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女公爵は頼られる
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アンジェリクはリュカとともに皇宮へ向かう。といっても今回は献上品を携えてはいない。今日はベアトリス皇女から手紙で呼び出しを受けたのだ。
「私の大親友のアンへ
アン、最近寒くなってきたけれど体調はどうかしら?色々なお仕事で忙しいと思うけれど、無理はしないでね。
今日、こうしてお手紙を書いたのは相談があるからなの。手紙で書くような内容でも無いから、都合の良い日に皇宮へ来てもらえると嬉しいわ。
アンしか頼れる人がいないの。お願いよ?
貴女の大親友ベアトリスより」
こういった手紙がベアトリスから届くのは稀だ。おそらくは最近街を騒がせている猟奇的惨殺事件の件だろう。我らがお姫様を泣かせるのは心苦しい。急いで行かねばならない。アンジェリクは途中の道でアルファに会い、猟奇的惨殺事件についての情報を仕入れてベアトリスに謁見する。
「ベアトリス皇女殿下。エルドラド公爵、ただ今馳せ参じました」
「アン…!」
ベアトリス皇女は会ってすぐにアンジェリクに抱きつく。アンジェリクはそっとベアトリス皇女の背中をさすってやる。
「…街を騒がせている猟奇的惨殺事件の件、ですね?」
「ええ…」
ベアトリス皇女は目にいっぱい涙を溜めている。よほどショックが大きいようだ。
「…ごめんなさい。とりあえず、中庭に行きましょうか」
「はい」
ベアトリス皇女はアンジェリクを連れて中庭に行く。
「実は…お父様には内緒にしてね?使用人達が事件の噂話をしているのが耳に入って…お父様は過保護だから、私には秘密にしていたみたいなの。ただ、あまり詳しくは聞いていないのだけれど…えっと、たくさんの貧民達が殺されてしまったのよね…?」
「ええ。犠牲者は十八人。詳しくは言えませんが、凄惨な現場だったようです。五件の殺人事件があり、いずれも貧民の家族でした。同一犯と見て間違いないようです」
「そう…家族みんな…?」
「はい」
ベアトリス皇女はまた涙を流した。アンジェリクが柔らかい香りのするハンカチでそっと涙を拭ってやる。
「可哀想だわ…また、事件が起きる可能性もあるのよね…?」
「はい、おそらく」
「アン…貴女にこんなことを頼むのは心苦しいし、心配なのだけれど…次の事件を食い止めてくれないかしら?これ以上私の臣民が辛い思いをするのは嫌なの」
「もちろんです、ベアトリス皇女殿下。この国の公爵として、ベアトリス皇女皇女の大切な臣民達をお守りすると約束致します」
アンジェリクが微笑んで見せると、ベアトリス皇女はほっとした表情になる。
「ありがとう、アン。私が頼れるのは、アンだけだわ」
「そう言っていただけるのなら光栄です。では、私はリュカと事件を調べに行ってきますね」
「気をつけてね。くれぐれも無理はしないで」
「お任せください」
アンジェリクはリュカを連れて皇宮を出た。
この事件は非常に猟奇的だ。
貧民の家族が一家まるごと殺されている。被害者はナイフで刺されていずれも一撃で即死。両親と子供達の遺体は、まるで人形のように口を裂かれ縫い付けられて笑顔のような表情にさせられていた。そして家族の団欒のように整えられた部屋に、仲良く座らされている。そこにニコニコ笑顔の子供の人形が家族の一員のように真ん中に座っているのだ。犯人はよほど家族というものにこだわりがあるらしい。こんな事件が五件も起きたのである。これは世間を騒がすには十分だった。
被害者達の共通点は二つ。
貧民であること。そして、子供を一人、とある人物に奴隷として売ったことである。もちろんターブルロンド皇国では人身売買は禁止だ。ただ、それでも子供が死去したことにして口減らしに子供を売る貧民はいる。アンジェリクは、ベアトリス皇女が悲しむからそれを許すつもりはない。ただ、今回はベアトリス皇女が悲しむから新たな被害者となりえそうな者は助けてやるつもりだ。その後治安部隊に引き渡すつもりは満々だが。
そして奴隷を買ったとある人物とは、裕福な商人だったグレゴワールという男である。彼はある時奴隷をたくさん買い付け、買ってすぐに変死した。その遺体は首をねじ切られた凄惨なものだったらしい。多分この事件が鍵となるのだろう。
グレゴワールは、妻に病気で先立たれて、唯一の一人娘を溺愛していたらしい。が、その娘は妻と同じ病気で死去。その後黒魔術に傾倒し、娘を取り戻そうと躍起になっていたとのこと。多分、奴隷として買われた子供達は生贄に捧げられたのだろう。胸糞の悪い話である。
アンジェリクは、多分黒魔術は成功したんだろうと考えていた。子供達を生贄にし、娘は生き返り、その代わりに自分は代償として首をねじ切られた。そんなところだろう。そして、生き返った娘はなんらかの理由で殺人を繰り返しているのだろう。もしかしたら、黒魔術で生き返った彼女は生贄を捧げ続けなければ生きていけないのかもしれない。
アンジェリクはアルファから聞いた、グレゴワールに子供を奴隷として売った最後の一家の元へ向かう。
「私の大親友のアンへ
アン、最近寒くなってきたけれど体調はどうかしら?色々なお仕事で忙しいと思うけれど、無理はしないでね。
今日、こうしてお手紙を書いたのは相談があるからなの。手紙で書くような内容でも無いから、都合の良い日に皇宮へ来てもらえると嬉しいわ。
アンしか頼れる人がいないの。お願いよ?
貴女の大親友ベアトリスより」
こういった手紙がベアトリスから届くのは稀だ。おそらくは最近街を騒がせている猟奇的惨殺事件の件だろう。我らがお姫様を泣かせるのは心苦しい。急いで行かねばならない。アンジェリクは途中の道でアルファに会い、猟奇的惨殺事件についての情報を仕入れてベアトリスに謁見する。
「ベアトリス皇女殿下。エルドラド公爵、ただ今馳せ参じました」
「アン…!」
ベアトリス皇女は会ってすぐにアンジェリクに抱きつく。アンジェリクはそっとベアトリス皇女の背中をさすってやる。
「…街を騒がせている猟奇的惨殺事件の件、ですね?」
「ええ…」
ベアトリス皇女は目にいっぱい涙を溜めている。よほどショックが大きいようだ。
「…ごめんなさい。とりあえず、中庭に行きましょうか」
「はい」
ベアトリス皇女はアンジェリクを連れて中庭に行く。
「実は…お父様には内緒にしてね?使用人達が事件の噂話をしているのが耳に入って…お父様は過保護だから、私には秘密にしていたみたいなの。ただ、あまり詳しくは聞いていないのだけれど…えっと、たくさんの貧民達が殺されてしまったのよね…?」
「ええ。犠牲者は十八人。詳しくは言えませんが、凄惨な現場だったようです。五件の殺人事件があり、いずれも貧民の家族でした。同一犯と見て間違いないようです」
「そう…家族みんな…?」
「はい」
ベアトリス皇女はまた涙を流した。アンジェリクが柔らかい香りのするハンカチでそっと涙を拭ってやる。
「可哀想だわ…また、事件が起きる可能性もあるのよね…?」
「はい、おそらく」
「アン…貴女にこんなことを頼むのは心苦しいし、心配なのだけれど…次の事件を食い止めてくれないかしら?これ以上私の臣民が辛い思いをするのは嫌なの」
「もちろんです、ベアトリス皇女殿下。この国の公爵として、ベアトリス皇女皇女の大切な臣民達をお守りすると約束致します」
アンジェリクが微笑んで見せると、ベアトリス皇女はほっとした表情になる。
「ありがとう、アン。私が頼れるのは、アンだけだわ」
「そう言っていただけるのなら光栄です。では、私はリュカと事件を調べに行ってきますね」
「気をつけてね。くれぐれも無理はしないで」
「お任せください」
アンジェリクはリュカを連れて皇宮を出た。
この事件は非常に猟奇的だ。
貧民の家族が一家まるごと殺されている。被害者はナイフで刺されていずれも一撃で即死。両親と子供達の遺体は、まるで人形のように口を裂かれ縫い付けられて笑顔のような表情にさせられていた。そして家族の団欒のように整えられた部屋に、仲良く座らされている。そこにニコニコ笑顔の子供の人形が家族の一員のように真ん中に座っているのだ。犯人はよほど家族というものにこだわりがあるらしい。こんな事件が五件も起きたのである。これは世間を騒がすには十分だった。
被害者達の共通点は二つ。
貧民であること。そして、子供を一人、とある人物に奴隷として売ったことである。もちろんターブルロンド皇国では人身売買は禁止だ。ただ、それでも子供が死去したことにして口減らしに子供を売る貧民はいる。アンジェリクは、ベアトリス皇女が悲しむからそれを許すつもりはない。ただ、今回はベアトリス皇女が悲しむから新たな被害者となりえそうな者は助けてやるつもりだ。その後治安部隊に引き渡すつもりは満々だが。
そして奴隷を買ったとある人物とは、裕福な商人だったグレゴワールという男である。彼はある時奴隷をたくさん買い付け、買ってすぐに変死した。その遺体は首をねじ切られた凄惨なものだったらしい。多分この事件が鍵となるのだろう。
グレゴワールは、妻に病気で先立たれて、唯一の一人娘を溺愛していたらしい。が、その娘は妻と同じ病気で死去。その後黒魔術に傾倒し、娘を取り戻そうと躍起になっていたとのこと。多分、奴隷として買われた子供達は生贄に捧げられたのだろう。胸糞の悪い話である。
アンジェリクは、多分黒魔術は成功したんだろうと考えていた。子供達を生贄にし、娘は生き返り、その代わりに自分は代償として首をねじ切られた。そんなところだろう。そして、生き返った娘はなんらかの理由で殺人を繰り返しているのだろう。もしかしたら、黒魔術で生き返った彼女は生贄を捧げ続けなければ生きていけないのかもしれない。
アンジェリクはアルファから聞いた、グレゴワールに子供を奴隷として売った最後の一家の元へ向かう。
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