女公爵は軽薄に笑う

女公爵は誕生日を迎える

エルドラド領に今日も朝が来る。執事たるリュカは今日という日を心待ちにしていた。しかしそれを表には出さず、今日もいつも通りリュカはアンジェリクの部屋のカーテンを開けた。今日もアンジェリクの一日が暖かな日の光を浴びて始まる。

「ご主人様、おはようございます」

「んー…おはよう、リュカ」

「洗顔水とタオルです。どうぞ」

「ありがとう」

洗顔をしてさっぱりとすると、着替えに移る。

「ではお着替えをいたしますね」

リュカがアンジェリクの着替えを行う。そしてアンジェリクをドレッサーの前に座らせる。

「御髪を整えさせていただきますね」

そういうとリュカはアンジェリクの綺麗な髪を梳かす。アンジェリクは気持ち良さそうに目を細める。

「ではご主人様。朝食にいたしましょう」

「ええ」

ー…

「それで？屋敷中が飾り付けられているようだけれど今日は何があるのかしら？」

「本日はご主人様のお誕生日です」

「…え？」

「おめでとうございます、ご主人様」

ぱんっと近くにいた使用人全員がクラッカーを鳴らす。

「おめでとうございます、お嬢様！」

「おめでとうございます！」

「これはめでたい！お嬢様、今日はたくさん騒ぎましょう！」

アンジェリクは目を白黒させるが、ようやく自分の誕生日を思い出した。

「あ、今日誕生日だったわね…みんなありがとう」

「お嬢様！忘れてたんですか！？」

「お嬢様は自分のことには無頓着なんですからー！」

「だめですよ、お嬢様！お嬢様のお誕生日は私達の大切な日なんですから！」

「え、ええ。そうね。みんな本当にありがとう。心から嬉しいわ。来年は忘れないように頑張るわ」

「ご主人様。頑張るではなく忘れないでください」

「リュカまで！」

アンジェリクはリュカを睨むがリュカの方こそ文句を言いたい。アンジェリクは自分のことに無頓着過ぎる。使用人全員がそんなアンジェリクを心配しているのだ。

「さあさあ、お嬢様。今日は朝から晩までお嬢様のお好きなお食事ばかりご用意していますからね」

「もちろんデザートもお嬢様の好きなものばかりですよ」

「たくさんご用意していますから、食べられるだけ食べてくださいね」

「ええと、ここまでしてもらっていいのかしら？」

「ご主人様のためにみんな張り切っていたのです。是非楽しんでくださいませ、ご主人様」

「…そう。じゃあ、遠慮なく。ところでリュカ。今日の予定は？」

「本日は何も予定を入れていません。今日は何も考えずはしゃいでいいのですよ」

「執務も…ないの？」

「もちろんです」

「毎日がお誕生日ならいいのに」

「ふふ、そうですね。さあ、お嬢様。楽しみましょう」

「ええ、じゃあ、いただきます。…んー、美味しい！これも、これも、全部美味しいわ！今日一日で太っちゃうわ！」

「お嬢様のお気に召したなら幸いです！」

「お嬢様、こちらも自信作です、食べてみてください！」

「お嬢様、食後のケーキが入らなくならないように気をつけてくださいね」

「ふふ。ええ、気をつけるわ。本当にみんなありがとう。大好きよ」

アンジェリクの満面の笑みと大好きコールに使用人全員が浮かれる。使用人全員アンジェリクが大好きなのだ。

「ご主人様。食後はダンスパーティーなどいかがでしょうか？僭越ながら私がお相手役を務めますよ」

「いいわね。楽しみだわ」

「ふふ、ダンスホールもしっかりとご用意しておりますので、お楽しみに」

「ふふ、ええ」

「お嬢様、そろそろケーキをお持ちしますね。使用人一同心を込めてご用意致しました。どうぞ！」

使用人が持ってきたのは巨大なケーキ。アンジェリクと使用人全員で分け合ってちょうどいいくらいの大きさだ。

「さあ、お嬢様！改めてハッピーバースデーです！」

「ご主人様。改めましてお誕生日おめでとうございます」

「ええ。来年もこうして祝ってもらえると期待していいのかしら？」

「もちろんです、お嬢様」

「これから先、何年も、何十年もご主人様のお誕生日をお祝い致しますよ」

柔らかく微笑むリュカ。アンジェリクも満更でもない。

「さあさあ、お嬢様、ケーキを切り分けましょうね」

「ありがとう。…んー、美味しい！私の好みぴったりね！」

いつもよりも気合いの入ったケーキはいつも以上にとても美味しい。

「なんかこうして祝われるとすごく特別な日って感じがするわね」

「ええ。私達にとっては本当に特別な日ですから」

「もう、リュカったら」

「本当のことですよ？ねえ、皆さん」

「ええ、お嬢様にとって喜ばしい日は俺達にとっても喜ばしい日です！」

「そうですよ！私達お嬢様のことがとっても大好きなんですから！」

「お嬢様！一緒にこの日を迎えられて嬉しいです！本当におめでとうございます！」

「…私はやっぱり、使用人に恵まれているわね。幸せ者だわ」

「ふふ。ええ、そうでしょうとも。そして我々もまた、主人に恵まれた幸せ者です」

「ふふ。うん、そうね」

アンジェリクは最高の笑顔を浮かべてリュカに頷く。

「どうかこれからも、我々に尽くさせてください。ご主人様」

「もちろん。みんな、これからもよろしくね」

「はい！」

こうして今日も、アンジェリクは幸せを感じるのだ。