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悪役令嬢に仕立て上げられた私が幸せになるお話
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味方がいないんですがそれは。
ゲシェンク国第二王子、ディステル・ゲシェンクの婚約者。公爵令嬢ヴィンデンブリューテ・アウフブリューエン。彼女は今、五人の貴公子に取り囲まれている。悪い意味で。
「姉上。何故ネルケを執拗に虐めるのです?」
「だから虐めてないってば」
「彼女を公衆の面前で責め立てたと聞いていますが?」
「マナーを守るように注意しただけよ」
「ネルケに僕達に近付くなと脅したんだろう」
「婚約者のいる貴公子に近付くとロクな目に合わないと忠告してあげたんじゃない」
「彼女が俺達のために作ってくれたお菓子を捨てたって本当か?」
「職人でもない平民が作ったおやつなんて何が入ってるかわからないじゃない」
「彼女の芳しい香水の瓶を割っただろう」
「いやあれ最近巷で有名な怪しい魅了効果付きの香水…使い続けると免疫力が弱って病気にかかりやすくなるから処分してあげたのよ…」
というかまさか本当にこの人達魅了にかかってる…?
ヴィンデンブリューテが呆れて黙ってしまったところ、ディステルが何を勘違いしたのか命令を下す。
「ふん、ようやく認めたか。では、お前は学園を休学しお前のところの領地で一番辺鄙なバウムに向かい領地経営に勤しめ」
「は?」
バウムは領地と言っても街も村もない、ただの森だ。そこで領地経営?ふざけてんのか、という話である。だが、彼女はあろうことか頷き微笑んで見せた。
「…わかりましたわ。では今すぐ休学申請をして参ります。第二王子妃教育も受けに行けなくなるので、そちらの説明は第二王子殿下からお願いしますね」
「いいだろう。ついでに婚約の解消を願い出ておく。健闘を祈る」
勝ち誇った顔のディステルに心の中で舌を出すヴィンデンブリューテ。彼女には切り札があった。
ヴィンデンブリューテは学園に休学申請をしてすぐに実家に帰った。そして両親に正直に経緯を説明すると、虫除けスプレーだけを持ってバウムに向かい領地経営を始める。と言っても本当に森以外なにもないところである。ということで、彼女は早速ギフトを使った。ギフトとはこの国の貴族の子供が五歳の誕生日に神から授かる贈り物である。才能、技術、魔法、色々な種類がある。彼女の場合は、植物を自在に操る能力だった。つまりこの森向きなギフトである。
「一番丈夫そうな木は…あった。これね」
ヴィンデンブリューテは丈夫な木にギフトを使って、簡易的な高床式の家を建てる。木の葉のベッドを作って、テーブルや枕も作った。
「さて、優秀な使用人も必要ね」
ヴィンデンブリューテは一番若そうな木を選ぶとギフトを使う。するとその木から精霊が産み落とされた。精霊はヴィンデンブリューテに傅く。
「今日から私の身の回りの世話をお願いね」
「お任せください、ご主人様」
ヴィンデンブリューテはこうして家と使用人を確保すると、今度は森に生える薬草に注目した。
「領地経営、がご命令だったわよね。なら、ポーションでも売ってお金を稼ぎましょうか」
錬金術で大量の薬草をポーションに変えて、それを精霊に売りに行かせたヴィンデンブリューテ。一日で金貨一枚を稼いで見せた。物凄い手腕である。
次の日には、たくさんの冒険者達が森までやってきた。
「あら、何か御用?」
「あの、ヴィンデンブリューテ様ですよね?ヴィンデンブリューテ様のポーションのお陰で、俺、失った視力が回復しました!ありがとうございます!」
「俺は足が生えてきました!ありがとうございます!」
「私は手を取り戻せました!ありがとうございます!」
「つきましては、俺達有志一同、ぜひヴィンデンブリューテ様の領地経営をお手伝いしたくて…!」
ヴィンデンブリューテはポーション作りが得意だ。彼女の作るポーションは所謂ハイポーション。欠損すら治してしまう物凄い薬だ。冒険者業は危険な仕事である。稼ぎはいいが、それで大切な身体を失う者も多い。そんな元冒険者達が安い金で買ったポーションが、ヴィンデンブリューテのポーションだった。痛み止めのつもりで飲んだら失ったものを取り戻せたのだ。彼らのヴィンデンブリューテへの感謝は深く、精霊からヴィンデンブリューテの現状を聞きサポートをしに来たのだ。
「…そう?じゃあ、ここに住んで税金を納めてもらおうかしら。あと、ポーションの買い取りもよろしくね」
「そんなことで良ければいくらでも!」
こうして森はすぐに賑やかになり、ヴィンデンブリューテの意向で自然を極力壊さない形で発展していった。そして一年が過ぎた頃には、冒険者の集まる第二の王都となった。
「はあ、領地経営が思った以上にサクサク進んでしまったわ…大体のことは精霊さんがやってくれるし、暇ねぇ…」
「リューテ!」
そこに飛び込んで来たのはディステル。
「あら、第二王子殿下。どうされましたの?」
「父上からお前の件で勘当されたのだ!一年にも渡る大々的な調査で、お前がネルケを虐めてなどいなかったと証明された!何故言ってくれなかった!」
「言ったんですけど…」
「ネルケとは別れた!ヴィンデンブリューテ、寄りを戻そう!そして爵位を貰って、二人でこの領地を経営しよう!」
「むしろネルケさんと付き合ってましたの?嫌ですわ」
「何故!」
「好きな人がいますもの。ねえ、クロクス」
クロクス、と呼ばれた男が前に出る。一見美丈夫なだけの優男に見えるが、ほっそりとした身体つきの割に筋肉質だ。
「この男は…?」
「私の恋人です。貴方が国王陛下に勘当されてからは、私の両親に認められて正式な婚約者となりました。Sランク冒険者ですわ」
Sランク冒険者。それはつまり英雄レベルの冒険者ということである。事実、クロクスはドラゴン討伐をしたことがある本物の英雄だ。つまり、王族でも軽々しく扱うことは出来ない。
「え、Sランク冒険者!?」
「わかったら帰ってくださいまし」
「わ、わかった…」
ディステルは落胆し帰っていく。この間来た弟も、公爵家の正当な後継者は俺だからこの領地を渡せと宣いクロクスに追い返され、両親に話が行き結果ヴィンデンブリューテがこの領地と公爵位を継ぐことになったのだ。まあ、余った子爵位と他の領地は可哀想な弟にくれてやったものだが。逆ハーレムメンバーにはきっとロクな奴はいない。
「クロクス、いつもありがとう」
「いや、俺の方こそリューテには感謝してもしきれない。愛してる」
「私も…」
こうしてヴィンデンブリューテは世界一の幸せ者になったのだった。
ゲシェンク国第二王子、ディステル・ゲシェンクの婚約者。公爵令嬢ヴィンデンブリューテ・アウフブリューエン。彼女は今、五人の貴公子に取り囲まれている。悪い意味で。
「姉上。何故ネルケを執拗に虐めるのです?」
「だから虐めてないってば」
「彼女を公衆の面前で責め立てたと聞いていますが?」
「マナーを守るように注意しただけよ」
「ネルケに僕達に近付くなと脅したんだろう」
「婚約者のいる貴公子に近付くとロクな目に合わないと忠告してあげたんじゃない」
「彼女が俺達のために作ってくれたお菓子を捨てたって本当か?」
「職人でもない平民が作ったおやつなんて何が入ってるかわからないじゃない」
「彼女の芳しい香水の瓶を割っただろう」
「いやあれ最近巷で有名な怪しい魅了効果付きの香水…使い続けると免疫力が弱って病気にかかりやすくなるから処分してあげたのよ…」
というかまさか本当にこの人達魅了にかかってる…?
ヴィンデンブリューテが呆れて黙ってしまったところ、ディステルが何を勘違いしたのか命令を下す。
「ふん、ようやく認めたか。では、お前は学園を休学しお前のところの領地で一番辺鄙なバウムに向かい領地経営に勤しめ」
「は?」
バウムは領地と言っても街も村もない、ただの森だ。そこで領地経営?ふざけてんのか、という話である。だが、彼女はあろうことか頷き微笑んで見せた。
「…わかりましたわ。では今すぐ休学申請をして参ります。第二王子妃教育も受けに行けなくなるので、そちらの説明は第二王子殿下からお願いしますね」
「いいだろう。ついでに婚約の解消を願い出ておく。健闘を祈る」
勝ち誇った顔のディステルに心の中で舌を出すヴィンデンブリューテ。彼女には切り札があった。
ヴィンデンブリューテは学園に休学申請をしてすぐに実家に帰った。そして両親に正直に経緯を説明すると、虫除けスプレーだけを持ってバウムに向かい領地経営を始める。と言っても本当に森以外なにもないところである。ということで、彼女は早速ギフトを使った。ギフトとはこの国の貴族の子供が五歳の誕生日に神から授かる贈り物である。才能、技術、魔法、色々な種類がある。彼女の場合は、植物を自在に操る能力だった。つまりこの森向きなギフトである。
「一番丈夫そうな木は…あった。これね」
ヴィンデンブリューテは丈夫な木にギフトを使って、簡易的な高床式の家を建てる。木の葉のベッドを作って、テーブルや枕も作った。
「さて、優秀な使用人も必要ね」
ヴィンデンブリューテは一番若そうな木を選ぶとギフトを使う。するとその木から精霊が産み落とされた。精霊はヴィンデンブリューテに傅く。
「今日から私の身の回りの世話をお願いね」
「お任せください、ご主人様」
ヴィンデンブリューテはこうして家と使用人を確保すると、今度は森に生える薬草に注目した。
「領地経営、がご命令だったわよね。なら、ポーションでも売ってお金を稼ぎましょうか」
錬金術で大量の薬草をポーションに変えて、それを精霊に売りに行かせたヴィンデンブリューテ。一日で金貨一枚を稼いで見せた。物凄い手腕である。
次の日には、たくさんの冒険者達が森までやってきた。
「あら、何か御用?」
「あの、ヴィンデンブリューテ様ですよね?ヴィンデンブリューテ様のポーションのお陰で、俺、失った視力が回復しました!ありがとうございます!」
「俺は足が生えてきました!ありがとうございます!」
「私は手を取り戻せました!ありがとうございます!」
「つきましては、俺達有志一同、ぜひヴィンデンブリューテ様の領地経営をお手伝いしたくて…!」
ヴィンデンブリューテはポーション作りが得意だ。彼女の作るポーションは所謂ハイポーション。欠損すら治してしまう物凄い薬だ。冒険者業は危険な仕事である。稼ぎはいいが、それで大切な身体を失う者も多い。そんな元冒険者達が安い金で買ったポーションが、ヴィンデンブリューテのポーションだった。痛み止めのつもりで飲んだら失ったものを取り戻せたのだ。彼らのヴィンデンブリューテへの感謝は深く、精霊からヴィンデンブリューテの現状を聞きサポートをしに来たのだ。
「…そう?じゃあ、ここに住んで税金を納めてもらおうかしら。あと、ポーションの買い取りもよろしくね」
「そんなことで良ければいくらでも!」
こうして森はすぐに賑やかになり、ヴィンデンブリューテの意向で自然を極力壊さない形で発展していった。そして一年が過ぎた頃には、冒険者の集まる第二の王都となった。
「はあ、領地経営が思った以上にサクサク進んでしまったわ…大体のことは精霊さんがやってくれるし、暇ねぇ…」
「リューテ!」
そこに飛び込んで来たのはディステル。
「あら、第二王子殿下。どうされましたの?」
「父上からお前の件で勘当されたのだ!一年にも渡る大々的な調査で、お前がネルケを虐めてなどいなかったと証明された!何故言ってくれなかった!」
「言ったんですけど…」
「ネルケとは別れた!ヴィンデンブリューテ、寄りを戻そう!そして爵位を貰って、二人でこの領地を経営しよう!」
「むしろネルケさんと付き合ってましたの?嫌ですわ」
「何故!」
「好きな人がいますもの。ねえ、クロクス」
クロクス、と呼ばれた男が前に出る。一見美丈夫なだけの優男に見えるが、ほっそりとした身体つきの割に筋肉質だ。
「この男は…?」
「私の恋人です。貴方が国王陛下に勘当されてからは、私の両親に認められて正式な婚約者となりました。Sランク冒険者ですわ」
Sランク冒険者。それはつまり英雄レベルの冒険者ということである。事実、クロクスはドラゴン討伐をしたことがある本物の英雄だ。つまり、王族でも軽々しく扱うことは出来ない。
「え、Sランク冒険者!?」
「わかったら帰ってくださいまし」
「わ、わかった…」
ディステルは落胆し帰っていく。この間来た弟も、公爵家の正当な後継者は俺だからこの領地を渡せと宣いクロクスに追い返され、両親に話が行き結果ヴィンデンブリューテがこの領地と公爵位を継ぐことになったのだ。まあ、余った子爵位と他の領地は可哀想な弟にくれてやったものだが。逆ハーレムメンバーにはきっとロクな奴はいない。
「クロクス、いつもありがとう」
「いや、俺の方こそリューテには感謝してもしきれない。愛してる」
「私も…」
こうしてヴィンデンブリューテは世界一の幸せ者になったのだった。
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長編をお願いします!このまま長編にして欲しいです!勿体ない!
実は長編版こっそりと書きました…悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)という奴なのでよかったら読んでいただけると嬉しいです。気に入っていただけるとさらに嬉しいです。
長編プリーズ!
感想ありがとうございます。長編は現在予定しておりません。気が向いたらということでよろしいでしょうか?読んでくださってありがとうございました。
( *´艸`)。面白かったー!😂
楽しんでいただけたなら幸いです!感想ありがとうございました!