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隠しきれないもの
初めまして、早乙女先生
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婦人科の待合室で、優と落ち合う。
「……よく連れ出したな」
優が春ちゃんに、わたしを見ながら驚いたように、小声でそう言った。わたしは初めて来る婦人科が怖くて、あと、サオトメ先生も怖くて、春ちゃんの服の裾をぎゅっと握りしめる。
「まぁ、ちょっとね」
春ちゃんは、にこにこと笑いながら言った。
ちょうどその時、わたしの名前が呼ばれた。
わたし達は3人で、診察室へと入って行った。
診察室で出迎えた早乙女先生は、春ちゃんが言うような先生ではなかった。
「あ! 澤北、久しぶりだね!! 井田はもっと久しぶり!元気そうでなにより!」
優や春ちゃんより、少し歳上の女医さんだった。
その明るくて、快活な話し方に『騙された……!!』と思った。
怒りを込めた目で春ちゃんを見ると、春ちゃんは苦笑いをしながら、口の形だけで『ごめん』と言ってくる。
「ご無沙汰して、すみません」
「お久しぶりです」
優と春ちゃんがぺこりと挨拶をする。
どうやら、やっぱり、2人の先輩のようだった。
そうしてその後に、早乙女先生は、わたしの顔を覗き込んだ。
「あなたが、白河咲ちゃんね…… 初めまして」
早乙女先生は、わたしに優しく話しかけながら微笑む。わたしはまだなお、春ちゃんの嘘にむくれて、俯いていた。
「咲、挨拶」
優に背中をポンっと叩かれて、促される。俯いたまま、「初めまして……」と声を絞り出した。
「ごめんなさい、早乙女先生。咲、どうしても病院嫌いで、連れ出すのに『早乙女先生は怒ると怖いよ』って言っちゃって、少しむくれてます」
春ちゃんが頭をかきながら正直にそう言うと、早乙女先生は笑いながら言った。
「研修医時代のあなた達には厳しかったかもしれないけれど、患者さんには優しいつもりだから、大丈夫よ。来てくれてありがとうね」
早乙女先生は、その場を包み込むように笑う。
「大方のことは、澤北から聞いてるから。今日は、エコーを使って子宮の中に血塊が残ってないか見てみようかな。咲ちゃん、そこのベッドに横になってくれる?」
優しく語りかける口調の先生に、静かに頷くと、素直に横になった。
モニターに映し出されたエコーの映像を、早乙女先生、優、春ちゃんが、険しい顔で覗き込む。
「昨日、腟内は掻き出ししてくれたのね。血塊、思ったより多かったでしょ」
「はい。1番大きいので3cm台のものが1つ。それから、1~2cmのものはごろごろと」
優が頷きながら、説明する。
その横顔は、紛れもなく澤北先生だった。
「昨日、取っといてくれて、よかったよ。ナイス判断だった。子宮内も多くは無いけれど、あるわね」
悩むように、早乙女先生はお腹の上でエコーを滑らす。少しくすぐったくなって、動きそうになると、春ちゃんが言った。
「咲、動くの我慢ね」
早乙女先生は、その様子に少し微笑んでから、真剣な表情に戻る。
「……昨日、ちゃんとイけたなら、機械使ってもいいかなと思うけど……」
春ちゃんが息を飲むのが分かった。
優が早乙女先生に尋ねる。
「1回で終わりますか?」
「どうだろう……機械使って、子宮収縮して、後は膣口に降りてきたものを陰核刺激で出す感じかな。だいたい2回くらいで終わると思うけど、1日に何回もはキツいと思うから、1日1回で2日に分けてかな」
話を聞いていても、よくわからなくて、わたしは目をつぶった。なんとなく、良い方向には話が進んでいないのはわかる。
「どうする? 機械を使うのは、ここでしかやれないから、ここでやるとして、あとの1回はあんた達いれば家でもできるよ。通院するか、家でするか」
治療は、家でもできるらしい。
わたしは昨日のことを思い出して、優の横顔を見つめた。不安になる。もう、家で先生になっちゃう優を見たくなかった。
優は、わたしのその表情を見ずとも、早乙女先生の問いに即答していた。
「できれば、病院で」
『いえで、せんせ、に、ならないで……』
泣きながらわたしが2人に訴えたことを、思い出しているのが分かった。
わたしの帰る場所を、できるだけ守ろうとしてくれている。
「じゃあ、2回目は、1日インターバル置いて、明後日にしよう。機械の方は……」
「今日で、お願いします」
優は全てを即答する。
春ちゃんは、それをきいて俯く。
「わかったわ」
早乙女先生はしっかり頷くと、わたしの方を向いた。
「咲ちゃん。昨日、先生たちに、咲ちゃんの体の中で起こっていることは、だいたい聞いたかな?」
わたしは無言で頷く。
これからきっと、つらい治療が待っている。その事だけは、早乙女先生の丁寧な口調で分かった。
「咲ちゃんの子宮の中にも、血の塊があって。これは昨日、先生たちにやってもらった方法では取り除けないのね。それで」
早乙女先生は、一呼吸置いた。
「咲ちゃんの生理の穴から、機械を入れて、子宮が伸びたり縮んだりするのを助けることで、血の塊を取るっていう治療をしていくよ」
機械を……穴から入れる……??
聞くだけで痛そうな方法に、わたしは首を横に振った。もうそれだけで泣きそうだった。
「咲、早乙女先生は俺の時より痛くないようにしてくれる。大丈夫だ」
優がわたしの頭を優しく撫でる。
優しくされると、ボロボロと涙がこぼれた。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとついてるからね。少しだけ、頑張ろう」
春ちゃんが、震えるわたしの手をぎゅっと握る。
恐る恐る、頷いた。
早乙女先生がそれを確認してから、治療の準備を始めた。
「……よく連れ出したな」
優が春ちゃんに、わたしを見ながら驚いたように、小声でそう言った。わたしは初めて来る婦人科が怖くて、あと、サオトメ先生も怖くて、春ちゃんの服の裾をぎゅっと握りしめる。
「まぁ、ちょっとね」
春ちゃんは、にこにこと笑いながら言った。
ちょうどその時、わたしの名前が呼ばれた。
わたし達は3人で、診察室へと入って行った。
診察室で出迎えた早乙女先生は、春ちゃんが言うような先生ではなかった。
「あ! 澤北、久しぶりだね!! 井田はもっと久しぶり!元気そうでなにより!」
優や春ちゃんより、少し歳上の女医さんだった。
その明るくて、快活な話し方に『騙された……!!』と思った。
怒りを込めた目で春ちゃんを見ると、春ちゃんは苦笑いをしながら、口の形だけで『ごめん』と言ってくる。
「ご無沙汰して、すみません」
「お久しぶりです」
優と春ちゃんがぺこりと挨拶をする。
どうやら、やっぱり、2人の先輩のようだった。
そうしてその後に、早乙女先生は、わたしの顔を覗き込んだ。
「あなたが、白河咲ちゃんね…… 初めまして」
早乙女先生は、わたしに優しく話しかけながら微笑む。わたしはまだなお、春ちゃんの嘘にむくれて、俯いていた。
「咲、挨拶」
優に背中をポンっと叩かれて、促される。俯いたまま、「初めまして……」と声を絞り出した。
「ごめんなさい、早乙女先生。咲、どうしても病院嫌いで、連れ出すのに『早乙女先生は怒ると怖いよ』って言っちゃって、少しむくれてます」
春ちゃんが頭をかきながら正直にそう言うと、早乙女先生は笑いながら言った。
「研修医時代のあなた達には厳しかったかもしれないけれど、患者さんには優しいつもりだから、大丈夫よ。来てくれてありがとうね」
早乙女先生は、その場を包み込むように笑う。
「大方のことは、澤北から聞いてるから。今日は、エコーを使って子宮の中に血塊が残ってないか見てみようかな。咲ちゃん、そこのベッドに横になってくれる?」
優しく語りかける口調の先生に、静かに頷くと、素直に横になった。
モニターに映し出されたエコーの映像を、早乙女先生、優、春ちゃんが、険しい顔で覗き込む。
「昨日、腟内は掻き出ししてくれたのね。血塊、思ったより多かったでしょ」
「はい。1番大きいので3cm台のものが1つ。それから、1~2cmのものはごろごろと」
優が頷きながら、説明する。
その横顔は、紛れもなく澤北先生だった。
「昨日、取っといてくれて、よかったよ。ナイス判断だった。子宮内も多くは無いけれど、あるわね」
悩むように、早乙女先生はお腹の上でエコーを滑らす。少しくすぐったくなって、動きそうになると、春ちゃんが言った。
「咲、動くの我慢ね」
早乙女先生は、その様子に少し微笑んでから、真剣な表情に戻る。
「……昨日、ちゃんとイけたなら、機械使ってもいいかなと思うけど……」
春ちゃんが息を飲むのが分かった。
優が早乙女先生に尋ねる。
「1回で終わりますか?」
「どうだろう……機械使って、子宮収縮して、後は膣口に降りてきたものを陰核刺激で出す感じかな。だいたい2回くらいで終わると思うけど、1日に何回もはキツいと思うから、1日1回で2日に分けてかな」
話を聞いていても、よくわからなくて、わたしは目をつぶった。なんとなく、良い方向には話が進んでいないのはわかる。
「どうする? 機械を使うのは、ここでしかやれないから、ここでやるとして、あとの1回はあんた達いれば家でもできるよ。通院するか、家でするか」
治療は、家でもできるらしい。
わたしは昨日のことを思い出して、優の横顔を見つめた。不安になる。もう、家で先生になっちゃう優を見たくなかった。
優は、わたしのその表情を見ずとも、早乙女先生の問いに即答していた。
「できれば、病院で」
『いえで、せんせ、に、ならないで……』
泣きながらわたしが2人に訴えたことを、思い出しているのが分かった。
わたしの帰る場所を、できるだけ守ろうとしてくれている。
「じゃあ、2回目は、1日インターバル置いて、明後日にしよう。機械の方は……」
「今日で、お願いします」
優は全てを即答する。
春ちゃんは、それをきいて俯く。
「わかったわ」
早乙女先生はしっかり頷くと、わたしの方を向いた。
「咲ちゃん。昨日、先生たちに、咲ちゃんの体の中で起こっていることは、だいたい聞いたかな?」
わたしは無言で頷く。
これからきっと、つらい治療が待っている。その事だけは、早乙女先生の丁寧な口調で分かった。
「咲ちゃんの子宮の中にも、血の塊があって。これは昨日、先生たちにやってもらった方法では取り除けないのね。それで」
早乙女先生は、一呼吸置いた。
「咲ちゃんの生理の穴から、機械を入れて、子宮が伸びたり縮んだりするのを助けることで、血の塊を取るっていう治療をしていくよ」
機械を……穴から入れる……??
聞くだけで痛そうな方法に、わたしは首を横に振った。もうそれだけで泣きそうだった。
「咲、早乙女先生は俺の時より痛くないようにしてくれる。大丈夫だ」
優がわたしの頭を優しく撫でる。
優しくされると、ボロボロと涙がこぼれた。
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