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緊急入院と夏
お説教
しおりを挟む「あ、起きた?」
目を開けた時、真っ先に目に入ったのは、吹田先生と大海先生。それから、病室の天井だった。独特な消毒の匂いが意識されて、嫌な気持ちでいっぱいになる。
「あの……わたし……」
どれくらいこうしていたんだろう。
ぼんやりする頭で、どうしてこうなったかを思い出していると、吹田先生が説明してくれた。
「倒れたんだよ、厨房で。連絡もらって俺と大海先生が陽太先生から引き継いで……血液検査させてもらったよ」
血液検査……。胸がざわざわと騒ぎ出す。
「おはよう、のんちゃん。点滴入れるからちょっとチクッとするよ。寝てる間に針入れといたらよかったねぇ。」
と、腕に針を刺したのは、大海先生。
「…いて……」
絶対わざとだ、起きたら入れようと思っていたんだと思う。だって……なんか……
「さて、なんでこうなったか、説明してもらおうかなぁ」
大海先生は言いながら点滴を落とすと、「よいしょっと」
ベッドのそばの椅子に腰掛けた。
……なんというかいつもより……とても……不穏な空気。
反対側では吹田先生が腕組みしながら、わたしの言葉を待っている。
「なんでって……」
思い当たることはそこそこある。
「今日……暑くて、水分全然とれてなくて、それで」
“熱中症”って、陽太先生が言ってたことを思い出して、しどろもどろに懺悔する。しかし、
「それ以外」
「え」
素早く、吹田先生がわたしの言葉を遮った。
大海先生が、深いため息をひとつついてから……血液検査の結果に触れた。
「のんちゃんの血液検査の結果、すっごく悪かった。特にホルモンの値がとんでもないことになってたよ」
目を逸らすわたしの視線を捕えながら、大海先生はゆっくりと問い詰める体勢に入った。
「で、のんちゃん。先月僕が処方した薬、ちゃんと飲んでたかな? 婦人科のホルモン剤」
「……」
「飲んでたら、この数値でぶっ倒れるのは有り得ないんだなぁ」
「……」
「さあ、どうしてた?」
「……」
「吹田先生よりは怒んないから言ってみ」
と言葉を重ね、にっこり笑う大海先生。
その笑顔が、とてつもなく恐ろしい。
このままだんまりを決め込むわけにもいかなくて……、
「……飲み……忘れて……」
「うん。いつから、飲んでない?」
飲んでないのは織り込み済みらしい。
意を決して、声を振りしぼる。
「……3日……分しか……飲んでない……です」
手まで震えた。
「「3日分?!?!」」
顔を見合わせる先生達。
「んー、2ヶ月前からほとんど飲んでないってことか……」
吹田先生も深いため息を吐く。
「あちゃー……思ったより絶望的……笑」
と、もはや呆れ気味に笑う、大海先生。
「のんちゃん、これは心してほしいんだけど」
険しい表情のまま前置きしたのは吹田先生だった。
「最低1ヶ月は入院」
「いっ、1ヶ月……仕事は……!」
だって1ヶ月も休んだら……!!
シフトは、皆に迷惑かけるし。なにより……
仕事、楽しかったのに……。
「仕事どころじゃないよ」
ピシャリ、と、吹田先生がわたしの思考を一蹴する。
「ドクターストップ。体がかなり弱ってるし、もう少し無理したら喘息も酷くなりそうだからね。当然だけど薬はちゃんと飲んでもらうし、治療も少し強めのものをさせてもらうから」
今日から1ヶ月……。
かなり厳しい入院生活が、容易に想像できてしまう。
「のんちゃん、覚悟しなね。ここ頑張らないと、入院1ヶ月じゃ済まさないよ。一定の基準まで回復しなければ伸ばすからね」
厳しい口調で吹田先生が続ける。
この言葉で、絶対につらい1ヶ月になることが確約されたようなものだった。
「……そんな……」
ぽろぽろと、大粒の涙が、知らないうちに目から溢れていた。
「泣かない泣かない。のんちゃん、泣いても変わらないよ」
言いつつ、大海先生はわたしの目からこぼれた涙をティッシュで拭う。
「早速だけど午後から診察するよ。ここで内診するから、下着外して待っててね」
口調は優しいのに、早くも容赦ない約束。
首を振ってみたけれど、
「返事は?」
大海先生が顔を覗き込む。その微笑みが超怖い。
「……はい」
拒否権など、自分には残っていないことを知る。
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