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担任、井田春斗のクラス
秘密と疑い
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ひとりになった保健室で、頭を抱えていた。
去年の担任から受け継いだ資料に目を通す。
白河咲。
成績優秀。ここ、桜堂大学附属中等教育学校では、中学受験を実施しており、入学者の中でトップの成績の者は学費は免除になる。彼女はそれを利用して、入学している。
2年生に進級時にも、成績は学年上位。
おそらくこのままいけば、高等部に進学する際もトップのままで、学費の免除が望まれる。
幼い頃に両親が離婚、母親に育てられている。
去年の三者面談時、母親の意向は「本人のやりたいようにやってほしい」とのこと。
一見すると、上手くいっている家庭のようだが、昨日今日の生活記録、昼食を抜こうとしていたこと、俺に触れられた時の怖がり方を見ると、虐待の可能性が浮上している。
確信するのにはまだ不十分だが、なんとなく嫌な予感がする。
そしてその予感はだいたい合っている。
体を見ることができればと思ったが、いまの俺は教師で、あの子たちにとっても俺は学校の先生だ。そこまで踏み込むことはできない。
できて、生活記録ノートの管理までだ。
「ふーん、どうしたものかなぁ~」
昼食を用意する提案に、あの子はとても嬉しそうにしていた。
自分からは家庭で起きているであろうことの話はしないけれど、確実に助けを求めているように感じる。
「井田先生、用事済みました?」
保健室のドアが開いて、養護教諭の水野木先生がやってきた。
優しい笑みを浮かべて、入り口に立っている。
「あ、すみません。お借りして」
慌てて立ち上がって、ぺこりと頭を下げる。
水野木先生はベテランの養護教諭だ。
この学校での勤務歴が長く、生徒や先生のことはよく知っている。
「白衣着るとほんと、医者の顔だわ」
茶化すように、水野木先生は笑みを浮かべて言った。
「やめてくださいよ、俺は今、理科の先生です」
この学校で、俺が医師免許を持っていることを知っている先生は、校長と水野木先生くらいである。
俺は相談がてら白河咲の話を、水野木先生にした。水野木先生はその話を聞いて、顔を曇らせる。
「白河さん、去年の春の健康診断ではそういう線の話は上がってきてなかったけれど……この1年で、彼女を取り巻く状況が、変わってきてるのかもね」
保健室の中を、重い空気が包む。
彼女の1年間の変化は、殊更、表面上ではわからないことが多い。
ただ、水面下で起きていることが、少しずつ、表にも出てきているのは、今日のお昼で確信した。
「来週の健康診断で、いろいろわかることがあるかもしれません」
「そうだね」
4月は、年度始めの健康診断がある。
校医には俺の知り合いもいる。
ひとつため息をついて保健室を後にすると、白衣を脱いで、中庭の動物の世話に出た。
元野良猫に挨拶を済ませ、定位置に餌を置く。
次はうさぎ小屋に行き、水を取り替えて新しい餌をやる。黙々と餌を食べるうさぎの毛を撫でると、やっとほっとできる気がした。
暗い気持ちはこうして発散するのがいちばんだと思いつつ、楽しそうに動物の話を聞いていた彼女を思い出していた。
今度、世話に誘ってみるのはありだなぁ。
彼女の中で、学校が居場所になればと考えていた。
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