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それぞれの午後7時
カレーライス
しおりを挟むside:春斗
7時とはいえ、延びるんだろうなぁ。
カレーを火にかけながら、ひとり、優の帰りを待つ。優の不規則勤務や、居候の時のくせで、家事全般は何となく俺がこなしている。
家事は苦ではない。
元々考え込むタイプだから、何かやることに専念する方が気持ちとしても楽だ。
畑仕事や動物の世話も、そういった理由で向いているところもあると思う。
しかし、鍋をかき混ぜながらぼんやりしていると、すぐに、今日あったことを考えてしまった。
白河さん、大丈夫かな。
優は、検診を終えて、迷いなく児童相談所に通告した。児童相談所は通告して2日以内に、彼女の生存を確認することになる。
「疑いの時点で、通告するのがベストだっただろ」
事後、そう言われて、久しぶりに軽めのげんこつをくらった。大学時代はポカをやらかす度にやられていたけれど、最近はめっきりなかった。
彼のその判断力と迷いのなさは、いつだって羨ましいと思ってきたところである。学生だったときも、彼のそういうところが際立っていて、優秀だった。
同期だけれど、一歩先を行く彼に、いつでもついていくような立場でいた。俺が彼を、頼りすぎていたとも思う。
今日だって、確証が得られる健康診断まで待つ、という選択をして、結局、優に判断を委ねてしまった。
『もう、子どもが目の前で死んでいく姿を見るのが、耐えられない』
命と向き合う最前線で、俺が挫折したところを、優は『死ぬ前に助ければいい』と軽々越えていって、彼はいま、優秀な小児科医として働いている。
ぐるぐると考えたところで、はっとして首を振る。
何比べてんだ、お門違いだろ。
顔を上げ、自分はいま、医師ではなく教師であることを頭に叩き込む。
俺は、これからのあの子を見てあげないといけない。俺は担任として、必ず生活のそばにいる。これからの措置次第で、あの子の支援に関わっていくのは、俺のすべきこと、できることだ。
前を向かなくては。
今日の対応のことはもう過ぎたこと。
これからのことをしっかり考えていかなくては。
夕食の支度をある程度終えて、冷蔵庫を開ける。
学校の畑でとってきたイチゴは食べる直前に洗おうと思い、まだ手をつけていない。
福神漬けを出そうと思ったが、どこにも見当たらなくて、買い忘れたことに気づく。
カレーには福神漬けが絶対だ。
これは優の好み。あんな頓着のない風貌で、自分にも他人にも厳しいような男だが、生粋の甘党なのだ。
職場では、ブラックコーヒーにこっそり砂糖を入れて飲んでいると聞いて、笑ったら怒られた。
「しまったなぁ……」
連絡はないけれど、優はまだ帰ってこないだろう。きっと残業だ。
時刻は夜7時20分。
近くのスーパーは8時で閉まってしまうから、早めに買いに行った方が良さそうだ。
カレーの火を止めて、家を出る。
少し肌寒い春の夜、ゆっくりと歩き出した。
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