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第二章 帝国編
第2話 来訪した姫は波乱を悟る
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一方、シェイラの方はといえばー…
こちらでも早くから問題が発生していた。
『空いている部屋がないとは一体どういうことですか!!?』
ルードと別れ白磁宮とは別の建物、所謂後宮へとルードが護衛として付けてくれたガドと侍女・モリーに案内されてきたシェイラだったが。
後宮の入り口に差し掛かるや、ザムアという名らしい年若い女官長より告げられた言葉に、ルード直属侍女にして白磁宮の侍女頭であるモリーが激怒していた。
後宮ー…
代々皇帝の正皇妃並びに側室とその子らが住う場所であるここは現在全室空室の筈。
先帝の正皇妃は先帝が帝位をルードと譲ったと同時に
すでに先帝とともに新しく建てられた宮へと住まいを移している。
それ故に独身且つ婚約者すら決めていなかったルードの後宮に人がいるはずもなく、ましてや空室がないなどということはあり得ないことなのだ。
そして極め付けとばかりに。
いるはずのないこの宮の女官長が偉そうにシェイラ達の宮入りを拒否した事が、皇帝であるルードからシェイラの宮入りと世話を任されたモリーの逆鱗に触れたのだった。
『皇帝陛下は未だ未婚であらせられます!!
私は陛下の命によってこちらのシェイラ様を宮入りさせるよう仰せつかっているのですよ!!?
…大体ザムアさんと言ったかしら?
貴女は一体どこの、誰の女官だというのですか?
ましてや女官長などと……白磁宮で侍女頭を務める私すら顔も知らない貴女は誰の許可を得て後宮にいるのですか!!』
正皇妃や側室につく女官は白磁宮の侍女より選出される。
故に、不在だったとはいえ侍女頭を務めるモリーの許可もなく女官になった人物など、
ましてや彼女が顔も知らない女官などいるはずもないのだ。
眉間に青筋を立てて一気に捲し立てたモリーの剣幕にたじろいた様子のその女官長は、しかしすぐに持ち直すと、ふん!と小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
『私はゲルムス子爵家の長女。
この度正皇妃様にお目をかけて頂き、直々に後宮の女官長に任命されたのですわ!!
貴女こそ突然やってきて貴族であり女官長である私に無礼な物言い!!
挙句に陛下の命でのその程度の身なりの令嬢を宮入りさせるなどと、
そのような世迷言……!
私に文句をつける前にそれが真実であるという証拠を見せて頂きたいものですわ!!』
ブチィィッッ!!
『え?
何ですって?
私の顔も名も知らぬ人間が、陛下の命を嘘呼ばわりするとは。
ー……よくぞほざいたものですわ』
『っモリー、落ち着いて!!』
ゆらり……と身体を左右に揺らしてザムアへ間合いを詰めていくモリーの不穏極まる様子に、
流石に黙っていられなくなったシェイラは制止の言葉をかける。
『いいえ、どうかお止めにならないで下さいシェイラ様。
このような躾の足りていない駄犬……もとい女官には“教育的指導”をしなくては。
身なりだけで人を見下す浅慮さと浅ましさ……
この皇宮にあって己の身分を論う礼節の無さ……
陛下の命令を軽視するその不敬極まる姿勢……
不肖このモリーめが……。
す べ て 矯 正 し て さ し あ げ ま す わ』
『モリーー!!』
カッ!!となんか光線を発しそうなほど刮目したモリーを止めようと差し伸べた手は虚しく空を切り、彼女がザムアに躍り掛かる様を目に………することは幸いにしてなかった。
『はい、そこまで。
………ったく、少し落ち着けご両人』
側でことの成り行きを静観していたガドが、モリーの肩を掴んで止めたからだ。
モリーを注視していたとはいえ、目にも止まらぬ速さで彼女に接近して止めたガドの手腕にシェイラは一瞬状況も忘れて感心してしまった。
不服そうにしながらもガドに頭を下げて一歩後退したモリーをチラリと見やると、
シェイラが一度も見たこともない引き締まった軍人の顔でザムアに向き直る。
『お初にお目にかかる。
私はガルディアス・デル・ゴードン、皇帝陛下の近衛と帝国騎士団長を兼務している者だ。
先程このモリーが述べたことは真実であることを私が証明しよう』
『な、なんっ』
『それともー……私の発言にも証明とやらが必要か?
どうしても必要とあらば陛下や騎士団に問い合わせて頂いても一向に構わないが……。
然りとて私も陛下の命あってこの場までかのご令嬢を護衛してきた身。
そうまで疑われた末に陛下に御目通りすれば、
此度の貴女の差配について報告をせねばならなくなるがさて…如何か?』
『っっ!!!
………こちらこそ、ぶ、不躾な物言いをし、申し訳ございませんでした……』
『左様か』
うむ、と仰々しく頷きちらりとこちらを見たガドがパチリとウィンクを飛ばす。
(ありがとうございます ガドさん)
ガドの仲裁によって場が落ち着いたところでようやく、シェイラ達は状況確認を進める事が出来たのだった。
そうして明かされた後宮満室の理由といい、
先程の諍いといい。
シェイラは帝国に入って早々、自身が波乱へと身を投じることを悟り、
静かにため息を漏らしたのであった。
こちらでも早くから問題が発生していた。
『空いている部屋がないとは一体どういうことですか!!?』
ルードと別れ白磁宮とは別の建物、所謂後宮へとルードが護衛として付けてくれたガドと侍女・モリーに案内されてきたシェイラだったが。
後宮の入り口に差し掛かるや、ザムアという名らしい年若い女官長より告げられた言葉に、ルード直属侍女にして白磁宮の侍女頭であるモリーが激怒していた。
後宮ー…
代々皇帝の正皇妃並びに側室とその子らが住う場所であるここは現在全室空室の筈。
先帝の正皇妃は先帝が帝位をルードと譲ったと同時に
すでに先帝とともに新しく建てられた宮へと住まいを移している。
それ故に独身且つ婚約者すら決めていなかったルードの後宮に人がいるはずもなく、ましてや空室がないなどということはあり得ないことなのだ。
そして極め付けとばかりに。
いるはずのないこの宮の女官長が偉そうにシェイラ達の宮入りを拒否した事が、皇帝であるルードからシェイラの宮入りと世話を任されたモリーの逆鱗に触れたのだった。
『皇帝陛下は未だ未婚であらせられます!!
私は陛下の命によってこちらのシェイラ様を宮入りさせるよう仰せつかっているのですよ!!?
…大体ザムアさんと言ったかしら?
貴女は一体どこの、誰の女官だというのですか?
ましてや女官長などと……白磁宮で侍女頭を務める私すら顔も知らない貴女は誰の許可を得て後宮にいるのですか!!』
正皇妃や側室につく女官は白磁宮の侍女より選出される。
故に、不在だったとはいえ侍女頭を務めるモリーの許可もなく女官になった人物など、
ましてや彼女が顔も知らない女官などいるはずもないのだ。
眉間に青筋を立てて一気に捲し立てたモリーの剣幕にたじろいた様子のその女官長は、しかしすぐに持ち直すと、ふん!と小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
『私はゲルムス子爵家の長女。
この度正皇妃様にお目をかけて頂き、直々に後宮の女官長に任命されたのですわ!!
貴女こそ突然やってきて貴族であり女官長である私に無礼な物言い!!
挙句に陛下の命でのその程度の身なりの令嬢を宮入りさせるなどと、
そのような世迷言……!
私に文句をつける前にそれが真実であるという証拠を見せて頂きたいものですわ!!』
ブチィィッッ!!
『え?
何ですって?
私の顔も名も知らぬ人間が、陛下の命を嘘呼ばわりするとは。
ー……よくぞほざいたものですわ』
『っモリー、落ち着いて!!』
ゆらり……と身体を左右に揺らしてザムアへ間合いを詰めていくモリーの不穏極まる様子に、
流石に黙っていられなくなったシェイラは制止の言葉をかける。
『いいえ、どうかお止めにならないで下さいシェイラ様。
このような躾の足りていない駄犬……もとい女官には“教育的指導”をしなくては。
身なりだけで人を見下す浅慮さと浅ましさ……
この皇宮にあって己の身分を論う礼節の無さ……
陛下の命令を軽視するその不敬極まる姿勢……
不肖このモリーめが……。
す べ て 矯 正 し て さ し あ げ ま す わ』
『モリーー!!』
カッ!!となんか光線を発しそうなほど刮目したモリーを止めようと差し伸べた手は虚しく空を切り、彼女がザムアに躍り掛かる様を目に………することは幸いにしてなかった。
『はい、そこまで。
………ったく、少し落ち着けご両人』
側でことの成り行きを静観していたガドが、モリーの肩を掴んで止めたからだ。
モリーを注視していたとはいえ、目にも止まらぬ速さで彼女に接近して止めたガドの手腕にシェイラは一瞬状況も忘れて感心してしまった。
不服そうにしながらもガドに頭を下げて一歩後退したモリーをチラリと見やると、
シェイラが一度も見たこともない引き締まった軍人の顔でザムアに向き直る。
『お初にお目にかかる。
私はガルディアス・デル・ゴードン、皇帝陛下の近衛と帝国騎士団長を兼務している者だ。
先程このモリーが述べたことは真実であることを私が証明しよう』
『な、なんっ』
『それともー……私の発言にも証明とやらが必要か?
どうしても必要とあらば陛下や騎士団に問い合わせて頂いても一向に構わないが……。
然りとて私も陛下の命あってこの場までかのご令嬢を護衛してきた身。
そうまで疑われた末に陛下に御目通りすれば、
此度の貴女の差配について報告をせねばならなくなるがさて…如何か?』
『っっ!!!
………こちらこそ、ぶ、不躾な物言いをし、申し訳ございませんでした……』
『左様か』
うむ、と仰々しく頷きちらりとこちらを見たガドがパチリとウィンクを飛ばす。
(ありがとうございます ガドさん)
ガドの仲裁によって場が落ち着いたところでようやく、シェイラ達は状況確認を進める事が出来たのだった。
そうして明かされた後宮満室の理由といい、
先程の諍いといい。
シェイラは帝国に入って早々、自身が波乱へと身を投じることを悟り、
静かにため息を漏らしたのであった。
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