女公爵は軽薄に笑う

下菊みこと

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女公爵は歓迎する

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今日は、エルドラド公爵の使用人達がいつもより早く起きた。客が来るのでその準備をするのである。

「皆様、おはようございます。早速ですが、ルードヴィッヒ。貴方はお客様を迎えるにあたって晩餐のメニューを決めて仕込みをお願いします」

「はい!リュカ様!」

「リリー。貴女は客間のリネンの張り替えをお願いします。その後新しいテーブルクロスを下ろし、晩餐に使う食器を選び磨き上げてください」

「お任せください!」

「クリス。貴方は中庭の草むしりをお願いします。芝生の整備と薔薇園の整備もお願いしますね」

「頑張ります!」

「他の皆様はいつも通りの仕事をお願いしますね」

「はい!」

「では、始めましょう」

「よろしくお願いします!」

こうしてエルドラド公爵家の朝が始まった。

まずルードヴィッヒ。彼は今日の晩餐のメインにビーフシチューを選んだ。

玉ねぎをスライスし、にんにくを粗みじん切りに。ブラウンマッシュルームをカットし、牛バラ肉を一口大に。塩と胡椒で肉に下味をつけて薄力粉を塗す。強火で肉に焼き目をつけて、一度取り出す。そのフライパンにバターと玉ねぎを入れて炒める。塩を振って、飴色になるまで炒める。玉ねぎが飴色になると、肉を戻して赤ワインを並々と注ぎ入れ、水も注ぐ。黒胡椒と塩とフォン・ド・ヴォーを入れる。蓋をせずにひたすら煮込む。ブラウンマッシュルームをバターで炒める。よく煮たビーフシチューに蜂蜜を加えさらに煮込む。そしてバターを溶かしたブラウンマッシュルームをビーフシチューに加えて、バターをさらに溶かしこみ、また煮込む。

ルードヴィッヒのビーフシチューが完成した。

次にリリー。彼女は客間のリネンを皺一つなく綺麗に張り替える。晩餐のための新しいテーブルクロスを下ろし、晩餐に使う食器を選ぶ。食器を全てピカピカに磨きあげると、彼女の仕事もひと段落である。

最後にクリス。彼は中庭の草むしりをし、芝生の整備と薔薇園の整備をする。それが終わると庭木を剪定し、お客様を迎える準備はばっちりだ。

アンジェリクを起こして身の回りの世話をするリュカだが、合間合間に彼らの働きを逐一チェックする。三人は、そんなリュカも太鼓判を押す働きぶりであった。

「リュカ。今日の予定は?」

「本日のご予定は、午前中は執務を行なっていただきます。午後は七時からキク・オベルジュ様がいらっしゃいますよ」

「今日は菊様がいらっしゃる日なのね。菊様は丁重におもてなししないと。準備は出来ているかしら?」

「もちろんでございます。私が使用人達の中から選りすぐりの人材を選びましたので、最高のおもてなしをさせていただきます」

「ありがとう。あのオベルジュ伯爵家の、若奥様ですもの。今後のためにも、よろしくね」

「はい、お任せください」

キク・オベルジュ。旧姓を立花 菊。極東の国から海を渡ってオベルジュ伯爵に嫁いだ貴族の娘だ。なんでも、オベルジュ伯爵が極東の国に行った際に一目惚れしたそうで、猛烈なアタックを受けた菊はオベルジュ伯爵に恋をしたそうだ。社交界では、おしどり夫婦として有名である。

なぜアンジェリクが菊を邸宅に招いたか。それは、エルドラド領内に新しいレジャー施設をオープンするからだ。新しいレジャー施設のコンセプトはずばり「和」。極東の国の雰囲気を全面に押し出していくことにしている。特に、目玉は「旅館」と呼ばれるホテルである。最近のターブルロンド皇国は「和」「極東の国」が流行りだ。しばらくはブームが続くだろう。今が稼ぎ時である。ということで、ようはアンジェリクは菊にアドバイスをお願いしたいのだ。もちろん報酬を弾むつもりである。

そして、菊が到着した。

「いらっしゃいませ」

「まあ、ありがとう」

「菊様、お待ちしておりました」

「エルドラド公爵様。本日はお招きいただきありがとうございます」

「こちらこそ、本日はよろしくお願い致します」

「ごめんなさい。本当なら夫も来させるべきだと思うのですけれど、あの人あのエルドラド公爵様とだなんて、と言って来てくれなかったのです。許してくださいますか?」

「いえ、菊様が来てくださっただけで光栄ですから」

「あらまあ。嬉しいですわ」

「では早速晩餐と致しましょう」

「ええ」

そして晩餐が始まった。

「それで、早速なのですけれどお返事をくださるでしょうか?」

「そのことですけれど…私などにアドバイザーが勤まるでしょうか?」

「むしろこの国では菊様以上の適任はいないかと」

「まあ…私を高く買っていただけるのね。嬉しいですわ。けれど、自信がないの。引き受けるなら中途半端なことは出来ませんし…」

「ええ、そうですね。とりあえず、報酬は円卓金貨をこのくらい払おうかと思うのですが…」

アンジェリクは円卓金貨が大量に入った袋を菊に差し出す。

「こ…こんなに?」

「それほどまでに菊様の知識は価値があるのです。どうでしょうか?」

「…む、無理です」

「え?」

「この半分を報酬にしてください。さすがに高過ぎます」

「…えっと。菊様がそれでいいのなら」

「はい。頑張りますね」

「では、これからよろしくお願い致します」

「よろしくお願い致します」

こうしてアンジェリクは菊というアドバイザーを得たのであった。
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