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婚約者が風邪をひいた

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ある日、いつものようにエレナに会いに行くとエレナの部屋に通された。エレナが風邪を引いたらしい。ベッドで眠るエレナ。その頬は火照っていて、かなりの高熱だとわかる。

「ねえ。風邪とか言ってたけど、エレナはすごく辛そうだね。本当にただの風邪?」

「それが…大きな病気ではないそうなのですが、いくら風邪とはいえ油断はできないものだそうで。今回は重い風邪にかかってしまったそうなのです」

「そうなの?…治るんだよね?」

「もちろんです!処方していただいたよく効くお薬もきちんと飲んでいらっしゃいますから、すぐに良くなるはずです。ただ、副作用ですごく眠くなるそうで…せっかくお見舞いにきていただいたのに申し訳ないのですが、寝かせて差し上げてください」

「それはもちろん。説明ありがとう。助かったよ」

「いえいえ!」

エレナは起こさない方が良さそうなので、眠るその表情を見ながら穏やかな時間を過ごす。エレナの手を握ると、すごく熱い。魔道具の、いつまでも取り替えなくても冷たい氷枕も使っているようなのに。よっぽど辛いのか、息も少し荒い。可哀想に。

「エレナ、早く良くなって」

エレナの笑顔が見たい。辛そうなエレナを見ると、胸がぎゅっとする。

「クリス様…」

えへへと笑ったエレナ。一瞬起きたのかと思ったが、どうもまだ夢の中らしい。

「僕を夢に見て、それでそんな可愛い顔をするの?…本当に、狡いんだから」

こんなの、嬉しくないはずがない。唇へのキスは結婚式まで我慢しなければならないので、そっと熱い左手の甲にキスを落とす。続けて、僕がプレゼントした婚約指輪にも同じくキスを落とす。自分でやっておいて、エレナは今僕の婚約者なのだと少しときめく。

「エレナ。風邪なんかに負けちゃいけないよ。必ず僕のそばにいて。風邪なんかに持っていかれないでね」

熱で苦しそうなのに、夢に僕を見て幸せそうに笑っているエレナが可愛かったが、また苦しそうな表情に戻ってしまう。一応確認してみたが、魔道具の氷枕はきちんと冷たい。同じくおでこに当ててある冷たい布の魔道具もやはり冷たい。きちんと冷やしてあるのに、それでもやっぱり寝苦しいのか。

「何か君にしてあげられることはないかな」

未だに熱いエレナの頬を両手で包む。僕の手の温度が気持ちいいのか、頬をグリグリと擦り寄せてくるエレナに僕の方が癒される結果となった。

「まったく、エレナったら無防備なんだから。そんな君を心から愛しているよ」

エレナが気に入ったようなので、そのままエレナの熱が手に移るまで頬を冷やすことにした。数日後エレナは回復し、僕はホッと胸を撫で下ろした。
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