90 / 103
婚約者が風邪をひいた
しおりを挟む
ある日、いつものようにエレナに会いに行くとエレナの部屋に通された。エレナが風邪を引いたらしい。ベッドで眠るエレナ。その頬は火照っていて、かなりの高熱だとわかる。
「ねえ。風邪とか言ってたけど、エレナはすごく辛そうだね。本当にただの風邪?」
「それが…大きな病気ではないそうなのですが、いくら風邪とはいえ油断はできないものだそうで。今回は重い風邪にかかってしまったそうなのです」
「そうなの?…治るんだよね?」
「もちろんです!処方していただいたよく効くお薬もきちんと飲んでいらっしゃいますから、すぐに良くなるはずです。ただ、副作用ですごく眠くなるそうで…せっかくお見舞いにきていただいたのに申し訳ないのですが、寝かせて差し上げてください」
「それはもちろん。説明ありがとう。助かったよ」
「いえいえ!」
エレナは起こさない方が良さそうなので、眠るその表情を見ながら穏やかな時間を過ごす。エレナの手を握ると、すごく熱い。魔道具の、いつまでも取り替えなくても冷たい氷枕も使っているようなのに。よっぽど辛いのか、息も少し荒い。可哀想に。
「エレナ、早く良くなって」
エレナの笑顔が見たい。辛そうなエレナを見ると、胸がぎゅっとする。
「クリス様…」
えへへと笑ったエレナ。一瞬起きたのかと思ったが、どうもまだ夢の中らしい。
「僕を夢に見て、それでそんな可愛い顔をするの?…本当に、狡いんだから」
こんなの、嬉しくないはずがない。唇へのキスは結婚式まで我慢しなければならないので、そっと熱い左手の甲にキスを落とす。続けて、僕がプレゼントした婚約指輪にも同じくキスを落とす。自分でやっておいて、エレナは今僕の婚約者なのだと少しときめく。
「エレナ。風邪なんかに負けちゃいけないよ。必ず僕のそばにいて。風邪なんかに持っていかれないでね」
熱で苦しそうなのに、夢に僕を見て幸せそうに笑っているエレナが可愛かったが、また苦しそうな表情に戻ってしまう。一応確認してみたが、魔道具の氷枕はきちんと冷たい。同じくおでこに当ててある冷たい布の魔道具もやはり冷たい。きちんと冷やしてあるのに、それでもやっぱり寝苦しいのか。
「何か君にしてあげられることはないかな」
未だに熱いエレナの頬を両手で包む。僕の手の温度が気持ちいいのか、頬をグリグリと擦り寄せてくるエレナに僕の方が癒される結果となった。
「まったく、エレナったら無防備なんだから。そんな君を心から愛しているよ」
エレナが気に入ったようなので、そのままエレナの熱が手に移るまで頬を冷やすことにした。数日後エレナは回復し、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「ねえ。風邪とか言ってたけど、エレナはすごく辛そうだね。本当にただの風邪?」
「それが…大きな病気ではないそうなのですが、いくら風邪とはいえ油断はできないものだそうで。今回は重い風邪にかかってしまったそうなのです」
「そうなの?…治るんだよね?」
「もちろんです!処方していただいたよく効くお薬もきちんと飲んでいらっしゃいますから、すぐに良くなるはずです。ただ、副作用ですごく眠くなるそうで…せっかくお見舞いにきていただいたのに申し訳ないのですが、寝かせて差し上げてください」
「それはもちろん。説明ありがとう。助かったよ」
「いえいえ!」
エレナは起こさない方が良さそうなので、眠るその表情を見ながら穏やかな時間を過ごす。エレナの手を握ると、すごく熱い。魔道具の、いつまでも取り替えなくても冷たい氷枕も使っているようなのに。よっぽど辛いのか、息も少し荒い。可哀想に。
「エレナ、早く良くなって」
エレナの笑顔が見たい。辛そうなエレナを見ると、胸がぎゅっとする。
「クリス様…」
えへへと笑ったエレナ。一瞬起きたのかと思ったが、どうもまだ夢の中らしい。
「僕を夢に見て、それでそんな可愛い顔をするの?…本当に、狡いんだから」
こんなの、嬉しくないはずがない。唇へのキスは結婚式まで我慢しなければならないので、そっと熱い左手の甲にキスを落とす。続けて、僕がプレゼントした婚約指輪にも同じくキスを落とす。自分でやっておいて、エレナは今僕の婚約者なのだと少しときめく。
「エレナ。風邪なんかに負けちゃいけないよ。必ず僕のそばにいて。風邪なんかに持っていかれないでね」
熱で苦しそうなのに、夢に僕を見て幸せそうに笑っているエレナが可愛かったが、また苦しそうな表情に戻ってしまう。一応確認してみたが、魔道具の氷枕はきちんと冷たい。同じくおでこに当ててある冷たい布の魔道具もやはり冷たい。きちんと冷やしてあるのに、それでもやっぱり寝苦しいのか。
「何か君にしてあげられることはないかな」
未だに熱いエレナの頬を両手で包む。僕の手の温度が気持ちいいのか、頬をグリグリと擦り寄せてくるエレナに僕の方が癒される結果となった。
「まったく、エレナったら無防備なんだから。そんな君を心から愛しているよ」
エレナが気に入ったようなので、そのままエレナの熱が手に移るまで頬を冷やすことにした。数日後エレナは回復し、僕はホッと胸を撫で下ろした。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています
さら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。
侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。
お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。
形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。
やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。
剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で――
互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。
「俺はお前を愛している」
「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」
契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。
――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる