辺境の地へ飛ばされたオメガ軍医は、最強将軍に溺愛される

夜鳥すぱり

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いつの間にか眠っていたリズは、目を覚ました。

「あれ?なんか、静か」

さっきまで、風と、砂と、ラクダの嘶きと、大勢の声で辺りは騒然としていたはず、ぼんやりとしていると、頭の上から声がした。

「おきたのか?」
「あ……リュカさん、ぼく、寝てました?すみません」
「つかれたんすかね」
「はぁ、僕、旅は実ははじめてで」
「そうっすか」

いつもの調子のリュカの何も気にしないような返事に、リズは、くすっと笑った。

「リュカさん、僕、あまりまだお金をもってないんですけど、立派な医者にはなれないかもしれないけど、頑張ってお金を稼ごうと思います」
「へぇ」

「だから、リュカさん、あの、あのね、僕に雇われてくれませんか」

「どういう意味すか?」
「終身雇用をお願いしたいんです」
「……」

リュカが遠い目をする。何故だろう、何か間違っただろうか?リズは、うずうずとリュカの返事を待っている。ふっと、溜め息を小さく吐いたあと、リュカにしては優しい声をだした。

「終身雇用って、ずっとすか?」
「ずっとです、終身なので」

これは押したらいけるのではと、リズは、キラキラとした目でリュカを見詰めた。

リュカは、変なものをみるような、面白いものをみるような、何かを我慢した笑いを含んだ顔をしている。

イケメンさんだなと、リズは、改めて間近にある顔をじっと見詰めた。切れ長の一重は、時々鋭くて、でも怖いと思ったことなくて、贅肉の一切ない筋肉質な頬、形の良い額にかかる黒髪もさらさらで、何より誰より良い匂い。

その顔が、徐々に近づいてきて、リズの唇にチュと重なった。


「へ?え?」


ポポポポとリズの顔が赤らんだ。いままで、見詰めていたリュカの顔が急に見れなくなった。

バッと、下を向いて顔を両手で隠した。

(あれ?なんか僕、変かも、なんか、なんか、凄く恥ずかしい)

「ずっと」

リュカが呟いて、ポスッとリズを抱きしめた。

「ずっとあんたと一緒にいれるなら、なんだっていいっすよ」
「ふぇっ!?え、良いんですか」
「あぁ」
「よ、良かったぁ?」

嬉しいはずだし、嬉しいのだけれど、何だか頭が混乱して、リュカと離れなくて良くなって安心したのに恥ずかしくて、良かった良かっためでたしめでたしと云う気持ちとは違うなにかが心のなかで渦巻いていた。


「体調が落ち着いたなら、そろそろ行くっすか」
「はぃ」

よろろっと、立ち上がっると、リズの腰を抱いたままのリュカに違和感を覚える。

(なんか、リュカさん近い)

「どうした?抱くぞ」
「ふぇっ!!」

ひょいっと抱き上げられてラクダへ乗せられた。

(あ、抱くって、持ち上げるって意味……はっ!!ぼ、ぼぼ、僕は何を考えて、そりゃ、リュカさんに抱きしめられたら安心するし嬉しいけど、けど、けども!!あれ?そういえばさっきの)

顔がマグマになったみたいに、グツグツと湯だるようで、リズは、手の甲で何度も頬を押さえた。少しでも熱が逃げれば良いのに。

「ここからオアシスまで一晩ってとこっすから」
「あ、はぃ」
「どうした?声かけただろ、また驚いたんすか?」
「え」

優しく頭をなぜられて、リズは、前にラクダに乗せるときは声をかけてと騒いだ事を思いだし、それをリュカが守ってくれたのだと理解した。

「驚いてないです、ありがとうございます」
「ん」

さっと、リュカがリズの後ろへ乗ると、ラクダはまたゆらゆらと歩きだした。月明かりに照らされ、道なき道を、ゆらゆら進みながら、リズは、今までに感じたことない幸福感を感じていた。

(何でこんなに幸せだって思うのかな、なんか心の中がふわふわで、嬉しくて、すごい嬉しい、嬉しいしかない)

リュカの腕が自分の腰に巻き付いていて、しっかりと支えてくれてる。安心してこてりと頭をリュカの胸にくっ付ける。

(すごい幸せだ、僕、リュカさんのことが大好き)

ことりと、心の穴に、ピースがはまったような気がした。

そうだ、好きなのだ、たった数日間一緒にいただけだけれど、もうずっとこの先離れたくないと思うほど好きなのだ。

(僕、リュカさんが好きなんだ、だから今、幸せなんだ、すごい、嬉しい)

終身雇用の約束もしてくれた。後は頑張って医者として成果をだして、お金を沢山稼いで、二人で生きていけたら。

大きな家は買えないかもしれないけど、軍医の任期が終わったら、こじんまりとした家をクライスか、ミルルに買って、そこで診療所を経営しても良いし、毎日ご飯一緒に食べて……。

(あれ、でもご飯、僕作れないから、メイドが居ないとだめだな)

メイドさん1人雇うのにいくらかかるのか。リュカに給料の全てを渡そうと思っていたが、メイドさんのお給料もださないといけない。

軍医の給料は、危険手当が付くから、普通より高給取りなはずだけれど。

「足りるかな」
「なんすか?」
「いえ、足りるように頑張ります」
「?」

腕の中でなにやらうーん、うーんと考え込んでいるリズを、生暖かい目でリュカはみつめていた。


砂漠の夜空はとても綺麗で、星星があちらこちらで瞬き、流れていく。ずっと見ていても飽きない。圧倒的な美だ。砂漠の夜空がこんなに明るく綺麗だなんて知らなかった。

「綺麗ですね、リュカさん」
「あぁ」
「こんなに綺麗な夜空を見たのは初めてです、凄いですね、ねぇ様にも見せてあげたいな」

もしも、叶うなら、ねぇ様以外の兄様達や、お母様、お父様にも見せたいとリズは、思ったが、だがリズが提案しても皆はどうでも良いと思うかもしれない。

家族皆アルファで、オメガのリズとは思考も感じ方も違う。1人だけの異物さぞかし扱いに困ったことだろう。

「僕ね、家族の中で1人だけオメガなんです」
「へぇ」
「誰も僕に頑張れって言わない、無理しなくていいって言うんです、それって頑張るだけ無駄と言われてるのと同じに聞こえるんです、だから僕、大学は勉強頑張りました、ずっと本を読んでできるだけ練習して、できる限りの時間を使って勉強しました、でも、兄さまも、ねぇ様も、凄い速さでどんどん難しい手術したり先に進んでく、兄さま、ねぇ様が努力してないはずないって解ってるんです、解ってるんだけれど、差が埋まらないのが苦しかった」

「でも、こんな綺麗な星空みたら、なんだかそれぞれで良いんだと思えました、僕はのろまだけど、僕の出来ることを一生懸命やればいい、比べてつらい気持ちになってたのは勝手な僕の卑屈さだったかなって」

「あんたは、がんばっただろ、飛び級2回もして首席で卒業してる」
「え?」
「あんたは、もっと好きなだけがんばれば良い、あんたが頑張れば、多くの人が助かる、それに真面目で優しい医師がこんな辺境の地に来てくれて俺は嬉しい」

リュカは、真っ直ぐに真摯な瞳でリズを捕らえた。リズは、てっきり、ふーん、とか、へーって返事が返ってくると思っていたので、真面目な返事に戸惑った。

「リュカさん、僕のこと知ってたんですか」
「うん」
「2回飛び級したの、僕、本当に頑張ったんです、難しい勉強いっぱいしました」
「うん」

認めて貰えたことが嬉しかった。無理しなくていいと言われるより、ずっと嬉しかった。

「僕、サララでもっと頑張ります、病気も怪我も薬についてももっと勉強します」

「あぁ」

「本当言うと、怖いと思ってました、僕なんかが、軍の医師でもしも助けられなかったらって、僕の判断が間違って多くの人がなくなったらって」

「うん」

「でも、やれることを、最善を尽くすだけですね、そこが何処だろうと、僕がやることは何も変わらない」

リュカの顔を見ながら、思ってることを全部吐き出した。リュカは、だまって、ずっと話を聞いてくれた。その、優しい瞳が、リズの瞳と重なって、気持ちが通じあえたような、心の揺れがなくなって、周りが急に透き通るみたいに、シンと静かになって、心地よく、完璧な結界みたいに、安全で、護られた空間のなか、二人っきり。

「僕……リュカさんの事が好きです」

つい、ぽろりと出た本音。リュカは驚いたのか、何も言わないでただ、らくだが、シャリシャリと砂を踏む音を聞いていた。


返事が欲しいとかそういう事ではなくて、ただ伝えたかった。知っていて欲しかった。


「俺もっすよ」

随分間が空いてから、ぽそりとリュカが呻くように呟いた。余りにリズの告白から間が空いていたので、リズは一瞬何の事か解らなかった。

「何がですか……あっ、え」
「俺も、リズが好きだから」

「ふぇっ、えっ、あ、そ、そうなんですか、えっと、あの、えっと」

「お前がいつか俺のそばにきて、俺を好いてくれるなら受けようと思ってた」

「受ける?なにを」

「結婚」
「…………え?り、リュカさん、結婚するんですか」
「うん」

リズが青ざめる。リュカが結婚するとなると、雇用はどうなるんだ?と、今さっきずっとそばにいてくれると約束してくれたはずだが、リュカの奥さんも雇ってつまり、何人で住むんだ?

「いつ……結婚するんですか」
「お前が良いなら何時でも」
「ぼくっ!?あ、すみません、あの、まだ給料ももらってないしどらくらい収入があるかまだよく解ってなくて」

初任給の半分をリュカさんに渡したら、リュカさんのお嫁さんに幾ら渡さないといけないんだ?同等の金額なら、メイドさんは雇えない、となると、家事を自分がやらなくちゃならない。

「もう少しまってもらって良いですか」
「あぁ」

バクバクと心臓が激しく鳴る。リュカのためにも結婚を待たせるわけにはいかないが、先立つものが無くては。

そういえばと、リズは閃いた。自分は腐っても公爵家の三男だ、どこか裕福な人と自分も結婚すれば、旦那さんに出資してもらえるかもしれない。

でもそんな、今までも縁談なんて来たことがなかったのに、急にそんな都合のよい相手が見つかるだろうか。

とりあえず、軍医の仕事に慣れたら、ネェ様にお手紙を書いて、いい人がいないか相談してみようと考えた。

結婚できなくても、もしかしたら、診療所への出資をしてくれる人がいるかもしれないし、もしかしたら、公爵家の三男としての相続分を先に貰えるかもしれない。もっとうまくすれば、ミルルの街の総督になれないまでも、何処かの街の領事になるかもしれないし。

とりあえず、砂漠都市サララで、一年間働いてなにがしかの成果を出すのだ。






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