前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり

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46 誕生日

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 執事のジルベルトと、メイド長のナスリを呼んだラクロア様のもとに、二人は直ぐに召還された。

「ラクロア様、いかがなさいましたか?」

穏やかなジルベルトの声に、ラクロア様は頭を抱えたまま、誕生日なんだと呟いた。

「はい?」
「誕生日なんだ、ユリスの誕生日が今日だと言うんだ」
「なんと」

時刻は4時を過ぎたばかり、まだ夕食の支度に間に合うかとラクロア様は問うた。

「大丈夫でございます、夕食は晩餐会並みのものを御用意させていただきます」

ジルベルトがすちゃっと、胸元を押さえ、キリッとした顔をして、とても頼もしい。もしかしてだけど、僕の為にご飯を豪華にしてくれるの?

「お前の手の怪我を聞いて今日は早く帰ってきたことが、逆に良かったのかもな、誕生日を気にしてやれなくてすまなかった」

「どうして謝るの?歳をとっただけだよ」

「今まで誕生日を祝ったことは無いのか?」
「僕のお父さんもお母さんも、とっても忙しかったの、きっと覚えてないよ、産まれた日と名前が壁に張ってあったから覚えてただけ」

ラクロア様は少し目を見開いて、そうかと呻いた。

「誕生日はお前が生まれてきたことを神に感謝する、お前だけの祭りみたいなものだ」

「僕の祭り?」
「一緒に祝おう、これからずっと、俺はニャリスが生まれてきたことを神に感謝する」

「ラクロア様は?お誕生日いつなの?」
「俺は夏だ、まだ先」
「僕も感謝するよ、ラクロア様が生まれてくれなかったら会えなかったもの」

僕が抱きつくと、同じ強さで抱き締めてくれるこの腕が無かったなんて考えたくもない。

「神様ありがとうなの」
「そうだな、俺は信心深くはなかったが、今はお前がいるし、奇跡は起こることを知ったから、奇跡を起こしてくれる神が何処かにいるのかもしれないな、感謝する」

自分の手の中に帰ってきた愛しい黒猫が、こんなにも可愛い。自分を好いてくれて、寄り添ってくれて、帰ってくるのを楽しみにしてくれている、生きていることを感謝してくれる、生まれてきたことを喜んでくれる、どんどん手離せなくなる。

「ニャリス、お前が強くなるのは嬉しいが、危ないことはするなよ、逃げるのが正解なことは沢山あるからな、向かっていくだけが勇気じゃない、命を守ることが大事だ」
「はぁい」

顎を指で撫でながら、ラクロア様は本当に解ったのか?と何度も聞いた。

解ったよぅ、でもね、やっぱりね、ラクロア様が危険だったら僕の危険よりもそっちが困るの。だってね、僕はどうしようもなくラクロア様が大好きなんだもの。




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