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校医、澤北優の内科検診
医師と教師
しおりを挟むside:優
痣のある女子生徒が出て行ったあとに、看護師に小声で尋ねた。
「あの子の担任は?」
看護師は、手元にあった紙をめくる。
「2年2組なので……井田春斗先生です」
俺はその名前をきいた時に、心底ほっとした。
「井田か。それなら話は早い。今すぐ井田呼び出して、児童相談所に連絡だな」
虐待を気のせいだと見過ごす教師が担任だったらどうしようかと思っていたところだった。
井田春斗とは、桜堂大学医学部生の時からの友人だ。
1年生の時から授業が一緒だったり、実習でずっと同じ班だったりしたこともあって、仲良くなった。俺と春斗は医学部を卒業した後、大学病院に就職したが、春斗は2年間続けた医師をやめ、教員になることを決意した。
その事に関して、全く関係ないとは言いきれなかった俺は、少し負い目を感じていた。
負い目のカバーというのはおこがましいが、春斗が通信制の大学で教員免許取得の間、俺の家に一緒に住むことになった。
その時のまま、2人暮らしはずるずる続いて、俺は大学病院に、春斗は大学附属の学校での勤務になり、今に至る。
手元にあったもう1つのカルテの方に、『腹部、要観察』と記入する。春斗であれば、直ぐに話を取り合ってくれるだろう。
すぐさま職員室に連絡をとって春斗を呼び出すと、案の定直ぐに飛んできた。
児童相談所へ早急に連絡する。
その後、業務に戻り、健康診断を終えて、彼女以外の生徒で気になる生徒がいなかったことを報告する。
春斗が休憩になってから、今一度、2人で白河咲の痣の話をした。春斗はここ数日の彼女の様子から、確証できずに戸惑っていたらしい。
「それなら、疑いの時点で、通告するのがベストだっただろ。幸い、みぞおちの痣は内臓傷つけてなかったけど、かなり危ない位置だったぞ」
ポカッとひとつ、彼の頭を軽く殴りながら。少し語気を強めに言った。
痣の確認ができないため、難しい判断だったのはわかるが、それにしても春斗には優柔不断なところがある。昔からそうだ。
春斗は頭を擦りながら、泣きそうな表情で笑った。迷っている状態から解放され、さらに生徒の安全が保証されたいま、彼がいちばん安心しているに違いない。
「……すみません、判断が難しくて。彼女から話が聴けるような状態にしておこうとは思ったんだけれど」
春斗は恐らく、彼女の今後の生活の心配をしたのだろう。学校という場、教員として、生徒を思う気持ちというのは、俺にはわからないところである。
とにかく、命に関わるような状態になってからの発見にならなくてよかったと、2人で安堵した。
安心する春斗の横で俺は、白河咲、という名前に引っかかっていた。いや、正確にはもう、どうして引っかかるのかわかっていた。可能性を打ち消しながら息を吐く。それだけは、考えたくもなかった。
「これからまた病院戻るの?」
春斗にきかれて、思考するのをやめた。
考えても意味が無い、わかったところでどうにかなるもんでもない。強引に蹴りをつける。
「あぁ。まぁでも一応日勤だから、19時には帰ると思うよ、何も無ければ」
「大変だなぁ。何もないといいね」
「そうだな」
のんびりとした春斗の口調が戻ってきて、俺もほっとしていた。
お互い、少し疲れを顔に滲ませる。それでもまたそれぞれに、これからまた業務が残っていることを思ってか、春斗がふんわりと笑った。
「今日食卓に、ここの畑で採れたイチゴが並ぶと思うよ。楽しみにしててよ」
「え?! イチゴ?! はぁ~……なんでも育てられるんだなぁ」
春斗の趣味は立派に飯が食える。物理的な意味で。素直に感心する俺に春斗はまた、クスクス笑った。
「その反応、この間、白河さんにもされた。イチゴって珍しい感じするもんね」
突然、春斗から出てきた彼女の名前に、蹴りをつけたはずの思考がむかむかと湧き上がりそうになって、慌てて蓋をした。
チャイムが鳴って、授業間の休憩に終わりが告げられる。春斗はこの後、授業があると言っていたので、ここで別れる。
とりあえず、白河咲のことは一件落着。
あとは児童相談所の指示に従う。
そのはずだったのだが……。
事態が急変したのは、その夜のことだった。
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