異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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英雄、幼妻を迎える

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英雄、シオン。

大陸全土を侵略しようと目論む魔界の魔王とその配下を【たった一人で】殲滅した世界の英雄。

彼は今、大陸一大きな国であるリュキア皇国に招かれていた。

「…あの、俺はただ単に強いやつと戦いたくて好き勝手してただけなんで褒美とか別に………」

「まあまあそう言わず。シオン様には是非国家認定英雄となっていただきたいのです。国家認定英雄になれば皇帝陛下以外の誰にも命令されることはない立場になれますし、皇族の次に偉い立場になれますよ」

「そうは言っても」

「さらに有事の際には戦場に出ていただきますが、その分平和な日々の生活費は全額負担いたしますし」

「乗った!」

シオン、この男は相当なバトルジャンキーである。

有事の際に戦場に出ると聞き国家認定英雄の称号を獲得することに決めたようだ。

「ではさっそく認定の儀を!用意はしてあります、どうぞこちらへ」

「おう」

そしてシオンは、皇国貴族たちの目の前で皇帝から国家認定英雄として認められた。

そして都からは遠く離れた田舎の方にある立派なお屋敷をシオンに丸々一軒くれる書類まで下げ渡された。

さらに大量の金貨もその場で受け渡された。

皇国貴族たちも不満はないらしく、むしろどう利用してやろうかと値踏みしている者もいるようだがシオンは知らん風だ。

だがそんなシオンの目に、一人のガリガリに痩せてアザを大量に作った女の子が映った。

「…お嬢ちゃん?どうしたのかな?どうしてそんなに痩せてるんだ?」

着ている服は上等なモノなのに、着ている本人がこれでは…まさか、虐待か?

その嫌な予感は的中していた。

「アリシア!シオン殿の前には出るなと言っただろう!」

皇帝がそう怒鳴るとアリシアと呼ばれた子はびくりと肩を震わせる。

「…皇帝陛下、この子は?」

「メイドが〝勝手に産んだ〟私の子だ。皇位継承権はないがな」

「…皇帝陛下、この子を俺にくれないか?要らないんだろ?」

「…は?いや、それは」

「要らないから〝こんな仕打ち〟するんだよな?くれよ」

殺気にも似た威圧感。

シオンのそれは常人には耐え難いモノ。

皇帝は震えを隠せず、ただただコクコクと頷いた。

「お、お前が…シオン殿が欲しいなら、くれてやろう」

「そっか、さんきゅー」

シオンは威圧感を消して、人畜無害な少年のように振る舞う。

これが国家認定英雄かと、その場にいた誰もが凍りついた。

利用してやろうと値踏みしていた者も、迂闊に手は出せないと悟ったようだ。

「さて、じゃあアリシア。今日から君は俺の…」

「アリシア、お前は今日からシオン殿の妻だ。くれぐれも失礼のないように」

「え」

シオンは妹として引き取ろうとしていた。

それもそうだ、シオンは十八歳の少年でアリシアは八歳の子供。

妻だなんて発想普通は出ない、普通は。

「では婚姻届を」

「え、ええ…?」

シオンはそんなつもりではなかったのだが、何故か妻、婚姻届と聞いて目を輝かせたアリシアに何も言えなくなって婚姻届にサインした。

アリシアも拙い文字でサインして、晴れてアリシアはシオンの妻となった。

ちなみにリュキア皇国は一夫一妻制なので、シオンが他の女性を迎えることはできなくなった…が、シオンはそれはどうでもよかった。

性に興味がないただのバトルジャンキーだから。

とはいえアリシアをこれからどうしよう…と頭を悩ませることにはなってしまったが。
















無事国家認定英雄となり、お金と屋敷ももらい、婚姻届を出して幼妻を得たシオン。

金、名声、力、女、全部あることになったが…まあアリシアの扱いには困ってしまう。

「あー…アリシア。これからよろしく」

「よろしくおねがいします、しおんさま」

アリシアは八歳の子供。

だが、見た目はそれ以上に幼い。

ガリガリで、小さくて、言葉も八歳にしては拙い。

字もさっき見た限り幼さを考えてもなお拙かった。

「…さて、どうするかね」

有事の際に戦場に出るのは確定事項だが、それ以外の日々は自由だ。

金もある。

これは本格的にこの幼い妻に向き合うべきということか。

「…よし、アリシア!とりあえず俺のこれから住む屋敷に招待する!」

「はい、ありがとうございます」

シオンは転移魔術でアリシアと共にもらった屋敷に飛ぶ。

その屋敷は頑丈で、新しく、綺麗だ。

シオンのために建てられたのだろう。

そして、使用人たちも既に用意されていた。

この屋敷の使用人たちも、国が雇っているのでシオンの懐は傷まない。

「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」

「お、おう」

「ただいま」

「…た、ただいま」

「はい、では早速中へどうぞ」

とりあえず、メイド長なのだろう女性の案内の元屋敷内を探検する。

結構広いししっかりしてる。

シオンの部屋とアリシアの部屋も整えられていた。

「…問題はないな。よし、アリシア」

「はい」

「ご飯にするか?」

「うん!」

「…だそうだ、頼めるか?」

食い気味に返事をするアリシアに苦笑しつつ、メイド長に指示を出すシオン。

そんなシオンに微笑ましそうにメイド長は微笑み、コックの元へ向かった。













食堂まで歩いて行って、テーブルに着くとさっそく料理が出てきた。

事前に用意していたらしい。

シオンの分は美味しそうなステーキにパン、スープにサラダ。

アリシアの分はお粥。

いきなり重いものをアリシアに食べさせるのもどうかという配慮だった。

「…いただきます」

「いただきます」

アリシアの食べ方は、正直汚い。

だが、誰にも教えてもらえなかったのだから仕方のないことだった。

アリシアはお粥を夢中で食べる。

「美味しいか?」

「おいしいです」

がっつくアリシアに、シオンはただ微笑んだ。

そしてシオンもやっと食べ始める。

シオンの食べ方も、結構汚かった。

何故なら彼は孤児で、やはり誰もマナーを教わっていなかったから。

メイド長は少し考えて、食事後の二人に提案した。

「旦那様、奥様。よろしければ家庭教師を雇ってマナーや教養を身につけてみませんか?」

「マナーと教養?あー、まあ、国家認定英雄になったしなぁ」

「おべんきょう?」

「そうだな」

「わたし、おべんきょうしたいです!」

やる気満々なアリシアに、シオンは頷く。

「アリシアがやりたいなら、ちょうどいいな。やろう」

「はい!」

「手配してくれるか?」

「かしこまりました」

そしてシオンは、自分とアリシアの家庭教師を雇うことにした。













「アリシア、今日はお疲れ様。そろそろ寝るか?」

「うん、おやすみなさい。しおんさま」

「おやすみ」

「…?」

「…どうした?アリシア」

自分の部屋の前で首を傾げるアリシアにシオンは目線を合わせて問いかけた。

「…ふうふは、いっしょのふとん」

「ああ…あー、まあ、アリシアはまだ幼いからな」

「だいじょうぶです、ねれる」

「うん、そうだな。まあ、いいか。一緒に寝よう」

シオンはその日以降、アリシアを抱き枕にして眠るようになった。













それから、四年が経った。

シオンが二十二歳、アリシアが十二歳になった。

教養とマナーはこの四年間の詰め込み教育でしっかりと身について、二人とも貴族社会にも出られるようになっていた。

シオンは美形でかっこいい大人の男となり、アリシアは発展途上だが美しい少女となった。

今では誰もが認めるおしどり夫婦でもある。

「アリシア、おはよう」

「おはようございます、シオン様」

「今日も君は可愛いな」

「シオン様はお美しいです」

二人はそれぞれ、お互いを毎日必ず褒め合う。

最初はシオンがアリシアの自己肯定感を上げようと始めたことだったが、アリシアもそれを真似し出した結果だ。

「アリシア、明日俺は戦場に出る」

突然の言葉に、アリシアが固まる。

「…え?」

「隣国から宣戦布告されたらしい。行ってくる」

「そんな…」

青ざめるアリシアに、シオンは微笑んだ。

「なんだ?心配は不要だぞ?俺は国家認定英雄様だからな」

「シオン様っ…」

ぎゅっと抱きつくアリシアに、シオンは優しく抱きしめ返して頭を撫でてやる。

「大丈夫だ、アリシア。必ず帰る」

「…はい、信じています」
















その夜のことだった。

シオンの部屋に、アリシアが忍び込む。

アリシアの胸が膨らみ始めた頃から二人は、一緒には寝ていない。

だが今日はどうもアリシアの様子がおかしい。

そしてシオンの上に跨った…はいいものの、そこからどうすればいいかわからない。

「ええっと、それで…どうすればいいのでしょうか…」

「それは俺のセリフなんだが」

「え、シオン様起きて…!?」

「そりゃあ起きるだろう、愛する妻が訪ねてきたんだから」

シオンは身体を起こす。

「で、アリシア。これがどういうことかわかっているのか?」

「えっと、その、夜を共に過ごす…」

「そうだな。だがアリシアはまだ十二歳だ、早すぎる」

「で、でも!」

「十八歳」

シオンはアリシアをしっかりと見つめる。

「十八歳になったら、俺がお前の部屋に行く。それまでは、我慢な」

「…でも、明日」

「だから、帰ってくるって。心配するなよ」

アリシアはシオンに抱きついて泣く。

「…嫌です、行かないでください」

「そうは言われてもな」

「………帰ってこなかったら、後追いしますから」

「え!!?いや、だから帰ってくるって!勝手に死ぬなよ!?」

「絶対ですよ、約束ですから」

アリシアの言葉に、シオンは笑った。

「約束、な」

「はい、約束です」

そして二人は、久しぶりに抱きしめ合って寝た。

もちろんいかがわしいことはない。

ただ、二人は寝付くまでに時間がかかった様子だが。















その日のシオンは凄まじかった。

まさに一騎当千、敵軍の全てを一人で蹂躙する勢いだった。

「妻のためにも負けられねえんだよくそがぁぁぁぁぁぁぁ!」

元々バトルジャンキー、さらに愛する妻が家で待つ。

もはやシオンは修羅と化していた。

包囲されようが対策されようが知ったことかと次々に敵兵をちぎっては投げちぎっては投げ。

とうとう相手方が降伏するまで、シオンは敵を薙ぎ倒し続けた。
















「ただいま、アリシア」

「おかえりなさい、シオン様!!!」

涙でグチャグチャの顔で、愛する妻が迎えてくれた。

シオンはそれだけで幸福だった。

「アリシア、だから言っただろ?帰ってくるって」

「うん、うん!!!」

「そんなに泣くほど俺が好きか?」

「当たり前です!」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、シオンは気分が良かった。

「これからも、国に何かあったらこういうことはあると思う。でも俺はいつだってお前の元へ帰ってくるから」

「はい、シオン様…!」














そしてシオン二十八歳、アリシア十八歳の夜。

「えーっと、あー」

「シオン様、約束、ですよね?」

「う、うん、でも、まだ早いかも…」

「私は準備万端です」

「そ、そっか…」

不器用な二人は、不器用なりに深い愛を形にすることとなった。
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