女公爵は軽薄に笑う

下菊みこと

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女公爵は同情する

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結果から言うと、一瞬だった。リュカのチェーンウィップが彼女のナイフを弾き飛ばし、彼女を狙う。リュカの保護魔法で怪我はしなかったものの、あまりの痛みに気絶した。

「拘束して治安部隊に引き渡すわよ」

「はい、ご主人様」

「もちろんこの家の家族も引き渡すわ」

「ええ。すぐに治安部隊に連絡しますね」

「…うーん、このまま引き渡すのもいいけれど、リュカ。リリーさん、本当に子供の霊に取り憑かれているか見てあげてくれない?」

「わかりました。…取り憑かれているどころか、魂が同化していますね。彼女の言う通り一人の子供だけみたいですが」

「そう。…なんとかしてあげられない?」

「お任せください。浄化は得意分野です」

リュカがリリーの頭に手を翳す。しばらくすると、笑顔でアンジェリクに振り返る。

「同化していた魂を浄化し、切り離しました。子供の魂は行くべきところへ向かうでしょう。リリー様も、もう声に振り回されることはないかと」

「ありがとう、リュカ」

「いえ。このような者にまで同情されるとは、ご主人様は本当にお優しい方ですね」

「あら、そんなことないわ」

こうして事件は収束した。リリーは死罪。子供を売った家族は牢獄へ送られることとなった。

ー…

事件を解決したアンジェリクとリュカはベアトリス皇女に事のあらましを報告するため皇宮へ向かう。

「ベアトリス皇女殿下におかれましてはご機嫌麗しく。本日はご報告したいことがあり馳せ参じました」

「アン!あの事件が解決したそうね!やっぱりアンが解決してくれたのね!」

「はい、ベアトリス皇女殿下」

「ありがとう!アン、大好きよ!」

ベアトリス皇女はアンジェリクの手を取ってぶんぶんと振り回す。嬉しくて仕方がないらしい。

「じゃあ、中庭に向かいましょう!」

にこにこと微笑むベアトリス皇女はアンジェリクと手を繋いだまま中庭に向かう。それを微笑ましげに受け入れるアンジェリク。

「貴女たち、アンに紅茶を淹れて差し上げて。お茶菓子もとっておきのおやつを用意してね」

「ベアトリス皇女殿下。ありがとうございます」

「いいの!大切な大親友のためだもの!」

「ご寵愛を賜りますこと、光栄です」

「もう、アンったら!ご寵愛じゃなくて友情でしょ!」

「ふふ、ありがとうございます。ベアトリス皇女殿下にそう言っていただけますと嬉しいです」

「私だってアンとこうして親しく出来て幸せよ?大親友ですもの!…それでその…」

「事件の件をご報告してもよろしいでしょうか?」

「ええ、お願い」

アンジェリクは事件のあらましを報告した。ベアトリス皇女は話を聞いてとても悲しげにしている。

「そんなことがあったのね…可哀想だわ…」

「ですが、リュカの浄化魔法で最後の子供も魂を浄化され行くべきところへ向かいました。リリーも子供の声から解放されているはずです」

「そうよね。それはとても良かったわ。ただ、お父様をそんな形で亡くされたリリーさんは、きっと死刑が遂行されるその日まで苦しむわよね。それが可哀想なの」

「ベアトリス皇女殿下…」

我らがお姫様の、なんと慈悲深いことだろう。

「でも、最後の家族だけでも助かってくれて良かったわ!アン、本当にありがとう!」

ふわり、と花が咲くように笑ったベアトリス皇女に、アンジェリクはほっと胸を撫で下ろした。どうやら今回もベアトリス皇女の役に立てたようだ。

「お役に立てたのなら光栄です」

「やっぱり持つべきものは頼りになる大親友ね!」

アンジェリクはベアトリス皇女の言葉に笑顔になる。やはり、ベアトリス皇女から大親友と呼ばれるのは畏れ多くも嬉しいものがある。

「ベアトリス皇女殿下。これからも何かありましたら私を頼ってくださいね。お役に立ってみせますよ」

「ふふ、もちろん!私が頼れるのはアンだけだもの!これからも仲良くしてね、アン」

「もちろんです。ベアトリス皇女殿下が望んでくださる限り、大親友として精一杯努めさせていただきます」

「ふふ、アンったらお堅いわ。大親友なんですもの。もっと力を抜いていいのよ?」

「はい。ありがとうございます、ベアトリス皇女殿下」

「昔みたいにベアトリス様って呼んでくれてもいいのよ?」

「それはさすがに畏れ多いです」

「そう?でも、私はいつかまたあんな風に呼んで欲しいわ」

「そうですね。あの頃はあの頃で楽しかったですから。けれど、今のベアトリス皇女殿下との関係も、私は好きですよ」

「もちろん私だってそうよ?アンとは長い付き合いだもの。昔のような関係も、今の関係も変わらず好きよ」

「でしたら今の呼び方でも問題ありませんね」

「まあそれもそうね。アンとはこれからもお付き合いが続くんだし、いつかまたベアトリス様って呼んでくれる可能性もあるしね」

「ベアトリス皇女殿下、それは諦めてくださいませんか?」

「嫌よ?」

「…ベアトリス皇女殿下には敵いませんね」

「ふふ。だって私は箱入りのわがまま皇女だもの!」

「またそんなことをおっしゃられて…」

こうしてアンジェリクはベアトリス皇女に癒されて、リュカとともに皇宮を後にするのだった。
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