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回想、はじめまして
のんちゃんの大事件1
しおりを挟む数日後、この日は優先生が外来に出ていたので、俺が病棟での勤務をしていた。
相変わらずのんちゃんは、3日前に点滴を引っこ抜いて、手にはミトンをはめているらしい。
朝の薬は拒薬。
口をぎゅっと閉じて、飲まなかったのだ。
点滴も薬もパスしてるから、呼吸状態が少し悪い。
外来前に優先生が、のんちゃんの病室を訪れて、手にミトンをつけさせ、なにやら約束をとりつけたようだった。
「ちょっとここ数日、のんちゃんの行動は目に余る。いつでも余ってるけど、今日は特に余ってる。きつめに言っておいたから、午前中はおとなしいかもしれないけど、たまに様子見に行ってくれるか?」
優先生は、俺にそう伝言していくと、のんちゃんの心配をしたまま外来に出て行った。
言いつけ通り、昼食前、様子を見に病室に行く。
コンコンコン
ノックをすれば、いつもそれなりに(たいてい、「だーれ? ゆうせんせー?」と真っ先に優先生をご所望する。)返事があるが、今日は何も聞こえない。
『カチャ……』
病室の中から、微かに金属が擦れる音が聞こえて……
そんな音すら聞こえる、やけに静かな病室に、とても胸騒ぎがする。
「のんちゃん?」
返事を待たずにそっと病室を覗くと……
「……」
真剣な顔で、ベッドの上に立ち上がっているのんちゃんが手にしていたのは、輸液のクレンメ部分で。
いや、まて、たしかにおとなしいはおとなしいけども……!!!
え、なに? もしかして、クレンメ全開にしようとしてる……?
おそらく多分、輸液の落ちる速度を調節する部分(クレンメ)に手をかけて、早く点滴を落とそうとしているんだと思い。
なぜか手に付いていたはずのミトンは床へ落ちて。
「やっば、ちょっと待った!!!!!」
のんちゃんがベッドの上で、音もなくバランスを崩して……
この間きっと、1秒なかったと思う。
咄嗟に駆け寄って、頭を支える。
のんちゃんの体をキャッチしたのと、
点滴スタンドが倒れて酷い音が響いたのは、同時だった。
ガッッシャーーーーン。
開け放った病室のドアから病棟の廊下に響く、派手な音。
点滴スタンドに引っ張られて、のんちゃんの腕から点滴が抜けると、血が滲み出る。
のんちゃんは、俺の腕のなか、何が起きたのかさっぱりわからない様子で、目を白黒とさせていた。
「っもう!!! 何やってんの?! 危ないでしょうが!!!!!」
反射で、腕の中の子どもを叱り飛ばす。
今度は、火がついたようにのんちゃんが泣き出す声が、腕の中でわんわんと響いた。
のんちゃん自身が、この状況を理解したらしい。
うっわ……心臓止まるかと思った。
ぎゃんぎゃん泣き喚くのんちゃんの声とは裏腹に、自分の心臓の鼓動が耳元でドクドクと鳴っていた。
腰が抜けた気がするが、そうも言っていられない。
怪我がないか、確認する。
点滴が抜けた部分だけが、痛々しい。
ナースコールを押すより早く、叶恵さんと蒼音くんが病室にすっ飛んできた。
「……?! 大丈夫ですか?!」
「ごめん、点滴抜けた。入れ直しの準備と」
腕の中、のんちゃんの呼吸がエグエグと変な音に変わる。
最初は、過呼吸かと思った。
「のんちゃん、落ち着いて。大丈夫だから、ゆっくり息しようか」
のんちゃんをベッドに寝せると、横向きにしてゆっくり息をするように声をかける。
が。
「--ッン、--ウッ、ハァッ、」
一向に息が整わない。
それどころか。
「のんちゃん? 聞こえる。苦しい? 陽太先生の手、ギュッてしてみて」
その間も、だんだんとのんちゃんの唇の色が消えて、手足が冷たくなっていく。
チアノーゼ。
「モニター準備、吸入も、あと酸素用意して! 優先生に連絡!」
一気に、のんちゃんの呼吸と酸素状態が悪くなった。
「のんちゃん、胸の音聴くよ」
なおも苦しい息を続けながら、微かに首を振るけれど、のんちゃんに拒否権はない。
「ごめんね」
思わしくない胸の音、もともとしていた点滴に加えて、喘息の薬も追加でオーダーする。
テキパキとした叶恵さんと蒼音くんの動きで全ての処置が終わる。
すっかりのんちゃんの容体が安定した頃、優先生が病室に到着した。
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