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女公爵は味方しない
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アンジェリクはリュカと共にグレゴワールに子供を売った最後の一家の元へ来た。一家は、突然の貴族の訪問にどよめいたが、人身売買の件で来たと言うと大人しくなった。
「あの時は…ああするしかなかったんです…」
「そう。でも、違法行為よ」
「…はい。罰は受けます」
「良い覚悟ね。事件が片付いたら治安部隊に引き渡すわ。いいわね?」
「事件が片付いたら…?」
「最近街を騒がせている猟奇的惨殺事件。あれは、グレゴワールという商人に子供を売った家族が狙われているわ」
「…!」
「私とリュカが助けてあげる。大人しくしていなさい」
「…は、はい。ありがとうございます…」
そしてアンジェリクとリュカはそのまま貧民一家の家に居座り続けた。そしていよいよ深夜、彼女はやってきた。
「…」
鍵をピッキングし、家に入る。そして足音を消して眠っている大人を刺し殺そうとした…その時。
「そこまでにしておきなさい」
部屋の電気がついた。
元死人であろう彼女は、どこからどう見ても普通の人間だった。
「ねえ、貴女お名前は?」
「リリーと申します。貴女方は?」
「アンジェリク・エルドラド。エルドラドの女公爵よ」
「リュカ・フォルクロールと申します。フォルクロール伯爵家の三男にして、ご主人様の執事です」
「あら、公爵様に目を付けられてしまいましたか?」
手に持っているナイフとは裏腹に、彼女の笑顔は穏やかだ。
「あれだけ凄惨な事件を起こせばね」
「え?凄惨ですか?一撃で仕留めましたし、一家の団欒を演出しましたのに」
「それが猟奇的なのよ。おばかさん」
「あら、そうですか?悲しいです…」
彼女は本当に悲しそうな表情だ。…善意だったとでも言うのだろうか?
「ついでに言うとね、そのベットの上は人形が寝ているわ。家族は別の家に避難させたの。悔しい?」
「あら、それは残念。うーん、私は彼らを家族の元へ返すまでは死ぬわけにいかないのですが…」
…彼ら、とは誰のことだろうか?
「ねえ、リリーさん。もしよければ、殺し合いになる前に貴女のお話を聞かせてくれる?貴女のことを報告する相手がいるの」
「お話くらいなら幾らでも」
そして彼女の話は始まった。
ー…
「家族の元へ帰りたい…」
そんな声が聞こえてくるんです。頭の中に直接響くその声は、どの子の声もとても悲しそうなんです。六人の子供達。今は五人を返して、たった一人の声だけですが。
私はその声が聞こえる度、犠牲となった子供達に申し訳がなくて。だから、子供達を返すことにしたんです。家族の元へ。
私は裕福な商人の娘として生まれました。幼い頃に優しく聡明な母を亡くしましたが、優しい父からたくさんの愛情を注がれて、幸せに包まれてすくすくと成長しました。
けれど、私は母と同じ病気で亡くなりました。
目が覚めたら、そこは地下室でした。一瞬天国か地獄かと思いましたが、すぐに違うとわかりました。父が首をねじ切られた状態でそこに転がっていたのです。父に泣きつくも、すでに事切れていました。私は、訳がわからない状況で父を思って泣いて泣いて。けれど、泣き止んだ時に声が聞こえたんです。
「家族の元へ帰りたい…」
私は、そこに転がっている彼らに初めて気付きました。ああ、この子達の声だ。父は禁呪を犯して私を蘇らせたんだとわかりました。私は、六人の子供達を犠牲にして生き返ったのです。
私は、父の罪を清算するため、子供達を家族の元へ返すことに決めました。
おそらく父が私のために用意してくれていたのであろうたくさんのお金を持ち、新品のドレスと靴を身につけて、私はドアを開けました。
そういえば、私は彼らの家族を知らない。さて、どうしたものでしょう?
けれど、きっと大丈夫。「家族の元へ帰りたい…」と嘆く彼らの声に従えば、きっといつか返せるはずです。
それからターブルロンド皇国の色んな場所を旅して、ようやくお目当ての家族を一人見つけました。
「お父さん!お父さん!お父さん!」
私は彼をつけました。そして家族を見つけました。念入りに計画を立てて、犯行を実施。彼らを殺して、笑顔を作って、団欒を演出し、そこに子供の人形を設置。そこまで終えると、子供の「やっと会えた…これでずっと一緒だね」という穏やかな声が聞こえてから、頭に響く声が一つ減ったのです。
彼の心底安心したような声で私は確信しました。父の罪を清算する方法は、これで間違いがないのだと。
憎しみなどありません。復讐でもありません。父の罪を清算するため、子供達を安らかに葬るため。これは、私が負った義務なのです。
ー…
「…なるほど。お父様が大好きなのね」
「はい。私のために黒魔術にまで手を染めてくれた、そんな父のためですから。そこをどいていただけますか?」
「それは無理だわ。我らがお姫様のためにも、この家族は守ってあげないといけないの。それに、人身売買は罪よ。それを清算させないといけない」
「ならば…」
「そしてその罪を清算するのは貴女でも子供達でもない。この国の法律よ。貴女の罪を裁くのも私ではなく、この国の法律。だから、大人しく投降しなさい?」
「…この子を、最後のこの子を返したら投降します。それまでは死ぬわけにも、捕まるわけにもいかないんです」
「ならば力尽くで行くわよ。リュカ」
「はい、ご主人様」
「彼女を捕まえなさい」
「仰せのままに」
「あの時は…ああするしかなかったんです…」
「そう。でも、違法行為よ」
「…はい。罰は受けます」
「良い覚悟ね。事件が片付いたら治安部隊に引き渡すわ。いいわね?」
「事件が片付いたら…?」
「最近街を騒がせている猟奇的惨殺事件。あれは、グレゴワールという商人に子供を売った家族が狙われているわ」
「…!」
「私とリュカが助けてあげる。大人しくしていなさい」
「…は、はい。ありがとうございます…」
そしてアンジェリクとリュカはそのまま貧民一家の家に居座り続けた。そしていよいよ深夜、彼女はやってきた。
「…」
鍵をピッキングし、家に入る。そして足音を消して眠っている大人を刺し殺そうとした…その時。
「そこまでにしておきなさい」
部屋の電気がついた。
元死人であろう彼女は、どこからどう見ても普通の人間だった。
「ねえ、貴女お名前は?」
「リリーと申します。貴女方は?」
「アンジェリク・エルドラド。エルドラドの女公爵よ」
「リュカ・フォルクロールと申します。フォルクロール伯爵家の三男にして、ご主人様の執事です」
「あら、公爵様に目を付けられてしまいましたか?」
手に持っているナイフとは裏腹に、彼女の笑顔は穏やかだ。
「あれだけ凄惨な事件を起こせばね」
「え?凄惨ですか?一撃で仕留めましたし、一家の団欒を演出しましたのに」
「それが猟奇的なのよ。おばかさん」
「あら、そうですか?悲しいです…」
彼女は本当に悲しそうな表情だ。…善意だったとでも言うのだろうか?
「ついでに言うとね、そのベットの上は人形が寝ているわ。家族は別の家に避難させたの。悔しい?」
「あら、それは残念。うーん、私は彼らを家族の元へ返すまでは死ぬわけにいかないのですが…」
…彼ら、とは誰のことだろうか?
「ねえ、リリーさん。もしよければ、殺し合いになる前に貴女のお話を聞かせてくれる?貴女のことを報告する相手がいるの」
「お話くらいなら幾らでも」
そして彼女の話は始まった。
ー…
「家族の元へ帰りたい…」
そんな声が聞こえてくるんです。頭の中に直接響くその声は、どの子の声もとても悲しそうなんです。六人の子供達。今は五人を返して、たった一人の声だけですが。
私はその声が聞こえる度、犠牲となった子供達に申し訳がなくて。だから、子供達を返すことにしたんです。家族の元へ。
私は裕福な商人の娘として生まれました。幼い頃に優しく聡明な母を亡くしましたが、優しい父からたくさんの愛情を注がれて、幸せに包まれてすくすくと成長しました。
けれど、私は母と同じ病気で亡くなりました。
目が覚めたら、そこは地下室でした。一瞬天国か地獄かと思いましたが、すぐに違うとわかりました。父が首をねじ切られた状態でそこに転がっていたのです。父に泣きつくも、すでに事切れていました。私は、訳がわからない状況で父を思って泣いて泣いて。けれど、泣き止んだ時に声が聞こえたんです。
「家族の元へ帰りたい…」
私は、そこに転がっている彼らに初めて気付きました。ああ、この子達の声だ。父は禁呪を犯して私を蘇らせたんだとわかりました。私は、六人の子供達を犠牲にして生き返ったのです。
私は、父の罪を清算するため、子供達を家族の元へ返すことに決めました。
おそらく父が私のために用意してくれていたのであろうたくさんのお金を持ち、新品のドレスと靴を身につけて、私はドアを開けました。
そういえば、私は彼らの家族を知らない。さて、どうしたものでしょう?
けれど、きっと大丈夫。「家族の元へ帰りたい…」と嘆く彼らの声に従えば、きっといつか返せるはずです。
それからターブルロンド皇国の色んな場所を旅して、ようやくお目当ての家族を一人見つけました。
「お父さん!お父さん!お父さん!」
私は彼をつけました。そして家族を見つけました。念入りに計画を立てて、犯行を実施。彼らを殺して、笑顔を作って、団欒を演出し、そこに子供の人形を設置。そこまで終えると、子供の「やっと会えた…これでずっと一緒だね」という穏やかな声が聞こえてから、頭に響く声が一つ減ったのです。
彼の心底安心したような声で私は確信しました。父の罪を清算する方法は、これで間違いがないのだと。
憎しみなどありません。復讐でもありません。父の罪を清算するため、子供達を安らかに葬るため。これは、私が負った義務なのです。
ー…
「…なるほど。お父様が大好きなのね」
「はい。私のために黒魔術にまで手を染めてくれた、そんな父のためですから。そこをどいていただけますか?」
「それは無理だわ。我らがお姫様のためにも、この家族は守ってあげないといけないの。それに、人身売買は罪よ。それを清算させないといけない」
「ならば…」
「そしてその罪を清算するのは貴女でも子供達でもない。この国の法律よ。貴女の罪を裁くのも私ではなく、この国の法律。だから、大人しく投降しなさい?」
「…この子を、最後のこの子を返したら投降します。それまでは死ぬわけにも、捕まるわけにもいかないんです」
「ならば力尽くで行くわよ。リュカ」
「はい、ご主人様」
「彼女を捕まえなさい」
「仰せのままに」
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