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その6 森を出ることにしました。(プラス猫サイド)
しおりを挟む黒猫・アルフside
トコトコトコ…
テクテクテク…
「ー…おい」
「……」
「ルーシェ…いい加減その辛気臭い顔をやめたらどうなのだ?」
「……あい。すみません猫ちゃん様」
「だから俺は猫ちゃんじゃなくてアルフと呼べと…ああ~もういい分かった猫ちゃん様でもなんでも好きに呼ぶがいいわ!」
「!!はいっ猫ちゃん様♪」
(なんとも調子のいい娘だな…)
真昼であるにも関わらず鬱蒼としてあまり陽の光が差し込まない陰鬱とした森の中。
荷をまとめ、少女の拠点としていた大樹から離れて歩く中、
自身の許しの言葉に途端先の説教も何のそのと活発な調子を取り戻した少女・ルーシェ(ルシェルディアというらしい)を横目に、無駄とは知りつつも小さく嘆息する。
このルーシェなる少女、
出会ってからこっち、というより何もかもが人間の、しかも貴族令嬢として異質である。
魔窟に追放されたというのに呆気からんとしているその様といい、その中で危険極まる夜から今日の昼間の間に大量の食料を収集する手腕といい、年齢の割に幼すぎる見目といい、幼い見た目に反して発育の良すぎるむ…
(…いやいやいや!何を考えているんだ俺!?
こんな子供子供した少女を相手に一体何を考えて!??
いや確かに?あまりお目にかからない程美しい翠色の長い髪と瞳だし?
顔つきも非常に整っていて甘くて好ましいといえばそう…。
……よそう、なんか自分が人でなしに思えてきた)
いやまぁ、人でなしもなにも、現に今は猫である訳だし、と誰にともなく言い訳をしつつ、ふと湧き上がりかけた不毛な煩悩を振り払うと次第にスキップをし始めたルーシェと並走する。
兎に角、結論。
彼女は、ルーシェは異常だ。
現に今も、大量に収穫した食料品を無理やり手持ちの麻袋に詰め込み、どう考えても重量過多なパンパンに膨れ上がったそれを軽々と肩に担いだまま飛び跳ね、疲れる様子が微塵もない。
(…おそらく、身体強化術、だろうが…。
齢16になったばかりの貴族令嬢が大の大人、それも熟練の魔法使いでさえ長時間維持するのが困難な程魔力を食うそれをこうも気軽に使い続けていることの不自然さ半端ないなぁ…)
そんなことを考えている自分も身体強化を使い続けているのだが。
逆を言えば、身体強化を使わねば少女のスピードについていくのも厳しい故だからだ。
用事が済んだ後家までのショートカットをすべく魔窟へと入り、不覚にも空腹で動けなくなったとはいえ。
何故こうなった?と頭を悩ませてしまう現在少女と爆走中、黒猫・アルフなのだった。
==================================
(ふんふふ~ん♪
にゃんこ…猫ちゃん様と一緒!)
一方ご機嫌でスキップ(と本人は思っているようだが側から見れば爆走)中のルーシェことルシェルディア。
説教の後、こんな物騒な森で女1人で暮らすなんて非常識だ!
との猫ちゃん様ことアルフの至極真当な指摘に対して。
“国から追放されたんだからここ以外行く場所がない”という、
これまた彼女の状況的にそのままな正論を聞いて呻いたアルフが提案したのが、他国ー…広大な森である魔窟を国境に挟んで存在する隣国の一つにして大国、スレイレーン王国へと向かい、そこで生活の基盤を作るといったものだった。
ースレイレーン王国ー
良質な魔鉱石や鉄などの鉱石が採掘される鉱山を領土に多く持ち、領土自体も広大、果ては港まで保有するほどの栄えある王国。
過去、ルシェルディアそ生まれたコラルド帝国もその豊富な資源目当てに戦争を仕掛けたことがあり、その尽くを退けてきた強国には一つ、必勝且つ公然の秘密がある。
それはー…王族が代々、ある特殊な体質を持ち合わせていることにある。
が、それは公然の秘密とされるが故に、休戦して同盟が結ばれて長くの時間がたった今となっては眉唾、真偽も定かでない単なる噂と化していた。
ー…その国に住まう国民と王族以外には。
(スレイレーン王国ですかぁ~。
確か以前お爺様が“お婆様の件がなかったならあちらに住みたかったと仰っていたような…?
お爺様がそう評するほどですからさぞ居心地の良い国なんでしょう!!
楽しみです!!)
何やら自身の祖父母にとって因縁がありそうだということは見事にスルーして、
まだ見ぬ王国にわくわくと期待を滲ませるルシェルディア。
その浮き立つ心を反映してか、冷や汗を滲ませている隣の黒猫に気付くことなくスキップの速度は上がっていき…
そう時間をかけることなく魔窟(知らぬ間に国境も)を抜け、
王国の領土内である穀倉地帯を抜け。
その間2度の食事と一晩野宿をし。
翌日には、聳える鉱山の中腹から、
スレイレーン王国王都を見下ろして歓声を上げた。
「スレイレーン王国、到・着!!」
「いやもうとっくに王国に入国していたぞルーシェよ…」
むん!!と胸を張ってバッ!!両手を広げた少女に向けて、
身体・精神共に疲労困憊でよろよろと座り込んだ黒猫がぼそりと呟いた。
ルシェルディア・レイブンがコラルド帝国より追放されてよりたったの2日目にして、
非常識な少女は王国のどこの検閲を受けることなく、
これまた非常識な方法で王都入りを果たしたのである。
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