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それぞれの午後7時
緊急事態
しおりを挟むスーパーは、勤める学校から近く、いつも学校帰りに寄って、食材を調達している。
学校付近はこの時間になると静まりかえり、人通りも少なくなる。
校門の前まで来た時に、薄暗い夜道の先で、人の声がした。
「おい!! 目を開けろ、閉じるな!!」
……優の声だ。
普段、あまり張り上げた声を聞かないが、確実にその声は優だった。
一瞬で、弾かれたように駆け足になる。
緊迫したその声に、俺は一気に近づいた。
「優?!」
声をかけるや否や、怒鳴るように俺に言った。
「春斗! AED持ってこい!!」
状況を瞬時に察した。人が倒れている。薄暗くて、最初はよくわからなかった。
制服……うちの学校の子どもだ……。
優は脈を確認しながら、その子に声をかけ続ける。
AEDを取りに行こうと、反射で動きかけた足が、止まってしまった。
路上に横たわる薄く街灯に照らされた少女の顔を見て、絶句した。
……白河さん……なんで?
浅く苦しそうな息を、弱々しく続ける彼女に、恐怖を感じた。
体から、血の気が引くのがわかる。ぞわぞわ、ざわざわと、得体の知れない音が俺の体の中を駆け巡って、その途端に悪い思考に支配されそうになった。
あの時と、一緒だ。あの時と……。
一瞬、俺が動きを止めて、顔を強ばらせたことを、優は見逃さなかった。考える隙を与えないくらいの勢いで、彼は怒号を飛ばした。
「何してんだ!! 息も脈も、まだある!! いつ止まるかわからん!!春斗、AED早く!!!! 」
はっとして、学校へ走る。
止まらない手の震え。力を込めて握りしめた。
ここから一番近いAEDは、昇降口のところにある。
走って往復で2分もしない。
何かを考えそうになる頭を必死で止めて、今は目の前の命のことだけに意識を向けた。
現場に戻ると、優が白河さんの制服を裂いて、胸骨圧迫を始めていた。その絶望的な光景に息を飲んだが、動きを止めることはしなかった。
優はいま、助けるために動いている。いま、目の前にいるのは、あの時の助からなかった子ではない。
俺のクラスの、大事な教え子だ。
「脈止まった、呼吸障害も出てる。恐らく、腹部打撲による内臓の損傷」
優は胸骨圧迫を続けながら、みぞおちに入っていた新しい痣に目をやりながらそう言った。
俺はすぐさまAEDの電源を入れながら、訊ねた。
「救急車は?」
「呼んでる、あと5分もしないうちに来るだろう」
電極パットを彼女の胸に貼り付けた。無情にも、ショックが必要との指示が出る。
「離れて」
俺は静かに、優に告げた。優が息を切らしながら彼女から離れたところで、放電のスイッチを入れる。意思のない彼女の体が大きく跳ねた。
1回目のショックが終わり、心電図の解析が始まる。
心拍は……戻らない。
「かわるよ」
交代して、今度は俺が胸骨圧迫を再開した。
「春斗……あの時とは違うぞ。絶対助ける」
俺はその言葉に大きく頷く。
「わかってる」
2人で胸骨圧迫を交代しながら、救急車が来るのを待つ。
幸い、それから5分もしないうちに救急車が到着して、その間に彼女の心拍が戻った。
心臓が動き出しても、ほっと息をつく間も無い。
救急車の中で、優が医師であることを伝え、処置を進めていく。俺は、彼女の基本情報を淡々と救急隊員に伝えた。
降り立ったのは優の勤める病院で、直ぐに彼女は手術室に運ばれて行った。
久しぶりに来た元職場ではあったが、後ろめたさなどを感じている余裕は一切なかった。
病院のスタッフと協力しながら、警察や児童相談所、校長への連絡を済ませて、彼女の入院が決まる。
俺は待合室で祈りながら、無事に彼女が出てくるのを待った。その時間は、途方もなく長かった。
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