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女公爵は自領の孤児をもてなす
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「おはようございます、ご主人様。今日もいい朝ですよ」
「んん…もうちょっと…」
「いけません、ご主人様。今日はお客様が来ることをお忘れですか?」
「んー…?ああ…孤児院の…」
「ええ。孤児達が遊びにいらっしゃいます。ノブレスオブリージュの一環ですね。もう準備はしてありますから、あとは子供達の到着を待つだけ。ご主人様もシャキッと準備をしてください」
「んん…んー…わかったわ…」
アンジェリクはリュカに起こされ朝の支度をする。
「洗顔水とタオルです。どうぞ」
「ありがとう」
アンジェリクは顔を洗って、いつも通りリュカに着替えを手伝わせ、髪を梳いてもらう。
「さあ、朝ご飯に致しましょう。その後すぐに子供達がいらっしゃいますよ」
「ええ」
ー…
「わあーい!お城みたーい!」
「キラキラしてるー!」
「あの肖像画の人きれー!」
「皆様、いらっしゃいませ。エルドラド公爵家へようこそ。主人からお話があるので、少しだけ、しー、ですよ」
「お口チャック?」
「ええ」
子供達は素直に口を閉じる。が、そわそわと興奮した様子だ。こんなに広い立派な屋敷はなかなか来れるものではない。しかも目の前にはどう見ても高級なお菓子の山。正直お貴族様のありがたいお話よりもはやく目の前のお菓子を食べたいのだ。たった一日だけの、夢の国を堪能したい。
「みんな、よく集まってくれたわね。歓迎するわ。あなた達はこのエルドラドの宝。将来の財産。色々な境遇の子がいるでしょうけれど、どうか孤児院で学べることを全て吸収して、このエルドラドを支える一員になってちょうだい。…さて、長々とごめんなさいね。今日はそんなあなた達に日頃の頑張りのご褒美としてたくさんのお菓子を用意したわ。どうか楽しんでいってちょうだい。さあ、今日は無礼講よ。好きなだけ好きなものを食べていってね」
その言葉に子供達はぱあっと笑顔になって、お菓子に駆け寄る。
「ねえねえ、このケーキ食べていいの?本当に?」
「もちろんよ。好きなものを好きなだけ食べなさい」
子供達はとても喜んでいる。このままいけば今日の慈善活動は成功するだろう。たまには慈善活動をしておかないと他の貴族達から白い目で見られてしまうので、ちょうどよかった。
「わーい!俺マカロン貰い!」
「ブリオッシュが食べたーい!」
「プリンたべるー!」
子供達は思い思いにお菓子を選んで食べ始める。
「紅茶もお淹れしますね。皆様どうぞ」
リュカがすかさず紅茶を淹れる。子供達は紅茶にすら感動したようだ。
「んくっ…んー!これ本当に紅茶!?超美味いんだけど!」
「美味しー」
「癒されるー」
子供達は大いに楽しんでいる。アンジェリクとリュカ、それに周りにいる使用人達も子供達に釣られて思わず笑顔になる。
「見てみて、チョコフォンデュもあるよ?」
「先にそれを言えよな!美味しそー!」
微笑ましく見守っていると、子供達のうちの一人がアンジェリクのドレスの裾を引っ張る。アンジェリクがちらりと振り向けば、おずおずと話しかけてくる。
「執事さんと使用人さんと公爵様は食べないの?」
「うふふ。今日の主役はあなた達だもの。私達のことは気にしないで」
「お心遣いありがとうございます。どうかお気になさらないでください」
「ふーん。わかった!」
とてとてとチョコフォンデュの方に走っていく子供。とても愛らしい。
「こういうこともたまにはいいわね、リュカ」
「そうですね、ご主人様」
そうして時間は過ぎ、子供達が帰る時間となった。
「公爵様、ありがとうございました!」
「ちゃんとお礼を言えるなんて偉いわね」
帰り際にきちんと挨拶をする子供達の頭を撫でるアンジェリク。
「またいつか、会えますか?」
「ええ。約束はしないけれど、きっといつか」
「楽しみにしてるね!」
「ええ。私もあなた達の成長を見られるのがとても楽しみだわ」
「ばいばーい!」
「またねー!」
そうして子供達は帰っていった。さて、この後の予定は…。
「では、ご主人様。執務を行いますよ」
「…どうしてもやらなきゃいけない?」
「はい。やらなければいけません」
「はーい…その代わり、フォンダンショコラが食べたい」
「シェフ達にお伝えしておきます」
「本当に?俄然やる気が出てきたわ」
「では、早速どうぞ」
その後アンジェリクは鬼のような集中力で執務を行う。その様子を側で見守るリュカは、アンジェリクの集中力が切れそうなタイミングでフォンダンショコラを用意し、それに合わせて紅茶を淹れる。
「ご主人様。そろそろ休憩に致しましょう」
「あら、ありがとう。…んー、これこれ。やっぱり頭脳労働には甘いものよねー。シェフ達を褒めてあげないと」
「では、あとでシェフ達にもお伝えしておきますね」
「ありがとう」
アンジェリクはフォンダンショコラで一息つくと、また執務を行う。
「…」
そして夕飯の時間になった。
「ご主人様。今日の執務はここまでにしましょう。そろそろお夕飯のお時間ですよ」
「もうそんな時間?わかったわ」
こうして今日もアンジェリクの長い一日が終わる。
「んん…もうちょっと…」
「いけません、ご主人様。今日はお客様が来ることをお忘れですか?」
「んー…?ああ…孤児院の…」
「ええ。孤児達が遊びにいらっしゃいます。ノブレスオブリージュの一環ですね。もう準備はしてありますから、あとは子供達の到着を待つだけ。ご主人様もシャキッと準備をしてください」
「んん…んー…わかったわ…」
アンジェリクはリュカに起こされ朝の支度をする。
「洗顔水とタオルです。どうぞ」
「ありがとう」
アンジェリクは顔を洗って、いつも通りリュカに着替えを手伝わせ、髪を梳いてもらう。
「さあ、朝ご飯に致しましょう。その後すぐに子供達がいらっしゃいますよ」
「ええ」
ー…
「わあーい!お城みたーい!」
「キラキラしてるー!」
「あの肖像画の人きれー!」
「皆様、いらっしゃいませ。エルドラド公爵家へようこそ。主人からお話があるので、少しだけ、しー、ですよ」
「お口チャック?」
「ええ」
子供達は素直に口を閉じる。が、そわそわと興奮した様子だ。こんなに広い立派な屋敷はなかなか来れるものではない。しかも目の前にはどう見ても高級なお菓子の山。正直お貴族様のありがたいお話よりもはやく目の前のお菓子を食べたいのだ。たった一日だけの、夢の国を堪能したい。
「みんな、よく集まってくれたわね。歓迎するわ。あなた達はこのエルドラドの宝。将来の財産。色々な境遇の子がいるでしょうけれど、どうか孤児院で学べることを全て吸収して、このエルドラドを支える一員になってちょうだい。…さて、長々とごめんなさいね。今日はそんなあなた達に日頃の頑張りのご褒美としてたくさんのお菓子を用意したわ。どうか楽しんでいってちょうだい。さあ、今日は無礼講よ。好きなだけ好きなものを食べていってね」
その言葉に子供達はぱあっと笑顔になって、お菓子に駆け寄る。
「ねえねえ、このケーキ食べていいの?本当に?」
「もちろんよ。好きなものを好きなだけ食べなさい」
子供達はとても喜んでいる。このままいけば今日の慈善活動は成功するだろう。たまには慈善活動をしておかないと他の貴族達から白い目で見られてしまうので、ちょうどよかった。
「わーい!俺マカロン貰い!」
「ブリオッシュが食べたーい!」
「プリンたべるー!」
子供達は思い思いにお菓子を選んで食べ始める。
「紅茶もお淹れしますね。皆様どうぞ」
リュカがすかさず紅茶を淹れる。子供達は紅茶にすら感動したようだ。
「んくっ…んー!これ本当に紅茶!?超美味いんだけど!」
「美味しー」
「癒されるー」
子供達は大いに楽しんでいる。アンジェリクとリュカ、それに周りにいる使用人達も子供達に釣られて思わず笑顔になる。
「見てみて、チョコフォンデュもあるよ?」
「先にそれを言えよな!美味しそー!」
微笑ましく見守っていると、子供達のうちの一人がアンジェリクのドレスの裾を引っ張る。アンジェリクがちらりと振り向けば、おずおずと話しかけてくる。
「執事さんと使用人さんと公爵様は食べないの?」
「うふふ。今日の主役はあなた達だもの。私達のことは気にしないで」
「お心遣いありがとうございます。どうかお気になさらないでください」
「ふーん。わかった!」
とてとてとチョコフォンデュの方に走っていく子供。とても愛らしい。
「こういうこともたまにはいいわね、リュカ」
「そうですね、ご主人様」
そうして時間は過ぎ、子供達が帰る時間となった。
「公爵様、ありがとうございました!」
「ちゃんとお礼を言えるなんて偉いわね」
帰り際にきちんと挨拶をする子供達の頭を撫でるアンジェリク。
「またいつか、会えますか?」
「ええ。約束はしないけれど、きっといつか」
「楽しみにしてるね!」
「ええ。私もあなた達の成長を見られるのがとても楽しみだわ」
「ばいばーい!」
「またねー!」
そうして子供達は帰っていった。さて、この後の予定は…。
「では、ご主人様。執務を行いますよ」
「…どうしてもやらなきゃいけない?」
「はい。やらなければいけません」
「はーい…その代わり、フォンダンショコラが食べたい」
「シェフ達にお伝えしておきます」
「本当に?俄然やる気が出てきたわ」
「では、早速どうぞ」
その後アンジェリクは鬼のような集中力で執務を行う。その様子を側で見守るリュカは、アンジェリクの集中力が切れそうなタイミングでフォンダンショコラを用意し、それに合わせて紅茶を淹れる。
「ご主人様。そろそろ休憩に致しましょう」
「あら、ありがとう。…んー、これこれ。やっぱり頭脳労働には甘いものよねー。シェフ達を褒めてあげないと」
「では、あとでシェフ達にもお伝えしておきますね」
「ありがとう」
アンジェリクはフォンダンショコラで一息つくと、また執務を行う。
「…」
そして夕飯の時間になった。
「ご主人様。今日の執務はここまでにしましょう。そろそろお夕飯のお時間ですよ」
「もうそんな時間?わかったわ」
こうして今日もアンジェリクの長い一日が終わる。
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