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緊急入院と夏
忍び寄る病魔
しおりを挟むそんなある日の厨房。
その日は暑くて、忙しい日だった。
昼過ぎまで、お客さんが途切れなかった。
暑い上に、厨房は調理の熱気が更に加わる。
首にかけたタオルがぐっしょりと濡れていた。
「こんにちは、いらっしゃいませ」
昼過ぎ、ひと段落過ぎたところに、陽太先生がやってくる。相変わらず陽太先生も忙しいみたいで、人気の定食はぽつぽつと完売が出た頃に食べに来ていた。
「お、のんちゃん、頑張ってるね」
「はい」
照れ隠しに俯きながら頷く。
陽太先生もいつもこの時間まで大変なはずなのに、爽やかで、少し気恥しい。
「今日暑いからさ、ちゃんと休みながらやるんだよ」
陽太先生はにっこり笑って、定食を受けとって行く。
そういえば、何も飲んでいなかったな。
お客さんから見えないようにしゃがむと、水筒で水分を摂る。
「すみません、お願いします」
お客さんの声が、カウンター越しに聞こえる。
「はーい、いらっしゃ……」
急がなきゃ。
立ち上がって、接客しようとしたときだった。
急にめまいが起きて、視界がぐるぐると回る。
あ、やばい。
そう思った時には既に床に体がついていた。
バタッ。
完全に目の前が暗くなって、厨房の床の冷たさだけが体に伝わる。
「のんちゃん?!」
「大丈夫?! しっかり」
「だれか、お医者さんか看護師さん!」
みんなの駆け寄る音が聞こえる。
「陽太先生!!!のんちゃんが!!!!」
食事をとろうとしていた陽太先生が、大河さんの一声でテーブルから駆けつけてくる。
倒れてもなお、ぐるぐる回る視界に、目を閉じるしか無かった。陽太先生の柔軟剤の匂いが、わたしに近づく。
助かった……。一瞬でそんな気持ちにさせる匂いがする。
「のんちゃん、聞こえる? 手握れるかな」
「ち……ちから……」
……入らない。陽太先生の手が温かくて、さらにほっとしてしまう。
陽太先生の手が、首や顔に触れる。
「熱いね。熱中症かな……大河さん、氷とかなんか冷やせるものあります?」
「あるよ、用意するね!」
冷たい……気持ちいい……。
すぐに首や脇に冷たいものがあたる。
数人、看護師さんやお医者さんが集まって来ていたみたいだった。
「すみません、ストレッチャーお願いします。あとこの子、外来で診てる子なので。吹田先生と大海先生、呼び出しできたらお願いします」
テキパキと、陽太先生が指示を出す声がする。
「のんちゃん、動くよ」
意識が……遠のいていく。
目も開かない、体に力も入らない。
暑い。
足音が、みんなの声が、どんどん遠くなっていった。
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