優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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担任、井田春斗のクラス

生活記録ノート

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side:咲



翌日、井田先生が言った通り、生活記録ノートの基本的な取り扱いを、改めてホームルームの時間に受けた。

まず、井田先生が口にしたことは、ノートの守秘義務に関してだった。

「生活記録ノートは、あくまで僕と君たちが一対一でやり取りするノートです。僕が他の誰かに見せることはしないから、安心して欲しい。それが例え、君たちの親が見せてくれって僕に言ったとしても、君たちが『良いよ』と言わなければ見せない。逆に、共有したい時は、僕から必ず君たちに了承を得る。もちろん、これを断る権利は君たちにある」

難しい言葉が続いたが、いつもよりゆっくりと力を込めて話す井田先生に、クラス中がいつにも増してしっかりと耳を傾けていた。

その他にも、ノートのルールは続く。

提出は週2回であること。
基本的に睡眠と食事に関して自己管理できるようになることが目標なので、その2つの記録は抜けなく入れること。
抜けが続いたり不摂生が続くと呼び出しがあるらしい。

女子は生理周期についても管理すること。それにあたっての生理の説明を、井田先生は男女分けることなく、淡々と説明していった。

これに関しては、クラスの全員が面をくらっていた。

小学校では女子だけが集められて、女性教師が話していた話を、男性である井田先生が、男女分けることなく、はっきりと話していたからだ。

「月経は恥ずかしいことでも隠すべきことでもない。もちろん、誰かれ構わずオープンにしろってわけでもないよ。大事な体の話だからね。性別で異なる体の基本的なことを、正しく理解するための第一歩だと思ってね」

井田先生は生理の説明し終わったあとに、そう言った。

大人たちは、大人になるわたし達の体の話をする時に、「まだ早い」と言う。でも、井田先生は「知ることは悪くない」と伝えているように思えた。

「このノートは、体だけじゃなくて、心のこと……そうだな、相談とか悩みがあるときは自由に書いていいからね。このノートに記された全てを、僕は真剣に受け止めます」

井田先生は、微笑みながらも、わたし達中学生に対して、対等にしっかりと言葉を伝えてくれていた。みんながそれぞれ、心に残ることがあった。

井田先生は、周りの大人でいちばん信用出来る大人なんだと、わたしは感じていた。

教室を沈黙が包んだのは、井田先生の言葉を飲み込もうとしたためだと思う。


しばらくしてから、井田先生は大きく息を吸って吐いた。
腕時計を少し見つめて、生徒の方へと向き直る。

「……さて……あと30分余ったから」

沈黙に耐えかねたように、井田先生が静かに声を上げる。

「中庭で動物と触れ合おうか。課外授業かな」

その瞬間に、井田先生は教壇を降りて、先導するように、教室を出ていく。
生徒たちは突然破られた沈黙と、井田先生の言葉に、歓喜の声をあげる。
その後を追って次々と賑やかに椅子を引きずる音が鳴った。
思いもよらぬ自由時間に、みんなの心が弾む。

「先生!わたし、うさぎ触ってみたい」

「住み着いた野良猫、俺んちの猫に似てるんだよね」

先を歩く井田先生に、追いつくように生徒たちは口々に言った。

そんな生徒たちの声を背中で聞きながら、井田先生は振り向くと、唇に人差し指を当てて、いたずらっぽく言った。

「シーッ、静かに。この時間、中庭の許可取ってないから、学年主任にバレたら怒られる。みんな、こっそりついてきて」

クラスみんなが秘密を共有するような雰囲気に、わくわくしていた。
クスクスと小さな笑い声を漏らしながら、ぞろぞろと中庭を目指す。わたしはその時間が、今までの学校生活の中で、いちばん楽しい時間のように感じた。


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