「……魔王?」

 フリーシャは、黒衣の男をその瞳にとらえたままゆっくりと広間を進んでいく。
 魔王は、わずかに目を細めてフリーシャを見ていた。

「姉様は、返してもらうわ」

 フリーシャは、ゆっくりと宣言をした。
 魔王と向き合ったなら、その姿を自分の目に映したなら、自分はどうなるだろうと、フリーシャはここに来るまで何度も考えていた。
 意外に、冷静な物だと、不思議なぐらい落ち着いている自分に驚く。けれど。
 進む先にいる黒衣の男を見据える。
 魔王もまた静かにフリーシャを見ていた。

 今更、引き返せないのだと。
 その深い闇色の瞳を見つめてフリーシャは思う。
 マーシアの怯え方は尋常ではなかった。到底、許せることではない。
 フリーシャは魔王をにらみ返しながら、近くに控える人型の魔物に歩み寄る。

「その剣、貸していただける?」

 微笑んで手を出したフリーシャに、フリーシャをここまで案内した魔物は、クスリと微笑んで楽しげに「どうぞお使い下さい」と差し出した。
 フリーシャは剣を片手に呪文を唱えながら、魔王を観察する。

 腹立たしい、とフリーシャは思った。これだけ堂々と呪文を唱えているのに邪魔をするつもりはないようだ。見くびられているのか、それとも。

 確かに、私は魔王の花嫁なのだろうと思った。
 魔王を前にして、確信してしまう。だから、魔王の前に立つフリーシャを誰も邪魔しない。

 フリーシャは魔力で強化した剣を握りしめ、切っ先を魔王へと向けた。
 しかし、魔王はそれを見ながら止める素振りもなければ、表情さえ変わらない。
 その無表情な顔を睨み付けながら、フリーシャの口端がわずか、笑うようにゆがんだ。

 あざけりをふくんだその表情は、魔王に向けられた物ではなかった。他の誰でもない自分自身に向かっていた。
 落ち着いている心とは裏腹に、フリーシャは怒っていた。
 魔王にも、マーシアをこんな目に遭わせてしまった自身にも。

 なのに、選ぶ道を変えられない。変える気もない。フリーシャが選ぶ道は、ただひとつだった。
 フリーシャは剣を構えると真っ直ぐに魔王に向かって駆けて行き、力一杯その剣を振りかぶった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...