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越後の頭脳
しおりを挟む越後の開発は街道整備から始まった。晴景への役職・家督の同時の相続は混乱を生むか?と思われたが、先ずは平穏に終わった。長尾と上杉両家の家督と役職を一本化した事が混乱を抑制する効果を生んだようである。
しかし、感情は別であった。上杉家重臣・黒田秀忠は居城である黒滝城で不満を漏らしていた。
「なぜじゃ?なぜ越後が武田の下風に着かねばならぬのじゃ?!定実様も定実様じゃ!越後の国の主を自らお捨てになられるとは!為景と息子らと武田を成敗すれば定実様が越後の主じゃ!」
黒田は家臣を30名程度集めると春日山城へ向かった。
黒田は登城すると晴景に願い出た。
「晴景様、越後の事にてお願いの儀がござりまする故、為景様や武田様もお立合いの上でお聞き頂きたく・・・」
「相解った。しばし待て」
晴景は遣いを立て、父と源太郎を呼びに行かせた。
街道整備の指導をしている源太郎の元へ晴景からの使者が来た。
「武田様、『至急の要件にて春日山へお越し願いたい』とお館様のお言葉にござります」
「相解り申した。『支度が出来次第お伺い致し申す』とお伝え願いたい。それと、これを飲みながら行きなされ」
と幾つかある内の水筒として使っている竹筒を使者に渡した。
「これは?」
と使者が首を傾げると
「この頃は暑うござる。中に薄いお茶が入って居る故、喉を潤しながら行きなされ。喉が渇き切って、御館様に口上を伝えられぬでは使者のお役目を果たせませぬぞ。ハハハ」
使者は外である事にも関わらず、地面に両手の拳を付けて深々と頭を下げた。
「お心遣い、心より感謝申し上げまする!」
と言って姿勢を正すと、春日山城へ戻って行った。
それを見ていた壮年の武将が源太郎に声をかけた。
「あなた様が武田様でござりましたか・・・気が付かず失礼の段、平にご容赦下さりませ。それがし、琵琶島城主・宇佐美定満にござりまする」
「おお!あなた様が越後随一の知将と言われる宇佐美殿でしたか・・・いやいや、皆で協力を致すべき工事の前線に、その程度の事は失礼には当たらないものと存じまする。それがしこそ申し遅れ失礼致し申した。武田の当主・源太郎信義でござる」
「武田様、それは皆の買い被りでござります。それはそうと、先程の者が『至急の要件』と言っておったように聞こえ申したが・・・」
「はい、その通りにて・・・早速春日山城へ参ろうかと」
「はて?面妖な・・・お館様は婚礼の準備と守護職の引継ぎの重なりで忙しく、武田様への話などないはず。また越後の諸将も、外に出ずっぱりにて登城の必要はないはず。武田様、それがしもご一緒させて頂いても宜しゅうござりましょうか?」
「何かご懸念でも?」
「はぁ・・・些か不自然さを感じただけにござりますが・・・」
「これも何かのご縁。ご一緒願えましょうか?」
「宜しいので?」
「はい、道すがらこの土地の事をいろいろと教えて頂きとうござる。農民を困らす獣とか・・・」
源太郎は供の者達と宇佐美を伴い、春日山城へ向かった。
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