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小さな頃からの一途な恋

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ジョセフィーヌ・イアサント第一王女殿下。女王による統治を代々行ってきたイアサント王国の将来の女王である。派手なドレスよりも騎士服を愛する彼女は、男装の麗人として貴族令嬢のみならず平民の女性達からも支持を集めていた。

そんな彼女の隣にはいつも嫋やかな印象の男性が一人。フェリシアン・イアサント。ジョセフィーヌの旦那様である。彼は詩を愛し、花を愛し、そして何よりジョセフィーヌを愛している。

ジョセフィーヌは、そんなフェリシアンのことを誰よりも愛している。これはそんな二人がお互いを深く愛するようになるまでのお話である。













「ジョセフィーヌ様」

「はい」

「落馬するということは、馬に信頼されていないと同時に舐められている証拠です。もっと堂々と、馬を自分の支配下に置くイメージで!」

「は、はい!」

この日ジョセフィーヌは、乗馬の練習をしていた。ジョセフィーヌは将来女王になる。普通の女の子のように詩や花や殿方に夢を見るのは、ジョセフィーヌの仕事ではなかった。男性にも負けないくらい強く逞しく賢くならなければならない。

「…今日は婚約者となったフェリシアン様との顔合わせの日でしたね。ここまでと致します」

「ありがとうございました」

「ジョセフィーヌ様には女王になる資質がお有りです。あとはもっと頑張りましょうね」

「…はい。頑張ります」

本当は。自分だって、他の女の子に混じって楽しくお茶会をしたい。でも、それは許されない。悔しい。そんな気持ちがぐるぐると頭を回る中で、ジョセフィーヌはフェリシアンと出逢った。

「ジョセフィーヌ・イアサントです」

「フェリシアン・ウスターシュです!よかったぁっ!」

「え?」

フェリシアンは開口一番によかったという。何が良かったのか。

「僕のお嫁さんはとっても可愛いね!僕嬉しいな!ねえねえ、好きな花はある?今度持ってくるよ!ケーキは好きかな?今日おすすめのケーキを持って来たんだけど一緒に食べてくれる?あ、僕の愛する詩集を持ってきたんだけど、良かったら読んでくれる?」

フェリシアンのマシンガントークにジョセフィーヌは一瞬戸惑う。けれどそのおかげで緊張と、嫌な気持ちは吹き飛んだ。ジョセフィーヌはフェリシアンに好感を持つ。

「…うん!一緒に食べよう!詩集も時間がある時に読むね!花はあんまり詳しくないんだけど、強いて言うなら白百合が好きだよ!」

「百合いいよね!わかった、今度持ってくるね!紅茶を淹れるね!」

「え、そんなの使用人に頼めばいいのに」

「僕が、君のために淹れてあげたいの」

そう言ってにっこり笑ったフェリシアンに、ジョセフィーヌは心を奪われた。












「射撃訓練を行います。狩りにも、戦いにも必要な技術です。ジョセフィーヌ様、しっかりと身につけてくださいね」

「はい」

「では、先程お教えした通りに。狙いを定めて」

銃声が響く。残念ながら的には当たっていない。

「…ダメですね。いずれは馬上での射撃訓練に移行するのです。ここで躓いてはいけません」

「申し訳ありません」

「さあ、もう一度!手本を見せますので…」

「ジョセフィーヌー!」

「フェリシアン!?」

フェリシアンがジョセフィーヌの元に駆け寄る。

「ジョセフィーヌ、サプライズで会いにきたよ!驚いた?」

「う、うん。あ、お花…白百合持ってきてくれたんだ」

「うん!美味しいクッキーも、僕のお手製だよ!一緒に食べよう!ねえ、えーっと、家庭教師の先生!休憩していい?」

「もちろんです」

フェリシアンのおかげで、ジョセフィーヌは一度休憩を挟めた。

「ジョセフィーヌ、君は本当に美しいね」

「え、そうかな」

「うん。努力する姿がかっこいいんだ!」

「…かっこいいかぁ」

好きな人には、可愛いと言って欲しかった。

「じゃあ、早速クッキーいただきます!」

「召し上がれ!」

「…うん、美味しい!」

思わず笑顔になるほど美味しい。手作りの割にクオリティーが高いが、やはり所々焦げてはいる。でも、それもまた味わい深いとジョセフィーヌは思った。そんなジョセフィーヌに、フェリシアンは見惚れていた。

「…フェリシアン?どうしたの?」

「僕のお手製のお菓子を、そんな風に食べてくれるのは君が初めて。男らしくないと怒られてばかりだもの。しかもそんな可憐で素敵な笑顔で。僕、胸がドキドキして苦しい。ジョセフィーヌ、大好きだよ」

フェリシアンはそう言うと、ジョセフィーヌの頬に軽くキスをした。ジョセフィーヌは頬を押さえて真っ赤になる。

「そんな表情も可愛いね、ジョセフィーヌ。僕の愛するお嫁さん、早く結婚したいな」

「…うん、私もフェリシアンと早く結婚したい」

「じゃあ、お互いお勉強とか色々頑張って早く大人に認められようね!」

「うん!」

この日からジョセフィーヌは、仕方なくやっていた勉強や鍛錬に力を入れるようになった。













「ジョセフィーヌ様」

「はい」

「教養が良く身についています。上の年代の子供たちよりずっと優秀だと言えます。この調子で頑張りましょう」

「はい!」

きちんと勉強に向き合うようになると、ジョセフィーヌは驚異的なスピードで教養が身についた。それだけではなく、鍛錬にも磨きをかけるジョセフィーヌ。

「一本!お見事です、ジョセフィーヌ様!また歳上の男の子に勝てましたね」

「私は女王になって、フェリシアンと結婚しますので。自分自身も、ちょっとだけなよっとしているフェリシアンも守れる強さを身につけないと」

「良い覚悟です。ですが、そのためにはまず女王として臣民を守る必要がありますよ」

「わかっています。臣民にとって良い女王を目指します」

「素晴らしい!」

ジョセフィーヌは、次期女王に相応しい王女に成長した。
















ある日、ジョセフィーヌとフェリシアンは同じ神輿に乗ってパレードに参加した。そこで事件は起こった。

「ジョセフィーヌ!」

「フェリシアン…?」

何かに気付いた様子のフェリシアンが、ジョセフィーヌを庇うように抱きしめる。次の瞬間、銃声が響いた。

「フェリシアン…!今の!」

「大丈夫だよ、ジョセフィーヌ」

「大丈夫じゃない!すぐに治癒魔法を!」

「…うん、さっきのスナイパーは逃げたみたいだし、お願いするよ」

ジョセフィーヌはフェリシアンに治癒魔法をかける。場は一時騒然としたが、フェリシアンがすぐにジョセフィーヌによって怪我を回復したこともありすぐに落ち着いた。少しごたついたが、それでもパレードは続く。

「フェリシアン、もうあんな無茶はしないで」

「愛する君を守ることこそ僕の幸せだもの。無茶なんていくらでもするよ」

ジョセフィーヌは決めた。もっともっと鍛錬を重ねて、フェリシアンを今度こそ守ると。
















そして二人は結婚して、今は二人の時間を楽しんでいる。

「ねえ、フェリシアン」

「なに?ジョセフィーヌ」

「二人の時間も幸せだけど、そろそろ子供も欲しいね」

フェリシアンは目を瞠る。が、次の瞬間にはものすごい笑顔を見せる。

「ジョセフィーヌとの子供、きっと可愛いんだろうなぁ」

「ふふ、楽しみだね!」

「うん!…ジョセフィーヌ」

「なに?」

「愛してるよ」

ジョセフィーヌの返事は、もちろん決まっている。

「私もフェリシアンを愛してる!」
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