優しく咲く春〜先生とわたし〜

おにぎりマーケット

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本当の話をしよう

秘密と告白

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side:咲


治療の後からぐっすりと眠っていて、起きてご飯を食べて、薬を飲んで……あんまり覚えていない。
春ちゃんと優の、心配そうな顔だけは朧気ながら認識できた。
気づいたらベッドにいて、夜になっていた。

夜、眠りから覚めた時、頭は冴えていた。
冴えた頭は、眠れない夜のルーティーンをなぞる。
脳裏に浮かんだのは、酒に酔ったあの男と、蹴られたお腹の痛み。今日はなんだか、いつもより鮮明に思い出してしまって、息が上がる。

いてもたってもいられなくなって、布団を抜け出す。
震える手で、隣の部屋の扉を開けた。
耳に飛び込んできたのは、優と春ちゃんが話す声だった。
いつもと違う、2人が話す雰囲気にのまれる。
その場にずっと立ち尽くして、その話を耳にしていた。

わたしと……優の、本当の関係……?

何それ。

お母さんと、あの男の話もしてる。

声を出さないと、何かを鮮明に思い出してしまいそうだった。

「優……春ちゃん……なんの話し……? 男……、お母さん……?」

ぎゅっと枕を握りしめていた。恐る恐る、声をかけると、2人は飛び起きた。春ちゃんが駆け寄って抱きしめてくれた。

「大丈夫」

と繰り返す春ちゃんの体温に身を委ねる。
眠れなくなって、ここへ来たことを伝えると、直ぐに布団に入れてくれた。
春ちゃんの体温から離れるのが怖くて、涙を堪えてしがみつく。
母や、あの男のことを思い出しては、胸が苦しくなっていた。だけれど、知りたかった。

春ちゃんの胸に顔を埋めながら、気がつくと、呟いていた。

「さっきの話……聞きたい」

春ちゃんが頭を撫でてくれる。

一呼吸置いた優が、わたしの方へ体を向けたのがわかった。

「……咲、本当の話をしよう」

低くて静かなその声は、何かを心に決めたような、そんな力が込められていた。

そこから、優がぽつぽつと話をした。

わたしと優は、同じ母親から生まれたこと。
血の繋がらない、優のお父さんが、わたしの事を家族にしようとしてくれていたこと。
そのお父さんの遺言で、優がわたしを引き取ることを決めたこと……。

優は……わたしのお兄さんってこと……?
驚くようなことがたくさんありすぎて、ひとつひとつのことを飲み込むのに、時間がかかった。

「咲、悪かった。俺が……咲のことを一度……」

言いかけたところで、春ちゃんが口を挟んだ。
春ちゃんには、優が飲み込んだ言葉がわかるようだった。

「優。仕方の無いことは謝るな」

わたしの頭を撫でながら、落ち着いた声で、でも鋭くそう言った。
わたしはずっと、目を閉じて、春ちゃんの体温に包まれながら、優の話を聴いていた。

「咲。でも、謝らせてほしい。救うことが、遅くなってしまったこと。怪我をたくさんしてから、つらい思いをさせてから、引き取ることになったこと。本当にごめんな」

絞り出すような、苦しむような声で、優はそう言った。

謝らないで……わたしは……。

春ちゃんが、わたしの顔を覗き込む。
寝てるんじゃないか、そう思ったのかもしれない。

わたしはゆっくりと目を開けた。
春ちゃんと目が合って、目を閉じる。
息を大きく吸って、ゆっくりと吐いてから、わたしは思っていたことを口にした。

「わたしは……心臓が止まったとき。優と春ちゃんに助けてもらって……すごく感謝したんだ」

春ちゃんが抱きしめる力を、僅かに強くする。
優が、息を飲む音が聞こえた。

「小さい頃に、わたしのお父さんだって、言った人がいて。その人は、きっと、優のお父さんだと思う。死にそうになったとき、あの人について行けたらどれだけ良かったんだろうって思ったんだ。でもね、優のせいじゃないって思う。ついていけなかったけど、優のせいじゃない」

一生懸命、思ったことを紡いだ。
今までにないくらい、頭が回転していた。
空気が震える。
気配で、優が涙を噛み殺しているのがわかった。

「助けに来てくれた優がね、あの時のお父さんに似てたの。だから、嬉しかった。助かって良かった、死ななくて良かった」

入院中に、ずっと思っていた。
生きていて良かった、死ななくて良かったと。

「優、春ちゃん。本当にありがとう。優と春ちゃんと、一緒に暮らせて、いまはすごく…………すごく」

わたしが言葉を詰まらせたとき、優が後ろから、わたしに抱きついた。
優と、わたしと、春ちゃん。
3人でぎゅっとくっついた。

この温かさ。この温かさを、幸せと呼ばずして、なんと言うのか。

「わたし、いまが幸せだよ」

優の涙が、わたしの首筋に落ちた。
温かい雫はその1粒だけ。
春ちゃんは、手を伸ばして、優のことも包み込む。わたしは、くすぐったくなって、少しだけ笑みをこぼした。

「もう、優。泣かないの」

いつも、わたしに言うような口調で、春ちゃんが言いながら、優の頭を撫でた。

「……春斗、調子にのるな」

優は、春ちゃんの手を叩き落として頭を搔く。
……泣いたことを、否定はしないようだ。

その様子を見て、春ちゃんは声を上げて笑った。
いつもの優と春ちゃん。その間に挟まれて、2人の体温に温められる。

たしかに、話を聞いて驚いた。
しかし、優とわたしの関係が明らかになっても、何も変わることはない。これからも3人で暮らしていく、ただそれだけだ。

安心したら、ゆっくりと睡魔が襲ってきた。

「優、春ちゃん……大好きだよ……」

眠る直前に、いつも思っていたことを、言葉にする。
わたしは、優と春ちゃんが大好きだ。
厳しくても、優しくても、大好きなのだ。

安心できる体温の中で、わたしはそっと、寝息をたてた。


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