追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その9 いよいよ入城なのです!

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黒猫アルフこと猫ちゃん様(だから逆だって)に連れられて、
やってきましたスレイレーン王国王城!!


俺の家、と目前に聳え立つ大きな城をそう紹介されて暫く身体機能が全停止したルシェルディアだったが、やはりというかなんというか。

(~♪)

そこはそれ、魔窟へ追放されてもルンルンと鼻歌混じりにスキップ(という名の爆走)をしていた非常識の塊、究極の楽天家。
帝国のそれとはまた違うその美しい建築様式や城の周りを取り巻く綺麗な花々に、再起動早々テンションはダダ上がり。
黒猫が城を家と評したことにまるでツッコミを入れることなく、これまたルンルンと楽しげに鼻歌を歌いながら軽やかな足取りで城門へと向かっていく。
先導して地を歩くアルフがこいつ本当にブレねぇな…と呆れ混じりに苦笑していることなど当然知らず、あっという間に入城前の検問へと到着!

一方検問に常駐している騎士達が困惑を隠せないでいた。
それもそう、誰から見ても上機嫌な袖無しドレスを着込んだ、愛らしい容姿ではあれど珍妙な服装の少女とただの猫にしては少々サイズが大きい黒猫が一直線に検問へと向かってきたのだから。

やがて目前にて足を止めた1匹と1人に、しかしそこはそれと1人の騎士が職務を遂行すべく同じ目線まで腰を折りながら声をかけた。
それにしては通常業務時より随分と優しい声色ではあったが。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん?ご両親…えと、お父さんかお母さんはどこかな?
それとも迷子かな??」

騎士の優しい問いかけに対してしかし少女は理解できないように黒猫と騎士を交互に見やった後、コテンと小首を傾げた。
あまりお目にかかったことがない見事な翠色の髪がふわりと揺れ、愛らしい顔の中でも存在感のある大きく潤みを帯びた翠の瞳に見つめられ、自身も幼い娘を持つ身であるその騎士は思わずデレッと脂下がった笑みを浮かべる。
が、隣に立つ同僚に咳払いとともに脇を小突かれ正気に戻ると、困ったように少女を見つめる。

「あのね、ここには許可された人や、偉い人しか入っちゃ駄目なんだよ?
だからお嬢ちゃんとその猫君を入れるわけには…」

優しく少女に家へお帰り、と諭そうとした瞬間、その声は聞こえてきた。


「貴様、誰に物を言っている?」と。

「「ん?」」

低い、男の声。
同僚と顔を合わせて辺りを見回してみても声の主は見当たらない。
気のせいかと首を傾げる騎士の耳に、先ほどより更に不機嫌さを増した声が。

「どこを見ている?下だ下。
下にいるだろう」

「「…し、下…?」」

恐る恐る下を見下ろせば、代わり映えのしない黒猫が1匹いるだけ。
では一体誰が?と再び上を向こうとして次の瞬間凍りつく。

「この城が“誰の城”か忘れたか」

ギギギ…と鈍い軋み音が響きそうなぎこちない動作で黒猫を見やる。
騎士達が凝視する中黒猫は徐に右足を掲げ、


「長く留守にしたせいかいまいち騎士達の躾がなっておらんな。
我が名はアルフレッド・スレイレーンである」

名乗りとともに露わになった猫の肉球に、スレイレーン王国の王族にだけ許された紋章が記されているのを視認すると。

「「すすすすみませんでしたあああああッッ!!!」」

大音量で叫んだ後、騎士2人は見事なスライディング土下座を揃って決めた。

「!!う~ん、10点!!」


黒猫の隣に佇む謎の少女がムン!!と胸を張ってその土下座に評価を下した。


===================================

スレイレーン王城内・とある執務室



「…ない。これはない、弟よ」

「俺も陛下に同感です、王弟陛下」

「言うな。俺自身が一番自覚していることだ」


だけど仕方がないだろう、と力なく項垂れる黒猫に、先ほど同様ボソボソと話を続ける2人はこの国の国王と宰相。
宰相の名はロキ・レガリア。
茶色の短髪を綺麗に整えた平均的身長の美青年だがその目つきは甘い顔立ちに反して厳しい。
衣服は文官そのものだが、その色はこの国の王族とその周辺に侍る者にしか単色で着ることを許されない漆黒。

そして立派な執務机の上に山積みとなっている書類を脇にどけて手を顔の前に組んで思いため息を吐くこの国の国王にしてアルフの実兄、ダンテ・スレイレーン。
ロキと同じく、いやそれよりよほど豪華な刺繍の施された衣装に身を包んだ艶のある黒髪と空色の瞳を持つ美丈夫。
が、今はその形のいい眉を軽く顰めてゆるゆると小さく首を横に振っている。

2人の呆れ果てた様子に決まり悪げに縮こまる机上の黒猫アルフことアルフレッド・スレイレーンは、側から見れば母親に叱られしょげ返る子供のようだ(猫だけに可愛さが抜けない)

しかし3人(2人と1匹?)が何故狭くもない部屋で肩寄せ合ってボソボソと会話しているかというと。
理由は明快にして単純。
ルシェルディアが同じくこの執務室のソファーでご機嫌にもお茶と菓子を食しているからだ。

彼女の上がりきったテンションは未だ下がる様子がなく、今もふんふんと鼻歌は継続中である。
同じ空間にこの国のトップ3が揃って存在しているにも関わらず。

彼女の様子を暫しじぃぃ…と凝視した後、バッ!とアルフに振り向き矢継ぎ早に小声で問い詰める。

「にしたって誘拐は不味いだろう誘拐は!!
弟よ、お前が自由奔放且つ守備範囲が広いのは非難しないが、よもや他国から成人してもいない幼い少女を己の歪んだ性癖の為に誘拐して連れ帰るとは夢にも思わなかったぞ!?」

「!!?なっ!?」

「陛下のおっしゃる通りですよ殿下!!
いくら局所的に発育がいいといっても子供!
愛らしさ満点といってもこ・ど・も!!
…他国の情勢を密かに偵察しに行ってくるなどと言って飛び出していったと思ったらそんな犯罪を犯してくるなど…。
俺は殿下に対する評価と距離感を見直した方がいいのやもしれません…」

「おい待て俺は幼女趣味の変態ではないぞお前ら!?」

「「言い訳は見苦しい(ぞ)ですよ、(弟よ)殿下!!」」


勘違いによるとんだ不名誉極まる濡れ衣を着せられそうになっている哀れな黒猫・アルフ。
話題が話題なだけに次第に声のボリュームが大きくなっていたことに彼らは気付いていなかったが、いつの間にか至近距離にまで接近していた少女…ルシェルディアがその会話に参加してきたことによって3人とも凍りつく。


「あのぉ~…国王様と宰相様、でよろしいのでしょうか…?
私は誘拐されておりませんし、何よりまず成人しておりますよ?」

「…ルーシェ、いつから会話を…」

「?猫ちゃん様、いつからも何も、最初から聞こえていましたよ?
お母様が以前、“殿方の会話を遮っては駄目よ?”と仰っていたので
極力お邪魔はしたくありませんでしたが…。
どうやら私に関して生じた誤解によって猫ちゃん様が責められているように感じたので思わず」

それにこのお部屋に案内されてこっち、未だご挨拶もしておりませんし…とのルシェルディアの至極まともな正論に、彼女以外の一同は押し黙った。
彼女が不安になって声をかけてきたのも無理はない、が。
それよりもアルフ以外の2人は別のことに戦慄していた。

(ここからあちらの応接用ソファまでそれなりに距離があるにも関わらず最初から聞こえていた、だと!?
この少女、なんて耳をしてるんだ!?)→ロキ

(この私が…ここまで接近するまで気付かないとは…一切の気配を感じなかったぞ!?
それにこのなりで成人している!?嘘だろ!!?)→ダンテ


スレイレーン王国の重鎮2人の心中は、大いにザワついていた。

少女の非常識さに既に慣れてしまった(若干クセになっている)アルフが2人に哀れみの視線を向ける中、ルシェルディアは一歩下がるとスカートの端を摘んで僅かに引き上げ、にっこりと微笑んだ。


「スレイレーン国王陛下、並びに宰相閣下。
お初にお目にかかります。
名をルシェルディア・レイブンと申します。
あ、先日母国で追放処分が下り既に国を出ていますので現在はただのルシェルディアです!
縁あって猫ちゃん様の帰還に同行させていただきました。
今後とも宜しくお願いいたします!!」

「ルシェルディア・レイブン嬢、か。
こちらこそ弟が随分と世話になったようだね。
私はダンテ・スレイレーン、こんな形だがこの国の王だ。
宜しく」

「ルシェルディア嬢、俺はロキ・レガリア。ロキと呼んでくれて構いません。
後ほど先ほど申された追放の件の含めて、
どんな縁でアルフ様と出会ったかを詳しくお話いただけると有り難いですね」

奇抜な格好の割に洗練された所作での挨拶に驚きつつも、にこやかに挨拶を返す2人。
若干一名は未だアルフの怪しい性癖に疑念を抱いているようであったが。

挨拶を済ませてニコニコと微笑み合う彼らの脇で1匹、ブルブルと身体を震わせている黒猫。

「…ブン」

「ー…ん、どうしたんだアルフ?」

「殿下?」

「猫ちゃん様??」


「れ、れ、れ」

「「「れ???」」」


「レイブンだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!?」


シャーーッッと毛を逆立たせながら、一匹の黒猫の絶叫がスレイレーン王城内を駆け巡った。



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