前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり

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13 鼻ちゅ

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  腕の中に閉じ込めたニャリスは、ゴロゴロと喉を鳴らさない変わりに、何度も何度も「ラクロア様大好き」と可愛い声で囁いてくれる。

未だかつて、ラクロアにこれ程の愛情を純粋に向けてくれる存在など、猫だった時のニャリス以外にない。何の見返りもなくただ好きだと胸にすり寄るこの子供が自分にとってどれ程の価値があるか。ラクロアは、誠に得難いものを手に入れたことを神に感謝したくなった。何を失っても良いから、もうこの温もりだけは失いたくない、愛しい黒髪を優しく、優しく撫でた。

「ニャリス、お家に帰ろうな」
「うん」

しがみついて離さない小さな手を愛おしく思いながら、ラクロアはヒョイっとニャリスを抱き上げた。するとすぐに首に手を回してラクロアの頬に自分の頬をくっ付けてくる。柔らかな頬が、筋肉質の自分の頬にフヨフヨとくっつく。

「はぁ……可愛いすぎる、俺はもう本当にお前の為なら死ねる気がする」
「だめだよ、ラクロア様が死んだら」
「お前も駄目だ」
「お約束したから、死なないよ、でもね、万が一うっかり死んでも僕は猫だからね、忘れないで、必ずラクロア様のところへ帰ってくるからね、待っててね、でも、何になっても怒ったりしないでね、虫とかちょっと難しいかもしれないけど」
「お前が何になろうと、かまわないが、、、だが死ぬな、こんな話をしてるだけで胸が潰れそうだ」

ラクロアは自分の頬をニャリスの頬にスリッと擦り付けた。なるほど、頬を擦り付ける行為は愛情を示すにはなんと有効な手段だろう。33年も生きてきたが、そんなことも知らなかった。

ニャリスは自分にいつだって新しい感情をくれる。愛しい、可愛い、そして寂しい、苦しい、悲しい。

昔、妹に感情のない鬼の様だと言われた事があるが、今の俺をアイツがみたら、笑い出すことだろう。

「ニャリス、しかし何故こんなところにいたんだ?」
「んとね、街を歩いてたら、突撃魚の串焼きを食べたの」

「突撃魚?あんな小さな魚の丸焼き?あれは出汁でしか使わないと思っていたが」
「突撃魚美味しいの、僕は大好きなの」
「そうなのか、知らなかった」
「食べたの」
「そうか」
「食べたけどお金が無かったの、僕、上手く説明できなくて逃げちゃったの」
「アーーー成る程」
「逃げるつもりなかったの、でも大きな声で怒られて怖くて」
「ニャリスを叱ったのか?どこのどいつだ」

瞬間的に殺意が生まれて目をギラつかせたラクロアに、ふるふると首をふった。

「ちがうの、僕が悪かったの」
「ううむ」
「逃げたから、騎士様に捕まったの」
「ニャリスを捕まえただと?どこのどいつだ」

またギラっとラクロアの瞳が光る。こんな可愛い、可愛いしかないニャリスを叱ったり、捕まえたりするなんて何等かの刑に処してもいいのでは?と思って、苛つく。だが待てよ、自分もそういや最初ニャリスを捕まえたな、激しく落ち込む。

「ラクロア様ってば、僕が悪かったの、で、ここに来たの」
「なるほど……怖い思いをしたな、可哀想に」
「でもラクロア様が来てくれたからもう良いの、ホッとしたら眠たくなってきちゃった、お屋敷に帰ったら一緒に寝てね」

そう言うと、ニャリスはちゅとラクロアの鼻に鼻をくっつけた。

「ンンンンっ……そうしよう」

アーーー~~これ、昔、ニャリスにされたことがある、鼻チュウだ。猫の親密な相手にする挨拶らしいが、んもっう!!可愛いすぎて過呼吸になりそうだ。

ゼイゼイと、呼吸を乱しながら、ラクロアは、下級騎士の部屋を出た。待機していた騎士達が、ニャリスを抱っこして頬を染め目が怪しげに光っているラクロアを、どうして良いか解らず、皆、一様に視線を下げた。たぶん見ないのが正解であろう。






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