追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その33 当日祭夜会・その4〜それぞれの動向/挨拶〜

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さて。


ようやく有害なる魅了魔法の使い手・ソフィアの存在を視認したルシェルディアだったが。
当然、彼女より先にソフィアの存在を知覚・注目していた人間が少なくとも3、この会場内にはいた。

1人は言わずと知れた国王・ダンテ。
常日頃から他人の視線やその種類を敏感に感じわけ、
害となりうる人間を排除してきた国のトップのこと、当然ながら自身と婚約者へ向けられた不躾極まる視線にはすぐに気付いた。
一瞬視線を滑らせただけで誰のものであるかを確認し終え、
ス…と会場の隅にて待機していた自身の右腕にしてこの国の宰相、ロキに小さく顎をしゃくる。
それだけで上司の意図を汲み、
夜会客らに気付かれないよう会場周辺の警備にあたっていた
騎士達の細かな配置を済ませる。

そして残る2人の内1人は、その国王と宰相の動きを満足そうに見てとるや、優雅な足取りで会場から抜け出していった。
夜会だというのに殆ど露出のないドレスを着込んだその女性は、
頭部にも顔をすっぽりと覆う白いベールをかぶっていた。
それだけ特異な格好をしていれば、会場内で注目を集めそうなものだが。
しかし不思議なことに、そばを通り抜ける彼女を

スルスルと水の中を泳ぐように人混みと会場から脱したその女性は、
適当な廊下を折れて比較的大きな開き窓へとたどり着くと。
窓を開け放ってひらりとその身を外へと踊らせた。

会場があったのは二階。
平然と二階から飛び降りたその女性は、
これまた平然と綺麗に整えられた芝の上に着地した。

その時ふわりとベールが舞い、めくり上がる。
そこから垣間見えた顔はー…

「ふふっ、どうやらスレイレーン王国の方達は心配ないようですわね。
ルーシェちゃんの可愛い笑顔も、お相手の王弟様の顔もはっきりと確認できましたし…。
ご挨拶は別の機会にした方が、ルーシェちゃんとも話せそうだわ!

今回は自重致しましょう」

少々物足りないですが……
あの屑が捨て置いた殿方達に、代わりに遊び相手になってもらいましょ?

艶やかに笑んだ翠髪の死神が、
別の獲物を求めて動き出した。

死神が足を向けた先には、
スレイレーン王国冒険者ギルドが祭りの喧騒残る中、変わらぬ営みを続けていた。


※  ※  ※


最後の1人ー…アルフレッドもまた、強固に保った外面の下で、
兄や宰相、そして誰も視認することのなかった1や件の問題令嬢、ソフィアらの動向を全てその目で捕捉していた。
不可思議なベールを被った女性に関しては、何故か今は関わるな!と己の勘が激しく警鐘を鳴らしたためにそのまま放置。
兄とロキの動きも、事前に打ち合わせた通りのものだった為、
今はただルシェルディアの隣に寄り添って、
獲物が自ら網にかかるのをじっと待っていた。

奇しくもアルフレッドは知らぬ間に、ソフィアなどより余程手強いラスボスを退け、
回避することに成功していたのだが。

彼自身がその事実を理解しえたのは、もう少し後の話ー…



※  ※  ※




(Side:アルフ)


「……ルーシェ。が会場入りしている。
大丈夫か?」

いよいよ始まった、王族と貴族達の挨拶。

列を成して上位貴族家の者らから順番に挨拶がなされていく。
自らも挨拶を返しながら、相手が眼前を辞したのに合わせてルシェルディアに小声で囁き確認をとる。

パートナーとしてぴったりと寄り添って
笑顔を保ってくれているルシェルディア。
その彼女が挨拶が始まる直前に目標の方を見遣って目を僅かに見開いたことに気付いてはいたが、確認せずにはいられなかった。
何せあの女は、彼女の婚約者と母国の両方を彼女から取り上げた張本人なのだから。

しかし幸運なことに、自分の心配は杞憂だったようで。

「はい、勿論」

小さくそう返す彼女の呆気からんとした様子に、
心中で安堵の息を零した。

公爵、侯爵の貴族達が壇上を次々と辞していくにつれ、
俺は改めて腹に力を入れた。

いよいよ挨拶の順目は伯爵家。
あの女ソフィアが魔法で籠絡した三男のいる家が、
彼女を含めて列の先頭へと進み出てくる。

初めに伯爵家当主と夫人、次に長男とその妻と順番に国王と自分に頭を下げて挨拶を交わしていく。
笑顔ながらも必死に縋る内心が透けて見え、
思わず苦笑が漏れそうになるのを必死で堪える。

同時にちらりと周囲の騎士達の配置を改めて素早く再確認する。

(…よし)

指示通りの配置に彼らがついていることを確認したその時、
獲物がパートナーの腕を強引に引き摺り、眼前へと自ら進み出てきた。

欲の滲みきった眼差しで余裕たっぷりに兄と俺を値踏みする、害悪。

(自ら網にかかったのだ…逃げられると思うな)

前に立ちさえすれば自分を選ぶに違いないと信じて止まない
この度し難い屑を決して逃してなるものか。



決意と怒りからか、首の後ろがチリリと熱を帯びて身を焦がした。


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