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隠しきれないもの
ありったけの抵抗
しおりを挟む往診が始まってもなお、わたしは今までにないくらいに抵抗していた。
来週の土曜日って言ったのに。
ここで様子診るなんて、聞いてない。
体を動かして、全力で優……澤北先生の手が体に触れることを拒否した。
パジャマをめくられたところから、身をよじって触られるのを拒む。
「咲、じっとしろ。すぐ終わるから」
澤北先生が言うも、じっとなんてできなかった。
どうしても嫌だった。痛いけれど、どこもみられたくなかった。
「やだやだ!!!」
春ちゃんは、わたしの手を握りながら、ピシャリと言い放った。
「咲!! わがまま言わないよ。痛いんでしょ? 痛いの診てもらわないと、治んないよ」
そんなふうに諭す春ちゃんも、嫌で嫌で仕方なかった。
わかっている。わたしがわがまま言ってるのも、優が診てくれれば治ることも。
もう全部が嫌になって、口をついて出た言葉は、本心ではない。
「春ちゃんも優もきらい!!!!」
言った瞬間に、両手を握っていた春ちゃんの手が緩んで、悲しそうに笑う。優は少し驚きながら、傷ついた顔をした。
こんなこと言いたくなかった、思ってもいない言葉まで、口から溢れ出る。心からの言葉じゃないから、言ったあとの後悔がぐわっと波のように押し寄せてきた。
言ったあとに気づく。
嫌いなのは、優でも春ちゃんでもなくて、自分自身だ。
涙が唐突に喉元まで湧き上がって、小さい子どものようにわんわん泣いた。
腹痛も恥ずかしいところの痛みも酷くなっていって、息が止まりそうな程痛かった。痛みで背中を丸めて、ぎゅっと横になる。でも今はそれどころじゃない。
言ってしまった言葉の後悔に、胸まで苦しくなって痛かった。
優が、大きな手で背中を撫でる。
春ちゃんは手を握りながら、わたしの頭を撫でた。
「咲。言ったこと、後悔してるだろ?」
澤北先生から優に戻って、背中を撫でながら優しくそう言った。
何をしていなくても、何でもお見通しだ。泣きながら素直に頷く。
「きらいなんて……おもって、ない」
しゃくりあげながら、言う。
春ちゃんが、気配でふっと笑った。
「よかった。ちょっと傷ついた。でも、咲も傷ついてる。なんで、今日はそんなにイヤイヤするの?」
撫でられている感触が気持ちよくて目を閉じると、自然と言葉が出てきた。
「……いえで、せんせ、に、ならないで……」
家では、優と春ちゃんのままがいい。
この家で、3人で仲良く暮らしたい。
『帰る場所』ができて、うれしかった。わたしの一番の願いだった。
「咲。いいか? よく聞いてほしい」
さすられた背中の温かさに気づく。
優が、真剣にゆっくりと言葉を続けた。
「俺たちは、咲の家族だ。でも、咲が痛くてつらくて苦しいときは、助けてあげられるかもしれない、医者でもある。俺は主治医として咲を治すより先に、家族が苦しんでいるから助ける、そういう気持ちでいるよ」
じんわりと涙が溢れ出る。
「……ごめん、なさ、い」
心からの言葉に、春ちゃんは頷きながら髪の毛を撫でた。
「痛いなら、少しだけ頑張って、診てもらおう」
春ちゃんはそう言うと、バスタオルを敷き直してわたしを仰向けにした。
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