追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その25その1 混沌と化した冒険者ギルド(泣)

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(スレイレーン王国・冒険者ギルド)



「まだそのローブ女は見つからないのかしら?」


その日の冒険者ギルドは、ここ最近ピリピリと張り詰めた空気が充満していた。
他ならぬ、有能なるギルドの受付員・エンヴィエルと彼女が率いる他の受付員女性によって。

今も、いつもは使用時以外どこかしらに隠している魔法紙で出来た特製ハリセンをペシ、ペシと手で打ち鳴らしながら受付の隅で足を組んで鎮座している。
周りにも同じく目を血走らせた女性職員達がギルド内を睥睨しており、
普段は己の腕っ節に自信を溢れさせて肩で風切る荒くれ冒険者達も
受けたい依頼を受理しに行くどころか、顔を強張らせて遠巻きに様子を伺っている。

主に男性冒険者が、非常~に、気まずげな様子で。


「お、おいエンヴィ…俺も帰ってきたばかりでいまいち様子が分からんのだが。
そんなに怒りを撒き散らしていたら皆依頼を受けられな」

ギルマスばかは黙っててもらえます?」

「あ、はい。すんません」

ギルドの長として、
そして肩身の狭い男代表としてかの怒れる女史を宥めようと試みた
ギルマス・ブルゲンー…秒で撃沈。

しおしおと項垂れるガタイばかりのいい馬鹿ブルゲンを殺気を込めた一瞥で黙らせると、続けてギルド内で同じく身体を縮こませている冒険者達をぐるりと一周見渡してため息を吐く。


「現在我がギルドは男性冒険者達がどこぞのの女1人にこぞって腑抜けにされるという事態が多発し、未曾有の運営危機に瀕しているのです。
……この私が貴方から受けた所用で他国へ足を伸ばして
留守にしていなかったら決して許さなかった事態です。

戻り、事態を把握した今。
その元凶たる女性を放置しておくわけがないでしょう!
皆の話によるとずっと酒場に入り浸っていたはずなのに何故かとんと姿を現しませんが。
明日はもう、祭り(※収穫祭)の前夜祭だというのに………

ちっ、どこ行きやがった」

最後、ボソリと呟かれたとんでもなく腹に響く低音での悪態・舌打ちとともに彼女と女性職員達からギラリと鋭利な視線で撫で斬りにされ、
戦慄する冒険者(男)達。

例のローブを着込んだ女性がギルドの酒場に入り浸っていた時、頭にモヤがかかったように思考がぼやけ、彼女が何故か地上に降り立って女神が如き女性だと盲信してしまった。
そしてその際に嗜めたり心配の声をかけてくれた女性職員達を、
かーなーり雑に扱ってしまったが故の気まずさが、男達の態度の根底にあるのは間違いない。

更に悪いことに。

件のローブ女がギルドに来なくなったと同時に目が覚めた男と、正気を失った男に彼らの症状が真っ二つに割れており、尚且つ目を覚ました男達は彼女の名前も、覗き見たはずの容姿も、出身地も、何も。
何も覚えていなかったのである。

この症状は明らかに精神に作用するなんらかの魔法による後遺症であり、
それがギルド内で堂々と悪用されたのだ。
エンヴィエルが犯人探しに躍起になるのも当たり前ならば、
いつも偉そうにしているくせに本当男使えない、と女性らから冷たい眼差しで睨まれるのも必然なのであった。

そして女史の機嫌が殊更悪い理由。

実はこの女史・エンヴィエル、そのローブ女に些か心当たりがあったのだ。
女史がギルマスに押し付けられた所用というのがそもそも、
獣化した王弟殿下が連れてきた少女の母国へ行き、彼女を取り巻く状況ー…主に彼女が国を追われた理由を探りに行っていたのだ。

その中で彼女が婚約者とそのに冤罪をかけられ追放されたことが判明。
冤罪をかけた婚約者は鉱山送りに、そして片棒を担いだはずの令嬢は逃亡。
ただし気になるのがその令嬢の家族。
彼らはしきりに自分達は無実であり、逃亡した娘にで操られていたのだと往生際悪く牢の中で主張している、らしい(とある騎士団員からの情報)。

そんな中、スレイレーン王国に現れた余所者の、姿を隠した女。
次々とおかしくなった冒険者(男)達。
……嫌な符号が多すぎる。

(…もしもあの騎士団員の情報が、例の家族とやらの主張が本当であった場合。
早く見つけ出さないと、もっと厄介な火種になりかねません……)

表面上は怒り以外は平静を装いながら、
エンヴィエルの心中は言葉で言い知れぬ焦燥感でじりじりと焦がされていた。


ー…そうして不穏当極まりない空気と視線がギルド内に充満しまくる最中に、
1人のがギルドの大きな扉を開いたことで。

混沌の嵐は勢いを増した。


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※本日もう1話投稿します。
何となく今話と前後話になってるっぽいので!!

次話、遂に◯リーさん登場!!?
お楽しみに~♪
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