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その12 受付員の女性はギルド長より強いのです?
しおりを挟む所変わって、冒険者ギルド・ギルド長執務室兼応接室ー。
室内には一匹の不機嫌極まる黒猫、殺気だだ漏れな受付員女性1人、?を頭上に掲げて首を傾げる翠髪の少女、そして部屋の主人にして現在ボッコボコに顔を晴らした息絶え絶えのギルド長の計3人と1匹。
ルシェルディアは応接セットのソファにちょこんと座り、アルフはルシェルディアの膝の上、ギルド長はテーブルを挟んだ反対側のソファでぐったりとし、その背後にハリセンをペシペシさせながら佇む受付員女性。
なんとも形容し難い微妙な空気が室内に充満していた。
「…すまん、ちょっと書類仕事に嫌気がさしてな…。
気晴らしがしたかったからしてそのぉ……
はいすみません俺が悪かったからもう殴らないで下さいお願いします」
微妙な空気の中言い訳をしようとしたフルボッコギルド長(ブルゲンさんというらしい)は瞬間増し増した殺気にぶるりと震えると即言い訳を撤回して情けない声を上げた。
その威厳のへったくれもない様子に、こんな男が自国の誇る冒険者ギルドの長だなんて……と少々どころでなく呆れたため息を吐くアルフをこれまた心底不思議そうに見つめて片手で黒い背中の毛をモフるルシェルディア。
呆れ果てているのは受付員女性も同じのようで、一瞬膨れ上がった殺気は鳴りを潜めたものの、深々とため息を吐いた後、ペコリと頭を下げた。
「折角沈静化しそうだったところへ当ギルドの長が失礼を致しました」
その言葉に答えたのはルシェルディアではなく、アルフ。
「いやいい。
どちらかといえば先に非常識な行動と言動をとったこちらにこそ非がある。
俺もこんななりだしな……。
連れがどうも失礼をした」
「まぁ事実そうなのですが。
この筋肉ハゲ、失礼、ブルゲンギルド長の勝手な行動によって騒ぎが大きくなったことも事実。
これ以上あの場にいては収拾がつきませんので登録手続きの間はこちらにて待機をお願いします」
「あのぉ」
1人と1匹が粛々と話を帰結に向かわせていると、そろりとルシェルディアが声を上げた。
「ブルゲンさん?がボコボコで痛そうなんですが、大丈夫でしょうか?
そしてお姉さんは受付の方なのになんでブルゲンさんの後ろで折りたたんだ大きい魔法紙の束をペシペシしているんでしょうか?
ブルゲンさんはギルド長なのですよね?
受付のお姉さんはギルド長より偉いのです??」
「ハゲ…ギルド長につきましては心配ご無用ですよルシェルディアさん。
そして私のこの“ハリセン”につきましても同様に、一種の予定調和ですので」
「そうだぞルーシェ、そこはあえてスルーしてあげるのが大人の対応ってものだ。
それよりお前は自分の常識のなさを少しは反省しろ」
「お前らちょっと酷くね??」
「う~ん、常識、ですか…。
そもそも何が非常識なのか、皆目見当もつきません。
冒険者になるということがかくも大変なことだとは。
(そしてつまりはやはりギルド長よりお姉さんが強いのですねわかりました)」
「「いや常識のなさに冒険者は関係ない(です)」」
「む?」
黒猫と受付員女性に声を揃えて言われ尚も?を頭上に浮かべたままのルシェルディアに、
がくりと脱力する面々。
問題の当人の膝の上で唸る黒猫とは逆に、そこは流石は荒くれ者の冒険者専用の受付員。
すぐに涼しげな顔と口調へと切り替えた。
「そういえば申し遅れておりました。
私、エンヴィエルと申します。
気軽にエンヴィとでもお呼び下さい、ルシェルディアさん」
「ふむ?あ、ご丁寧にどうも、ルシェルディアっていいますエンヴィさん!
私のこともルーシェと呼んでください、名前長いんで」
「ふふ、わかりました。
これからよろしくお願いしますね?
ー…ところでよくこれが魔法紙だと分かりましたね。
結構希少な上、普通の紙とあまり見分けもつかないはずなんですが」
ひょいとエンヴィエルが掲げたハリセンにびくりと震えたブルゲンに気づかないまま、ああそれはとルシェルディアが答える。
「お母様がよく生成・使用していたので。
よく“長持ちする呪いとか浄化には魔法よりこちらに陣を描いて投げた方が使い勝手が良いわよ”とおっしゃっては、お父様が付き合いで色街に行った翌日などに背中に投げて貼り付けていましたものです!」
「「「は?」」」
ぽやっと何気なく告げられた言葉に一同が凍りつく。
魔法紙とは、高度な腕を持った魔法技術士が特殊な樹木を超難解な魔法工程を経て極々少量しか生成出来ない特殊な紙で、主に国家間の取り決めや重大かつ大口の商談にしか使用されない。
それを生成?よく使用?意味がわからない!
(約一名が自身も気軽に使用していることを棚に上げつつ)一同が驚愕する中、少女の口は止まらない。
「5歳の時に“国から面倒臭いことを頼まれたから一緒にお散歩にいきましょう?”とお母様に誘われてエルゴゾル大墓地へ向かった時も紙吹雪のようにお墓やヘルゴースト、ビースト、ナイト関わらず投げて貼り付けてましたし…
…あ!お父様が他の貴族女性に言い寄られてデレデレ?してた時には魔法紙で作った紐でお父様をグルグル巻きにして屋敷のバルコニーから吊るしていました!
結構頑丈な上段々と締まっていくらしく、あの腕っぷし自慢のお父様が泣いて“許して下さい!”と三日三晩嘆き続けていたのは今でも忘れられませんね!!」
ー…エルゴゾル大墓地。
それは高レベルのゴースト群が大量に際限なく沸き、
徘徊し続ける帝国領に存在する広大な死地。
数年前とある人物に浄化されるまで、
冒険者はおろか国直属の精鋭ですら結界を張り近づくことすら恐れたその地を、散歩、だと?
挙句、紙吹雪の如く希少なで高価な魔法紙を使いまくっていただと……??
魔法紙って色んな使い方があるのですね!あの時は~…と楽しげに思い出話に浸っているルシェルディアは気づいていない。
ヘルを冠するゴースト系がいかに危険極まる存在で、
それらが群れる中を散歩と称して闊歩することの非常識さを。
そして話が進むにつれて冷や汗の量が増していくギルド長と受付員女性、そしてその2人からルシェルディアの出自について説明しろ!!と凝視されまた冷や汗を流し、そぉっと顔を逸らした黒猫の微妙すぎる様子を。
その後ー。
書き込んだ書類と証明書を元に作成された冒険者タグを別の受付員女性が部屋へと持ってくるまで黒猫アルフへの追及は続き。
「失礼致します。登録が完了しましたのでタグを」
言葉とともにタグを持って入室した受付員女性の目の前には、
ぐったりとソファへと撃沈する2名と1匹、そして
「ふむぅ……どうやら猫ちゃん様もブルゲンさんもエンヴィさんも。
一体どうしたんでしょうか……。
いや、きっと昨日よく睡眠を取れなくてお疲れなのですね!」
しっかりとした睡眠が健康の秘訣ですよ!!と誇らしげに発育のいい胸を張る少女を目にして、どういう状況!?
とタグを載せたトレーを持ったままその場で石化した。
結局のところこの場の誰よりも最強たるは、
1人黒猫を抱えたまま誇らしげに笑む翠髪の少女なのかもしれない……。
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