噛み痕をフライパンで焼いてツガイと別れてやりました

夜鳥すぱり

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 素性を聞けば聞くほど、宮ノ内昴みやのうち すばる という男は、正にサラブレッドだった。両親共に医者で、高校は県内トップ校、特待生、眉目秀麗、剣道の有段者部長兼、全国一位タイトルホルダー、何だこいつ。出木杉君か。

 そんなサラブレッドの家になぜか居候している、野良猫みたいな僕。何してるんだって、思うけどさ。

「あのさ、お前もしかして、一人でここに住んでるのか?」

 駅から徒歩1分高層40階建てのマンション最上階、成功者の部屋には、ただ今、昴と僕の二人きり。親らしい人が全然出てこないんですけど。ベットも一つしかないし。

「そうですね、父も母も別の家に住んでいるので」
「へーー、は? 別? 皆、別々に? それ家族って言えるのか」
「血の繋がりは有りますよ」

 どんな家族だよ。え、アメリカの大富豪みたいな家なのか? それにしたって、僕とタメで、こんなとこ一人で住んでるって……異次元すぎるんだが。

「ご飯とかどうしてるの? お前が作ってるの?」
「デリバリーが届きます、毎日三食、あとカードで買いたいものは買えるので」

 ピロっと、出したブラックカード。うん、知ってる。ゴールド、プラチナカードの上のやつだねそれ。滅多にみないやつ。こいつ、尋常じゃない金持ちだわ。確定だわ。

「はーーーへーーほーーお前、ろくなやつにならんな」
「親に寄生していると言う意味では確かに、ですが殆どの学生はそういうものでは?」

「カードで買い放題とかないわ、庶民の財布には上限が有るんだよ、てか、子供にクレジットカード持たせる親とかどうなん」

 げんなりしながら、庶民の有方をこんなサラブレッドに説いた所で、なんの役に立つと言うのか。細やかな抵抗だよ。鉄の盾を持ってる騎士に、つま楊枝でツンツンしてるようなものよ。情けなくなってくるな。もうどうでもいいよ。

「まぁ、お前の家の事だし、別に良いけど、普通じゃなねぇってことは知っとけよな」

「なるほど、世間はシビアなんですね、皆さんの生き方かっこいいな、僕も憧れるんです、トランク1つに必要な物だけを詰め込んで生きていく様な人生」

「こんな、バカラの食器使ってるヤツに言われてもなぁ」

 キラッキラ光る食器に、乗せられた高級肉は大層旨い。こんなデリバリー有るんだな世の中に。先程届いたデリバリーセットを少しつまんで感動する。

「お手伝いさんとかいないの?」
「ハウスクリーニングが週2で入りますから」
「へぇ……ハウスクリーニング」

 なんか良くわからんが、すごいことだけは解る、金持ちの世界だ。昴の家は、がらんと広くて高級家具と、食器とが並ぶモデルハウスみたいな家だ。大きな窓からは都会の夜景がビーズみたいに細かくキラキラ光ってる。

 恵まれた生活。だけど、何だろう。静か過ぎて、学校の図書館みたいな空気感。そこだけ切り離されたみたいに、しんと静まった、冷たい空間。せめて、音楽でも聞けば良いのに。

「なんつーか、寂しくないの?」
「そういう感覚は無いです、今までもこんなでしたし」
「ずっと?」
「小学生の頃はお手伝いさんが毎日いましたけど、何がきっかけだったか忘れましたが、急に来なくなって」

 何でもないみたいに話してるけど、それって何だろう、こいつの世話をずっと焼いてた人が急に来なくなったんだろ? 理由も告げずに? なんだ、これ。

「そっか、さびしかったな」

 ボソッと呟いた僕の言葉を、不思議そうな顔して見てる昴に違和感を覚える。

「さびしかったんだと思うよ、何だよ、ずっといた人に会えないのは、さびしいだろ? 違うのかよ」

「ずっと居た人だから、そうですね、さびしいと言うより、憎くかったかな」

 昴の本音なんだろう、良く解る。ずっと居たからこそ、自分をさらけ出してきたからこそ、離れていかれるのは憎いよな。すげーー解る。

「めちゃくちゃ憎いなそれは、解るわ、腹立ってきたわ」
「え? あはは、飛羽君面白いな」

 くすくすとお行儀良く笑う昴に、少しでも笑えて良かったと思った。










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