春色の空

朝

朝が好きだ。

家を出て一呼吸起き、ゆっくりと深呼吸をしながら、思った。辺りはすっかりと秋めいて、金木犀の香りが漂う。少し肌寒く感じる風が体中を掠め、羽織ったブレザーを揺らす。空を見上げると雲一つない吸い込まれるような青。太陽の優しくも輝かしい光に思わず目を細める。

朝のにおいや風景に浸るようにゆっくりと歩を進め始めた。閑静な住宅街を抜けたところを右に曲がると、車通りのある大通りへと出る。通勤を急ぐサラリーマンやイヤホンをしながらスマホ片手に颯爽と歩く女性、わいわいおしゃべりしながら歩く中学生の集団。どれも毎日変わることなく見慣れている光景である。

自分も周りから見たら、こんな光景のなんの特徴もない男子高校生なんだろうな。

そんなことをふと思いながら踏切を渡り、次の角を左へと曲がると駅が見えてくる。中身の少ないスクールバックを肩にかけ直し、駅の改札へと続く階段を昇ろうとした時、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「遥斗！おはよ！」

振り向くとそこには同じ制服を着た、見慣れたにこにことした顔があった。金髪のロングヘアーと短いスカートを風に靡かせながら、見慣れた人物はこちらへと向かってくる。

「ん？どうしたの、そんなに見つめちゃって。さては今頃にして私の可愛さに気付いて、思わず見とれたな？」

近づいてくるなり、にやにやとした顔がこちらを覗きこむ。化粧はばっちりでワイシャツは第2ボタンまで開けられ、少し肌の見えるところから赤いストライプのネクタイがゆるく縛られている。ぱっと見ギャルっぽくも見える、今どきの女子高生である。
言われた言葉には何の反応もせず、俺はぼそっと呟くように彼女に言ったあと、改札へと向かう階段を再び昇り始めた。

「…寝癖ついてるぞ。触角みたいな。」

金髪ロングヘアーのてっぺんにはあほ毛のようにぴょこんと跳ねた髪が歩くたびゆらゆらと揺れていた。
彼女はその言葉を聞くなり、顔を真っ赤にしたかと思うと慌ててスクールバックから手鏡を取り出し髪の毛を抑えている。
俺が階段を昇り終えた時、再び後ろから声が聞こえた。

「もう！はやく言ってよ～！恥ずかしいじゃん！」

そう言いながら階段をかけ昇り、俺の肩をばしんと叩いた。けっこうな力で叩かれて意外と痛い。振り向き真っ赤になった彼女を見て、半分笑い、半分呆れながら俺は言った。

「おはよう。佳月。」