その辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

風呂桶之水源餅

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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第93話 オジさんと言う名の紳士

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超音波振動したガラス片が盗賊の身体をズタズタにするかのように刺し貫いた。

そう、するかのように…だ。

「おー、やっぱり無傷か。影を渡ったり纏うだけでなく、影そのものにもなれるんだな。」
「まぁな。わかっててやってんだろアンタ。ちょっとムカつく…。」
「そうか!ムカつくか!まぁそれぐらいが子どもは丁度良い!大人相手にはムカついとけ!
さて、次はアンタが打ち込む番だ。来な。俺もこの翼の強度を確かめておきたい。」

盗賊が地面に手をつくと、硬質な木の根がバットに向かって凄まじい速度で伸びていく。
バットは宣言通り翼で自分の体を覆い、その木の根を受け止めるが、翼は容易に刺し貫かれていった。

「おおっと…。驚いたぞ。この翼はアーマードドラゴンの鱗レベルの強度があるはずなんだが…。
この木の根…。触れると俺の身体が焼けていくところから考えて神樹か…。大賢者様のお仲間はみんな神をまとえると聞いてたが、ここまで凄いとは思わなかったぜ。
なら、次はこいつだな。」

バットは翼の先端にある爪をパキッと折ると、魔力を通して槍状に変形させていく。

「まずはこいつ、名前をつけるならドレインランスって所かな?コイツはコウモリの能力を利用した吸血スキル持ちの武器だ。
お前さんの生命力も魔法力も霊力も触れるだけで奪っちまう。
影になろうが、触れたら終わりだ。
ちゃんとかわせよぉ?お嬢ちゃん!!」

翼で加速し、槍を携えながら盗賊へと接近するバット。
盗賊はその動きをしっかりと読みながら避けつつ、飛んでくるルート目掛けて木の根を網の目状に生やして囲い、動きを止めていく。

「動けなくしちまえば、わざわざ避けなくても良いだろう?楽勝だ。」
「その考えは間違いだ。この槍は触れるだけであらゆる力とその命を奪い取る。お前さんのこの神樹だって切り取れるんだぜ?モードチェンジ、デスサイズ-ソウルイーター-」

そう言うと、バットは槍を鎌の形に変形させ神樹を切り裂き再び盗賊の前に立つ。

「おぉ?良いねえその顔。ビックリしてんなぁ?驚いたか?ま、オジさんの方が一枚上手だったって事だ。
んで、次の形態はソウルイーター。
その名の通り、命を刈り取る鎌だ。
触れなくても、コイツのそばにいるだけでどんどん生命力を奪われていく。
んで、コイツを振り回す事で出てくる衝撃波に触れりゃ、それだけで一気に生命力を奪われる。
アンタの神樹ももう意味を成さないっつーわけだ。
ま、精々足搔けや。お嬢ちゃん。」

バットは鎌をさらに鎖鎌のように変形させて振り回し、逃げ場のない衝撃波を放つ。

盗賊はスキル 影移動によりバットの背後へと回り込もうとする。

「まぁ、こう言う攻撃をされりゃ、そうするしかねぇよなぁ?」

そしてバットはそのまま回転斬りで盗賊を切り裂いた。

かのように思われた。

「あぁ?いねぇ…。影だけ…!?なるほど。頭いいな嬢ちゃん。なら、後ろか!!あれ、いねぇ…。どこ行きやがった。」
「柱の隅にできた僅かな影だ。」

影がシュンッと伸びて、ウカノミタマノカミの神気を纏った爪がバットの背中を切り裂いた。

「ぐはぁぁっ!!やりやがるな!こいつぁオジさんもビックリだぜ!!やーらーれーたーー!!」

そしてバットはそのまま地面に倒れると自ら変身を解いた。

盗賊が殺しちゃったかな?と顔を覗き込むとうっすら目を開けて、目で「早く行け」と促す。
盗賊はそれに瞬きと言うかウインク(チャーム付き)で答えその場を後にした。

そして今ここに盗賊ちゃんファンクラブ会員が増えたことは言うまでもなかった。

「いやぁ……。しっかし、さいっこうのプリケツだったなぁ…。ありゃ将来相当良い女になるぜ…。大賢者様が羨ましいったらありゃしねぇ…。
……。あの尻を触り放題かよ。たまんねぇな…。よっし!俺も大賢者になるか!!」
「アホ言うな。て言うか、やっぱりやられたフリかお前。」
「おぉ、噂をすれば大賢者様じゃねぇか。お前の可愛い付き人は先に行ったぞ?」
「知ってるよ。ただ、盗賊ちゃんが戦っていた相手が持ってる、石の力の波動がまだ完全消失してなかったんでな。ひとまず、悪意のなさそうな敵で良かったよ。
あっちはお前さんを逃す気はなさそうだが…。」

コツコツと奥からヒールを鳴らして、スパイダーことドール屋のお姉さんが現れる。

「裏切るのですねバット。あのお方を。」
「裏切るも何も、俺は最初からあいつの味方として完全に落ちたつもりもねぇよ。お前もそうだろう。
ま、スカルの洗脳は結構キツイみたいだが…。
だけどお前、心のどっかでこの大賢者様なら救ってくれると思って、この状況なら都合が良いと思ってここに来てんだろ?だから、涙も出てんだろ?
見事に俺の計画通りだ。
さぁて…。大賢者様よ。救ってやんな。
アンタに惚れちまった挙句、その心を邪に利用されちまった可哀想なヒロインを。今度こそな。
スカルはもう俺もこの子も用済みだろう。
殺す気もなければ生かす気もない。
どうとでもなれってところだろうからな。」

ドール屋のお姉さんは無言で蜘蛛のオーガノイドへと変身して行く。
が、その姿は以前と違いまさに蜘蛛のモンスターとして有名な、上半身は人で下半身は蜘蛛そのもののアラクネの姿となっていた。

「以前と姿が違う…。まさか、フレームを奪われたのか?」
「って事だろうな…。やることがえげつねぇ。
石が胸に食い込んで心臓につながってやがる…。
まぁ、アンタならその程度どうとでもならないんだろうがよ…。
つーか、ガッツリと胸に強靭な装甲が出来てしっかりと守られやがった。
仕方ねぇ。スカルに殺されるのが嫌で死んだフリしてたが、こうなりゃあもう意味もねぇ。
俺も手伝ってやる。変身!」

バットは石の力を発動させ、再び燕尾服の執事のような姿へと変身するとコウモリを顔に押し付けて画面へと変身させて装着する。

「ふふん!どうだ!さっきよりカッコいい変身だろう!ってお前は見てねぇんだった。忘れてくれ。」
「お前、面白いやつだな。さて、行くか!」

スパイダーはその大きな8本の足で跳躍し、壁を蹴りながらこっちへと猛烈なスピードで迫ってくる。

だが、攻撃は俺ではなくバットの方へと向かっていた。

バットは天井を超音波で破砕しスパイダーの頭上へと落として一瞬だったがその動きを止める。
俺はその隙を逃さず、魔を滅する白い雷と悪しき心を浄化する青白い炎をイメージして掌に集めスパイダーの胸元へとその一撃を放つ。

雷光はそのままスパイダーの全身へと一瞬で稲光となって走って行き、青白い炎は強くスパイダーの胸元で燃え上がり、スカルがかけた洗脳の呪いを激しく燃やし尽くしていく。

「おぉ~流石だなぁ大賢者様よぉ。大胆におっぱい揉みやがって…。」
「えっ…?うわぁぁぁぁあっ!?ほんとだ!ドール屋さんごめんなさい!これはそう言うのじゃなくてだな…!!」

そして、ついにパキパキと音を立ててアラクネの身体がヒビ割れ、そして砕け散る。

砕け散ったアラクネの身体からは一糸纏わぬドール屋さんだけが残り、俺の雷光と炎はアラクネの核石をカケラすら残さず燃やし尽くしていった。

俺は全裸で俺の元へともたれるように倒れた彼女を抱きとめると、一度変身を解除して羽織っていた上着を彼女にかけてやった。

「ヒューっ。カッコいいねぇ大賢者様。紳士だねぇ。」
「茶化すなよオッさん。」
「おっさん言うな!オジさんと言いなさい!
ま、この子はあとは俺に任せときな。大好きな王子様が助けてくれたぞって、意識戻ったら言っておくからよ。」
「やかましいわ。はたくぞお前。まぁ、良いや。んじゃ頼むよオジさん。可愛いからって押し倒したりキスしたりすんなよ?」
「ハッ!吐かすじゃねぇか!オジさんはこれでも紳士気取ってんだ。女を泣かせるような真似はしねぇよ。
だから安心して行って来い。あのガキも救って、そんで、スカルの野郎をぶん殴ってきてくれ。」

俺はヒラヒラと手を振ってその場を後にする。

「おい、スパイダー。気がついてんなら一言言えば良かったじゃねぇか…。つらかったか?やっぱりよ…。」
「もちろんです…。私は…感情を利用されていたとは言え、町の人たちや彼の方に取り返しのつかない事をしました…。もし、嫌われてしまっていたらと思うと…。」
「そっか…。だが、オジさんにゃわかる。
あいつぁ、そんな事で本気で誰かを嫌いになるような薄情者なんかじゃあ断じてねぇよ。
じゃなかったら、こうやってアンタを救うために1人ここに留まるなんてしやしねぇさ…。
だから、アンタも惚れたんだろう?
ま、あの大賢者様はアンタのことを眼中に思ってるかはわからねぇけどよ。」

ドール屋は優しく微笑みながら、ただ一言呟く。

「そうですね。ですが、それでも…大好きです。
大好き…なんです…。」
「難儀な恋しちゃってまぁ…。ま、応援位はしてやるよ。」


一方、大賢者と盗賊は王室へと向かっていた皆と合流していた。

「や。お待たせみんな。」
「お帰りご主人様。ドール屋さんとは会えたのか?」
「あぁ、洗脳も解いてきた。オーガノイドの核石も破壊したしもう大丈夫だろう。」

あとは、王室にいる黒い雷帝とローブの男を倒すだけだ。
まぁ、一筋縄で行く気はあまりしてないんだが…。

「しかしアレだねぇ賢者くん。また君の奴隷を増やさないといけないねぇ…。」
「ん?なんのことだ魔女さん?」
「何のことも何も、例のドール屋さん。敵に洗脳されていたとは言えど罪人だ。それを君が救った以上は彼女の命と罪をどうするかは全て君に権利があると言うことだよ。
まぁ、魂を抜き取り人形に込めると言うのは立派な殺人未遂だ。
それが複数人だからね…。
死罪とは行かなくても数年は奴隷として生きねばならない重たい罪だ。
罪を課さないと言う選択肢はダメだよ?それでは示しがつかない。
君にとっては苦渋の決断かもしれないが、キチンと彼女の罪を受け止め、そして償わせてあげなさい。」
「して、本音は?」
「いや~、盗賊ちゃんに手強いライバル出現!みたいなことになりそうで面白そうだねぇ~♪」

魔女さんがしてやったりと言う顔でニヤニヤしている。

「んなぁ~っ!?ご主人様!わかってるとは思うが、ご主人様の性奴隷はオレ一人しか許さないからな!!
奴隷は奴隷でも労働奴隷とかじゃないと許さないぞ!!」
「心配しなくても、性奴隷なんて要らないし増やす気もないよ…。
まぁでもそうか…。この世界のルールではそう言う事になっちゃうんだな…。
ま、とりあえずそう言うめんどくさいことは戦いがひと段落したらゆっくりと考えるよ。今は目の前の事だけに集中だ。」

王室への重たい扉……の端っこにある隠し扉状態の本扉を開き、王室内へと入る。

「おやおや、もう到着しましたか。
と言うかその扉そこから開けるんですね。
いやね、転移魔法でこの中入り込んだは良かったんですけど実は出口がよくわからなくてずっと困ってたんですよ…。いやほんと助かりました…。」
「お前も緊張感ねぇな!?」
「いやぁ…。緊張感もってこう…かっこよくあなた方をよく来たなっ…!ふははははっ!みたいに迎えようと思ってたんですけど、ほんと焦っちゃって…。
バットさんとスパイダーさんは目を離してるすきに部屋を出ていってましたし…。
とりあえず、皆さん。よくぞ参りました。
いやぁ~。人質にするつもりだった姫様も消えてしまったので本当に焦りましたよ。
なのにまさか、自らおいでなさってくれるとは…。」
「人質にさせてもらえると思ってんのか?」
「いいえ?流石に私も、あなた方がそんなに甘いとは思ってませんよ。
それに、あなたがスパイダーさんの洗脳を解く事も下手すればバットさんを仲間に引き入れてしまう事も読んでいました。」

カツカツと床を靴で踏みならしながら、玉座から降りてくるローブの男。またの名をスカル。
玉座から降りると、彼はそのローブを脱ぎ顔を見せてきた。

「やはり…予想通りでしたか…。あなたの顔は、ドール屋さんの記憶消去を行なった時の王宮魔導師のそれですね…。
いつから成り代わっていたのですか?」
「およそ3ヶ月ほど前ですかねぇ?遺体をわざと目につくような場所に今朝方移動させたのも、察しの良いそちらの方々への宣戦布告のような意味合いです。
さて、色々と答えあわせしてみますか?どうぞ、聞きたいことをお聞きなさい。答えて差し上げましょう!」

姫様も色々と覚悟は決めていると言う顔だ。
気付かずにとは言えど、王宮に敵を3ヶ月も滞在させていた。少なからず罪はある。
色々と思うことはあるだろう。

「そうだな。じゃあ俺から聞かせてもらう。
ドール屋さんを2ヶ月ほど前ダンジョンの奥に放置したのは?」
「私ですよ。もともと彼女は南の大陸のエルフの都で人形師をしていたのです。
私は彼女の腕を見込んで、死を恐れぬ兵隊である魔導人形の制作を依頼したのですよ。
あなた方がオーガノイドと呼ぶ存在。
その核石を練り込んだ魔人族にも匹敵する力を持つ無敵の軍勢…。そうなるはずでしたが、彼女は拒みました。
なので、メスに飢えたオークやゴブリンの群れでいっぱいのダンジョンの奥へと飛ばしてあげたのです。
魔導人形を作ると素直に言えば助けるつもりでしたが、まぁ強情な彼女はそのまま冒険者が助けに来るまで見事に逃げ回っていたようですね。
あぁ、ちなみに彼女の貞操がどうなったかは知りません。
服は破れていましたし、ところどころ怪我はしていましたが…。」
「ゲスが…。てことは、そのダンジョン内での記憶を消すふりをしてその時点から洗脳をしていたって事か…。」
「如何にも。私の先読みの魔眼により、貴方の来訪は分かりきっていました。
ですので、西の国に送り込み貴方に関する情報を無意識で集めるように仕組んだのですよ。
そして、貴方が育つその時もじっくりと待たせていただきました。
お陰で、私はさらなる最高傑作をこの少年の手により生み出すことに成功したわけです。
あぁ、ちなみに御察しの通り彼女がこども達を手にかけようとした事や、オーガノイドの力に手を出したのは私がそうするように彼女の中の憎悪の感情を増幅させたからです。
これが、彼女に関する真実で御座います。
ご静聴ありがとうございました。」

盗賊ちゃんが俺の背後からナイフを飛ばしスカルに突き刺そうとした。

「その感情、実に素敵です。
ですが私を殺すには…たりませんね。
それと…あなた方の相手は此方に居る私の雷帝…。【クロ】の役目です。」

クロと呼ばれた少年が俺の目の前に立ちはだかる。

「大賢者…。強くなっているんだろう?簡単には負けてくれるなよ?」
「勿論だ。お前の作る作品にも敬意を評して色々とアップグレードさせてきたんだ。」

俺とクロ、二人がそれぞれのライトニングクォーツを構える。

「私含め、外野は彼らの戦いを見守るといたしましょう。巻き込まれたら、確実に死にますからねぇ…。」

そう言うとスカルは俺たち以外の全員を城の外へと転移させた。

「な…!おいお前!これはどう言う事だ!」
「どうもこうも、私も巻き込まれて死ぬのは嫌ですので…。あなた方にはここから彼が死ぬ姿を見て頂こうと思いましてね。」

俺たち側からは外へ転移させられた皆の映像が、王室の大きな窓ガラスに映し出され、外に居るみんなには城の外壁にスクリーンのように投影された映像で国中から見えるように映し出されていた。

「クフフフフッ!!では、皆の希望たる大賢者が敗れ、そして国中が絶望に染まるその時を私は楽しませてもらうとしましょうか!!」

俺はクロと向き合う。

「一応聞くぞ。この戦い、本気でお前の意思なのか?」
「あぁ。僕の意思だ。僕に負けるような奴にこの国を守る資格はない。お前がこの国を守るヒーローにでもなるって言うなら…僕を倒してみろ。」

二人のもつライトニングクォーツが光り輝きだす。

「「変身。」」

そして俺たちは互いに変身の合図を唱えるのだった。
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