異世界恋愛の短編集

下菊みこと

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婚約者は妹がとても大切なようです

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今日は婚約者とのデートの日。

可愛く化粧をして、おしゃれして、万全の状態で彼を待っていた。

しかし現れた彼は、聞き慣れた最悪の言葉を口にした。

「今日も妹が行かないでと駄々を捏ねてさ、悪いけど今日はデート無理」

彼の言う妹というのは、両親を早くに亡くして彼の実家に引き取られた彼の従妹…彼の義妹だ。

従妹だから、結婚もできるような相手。

そんな彼の義妹は彼に恋をしている。

彼と結ばれることを夢見ている。

だから私とのデートをいつも邪魔するのだ。

「あの…それ前もそうでしたよね?今回はその埋め合わせのデートのはずですよね?」

前回も同じ流れでデートの約束を反故にされた。

義妹である彼女にいいようにされている彼のことすら、最近憎く感じ始めている。

私が義妹と距離を取ってと懇願しても聞き入れてはもらえない。

彼にとって、彼女はなんなのだろう。

彼にとって、私はなんなのだろう。

「仕方ないだろ、あいつは両親を亡くして家に引き取られた可哀想なやつなんだよ」

それはわかる。

不運な事故だったと聞いた。

可哀想な人だ。

でもだからって、婚約者のいる男性に胸を押し付けたり腕を絡ませたりするような女に本当に同情するの?

私を蔑ろにしてまで、その女を大事にする意味があるの?

「だからって私を蔑ろにしていい理由にはならないですよね?」

私の言葉に、彼は目を鋭くさせた。

鬼のような形相で私に叫ぶ。

「あーもう面倒くさいな!だったらお前も俺の知らないところで楽しく過ごせよ!それで済む話だろ!」

彼の言葉に、私は絶句した。

そして理解した。

彼にとっては私は二の次で、義妹の方が大切なのだと。

「…わかった、ごめんなさい」

もういいや。

もう、この恋心は捨てよう。

政略結婚なんて、愛がなくても出来るんだから。

彼と私は親同士の決めた許嫁。

そこに愛や恋は必要ない。

「わかってくれればいいよ、じゃあ俺は妹のところに戻るから」

彼は満足そうにそう言った。

そして踵を返す。

「はい、さようなら」

私はその日から、彼のことを諦めた。

諦めたら、楽になった。











「ごめん、今日のデートも行けないわ。妹がショッピングに付き合って欲しいって」

いつも義妹を優先する彼。

でも、恋心を捨てた私にとってはどうでもいい。

むしろどうでもいい男のために割く時間が勿体無いので、ありがたいくらいだ。

義妹が頑張って私たちのデートを邪魔してくれるほどに、私の自由時間は増える。

「はい、いってらっしゃい」

私は笑顔で彼を送り出す。

この後、友達と遊ぶ約束をしているのだ。

どうせドタキャンされることはわかっていたから。

だから友達とのお出かけを思うと、楽しみすぎて笑顔になってしまうのだ。

「え、まじで?何も文句言わないの?」

彼はやや面食らった顔。

文句を言われる前提でドタキャンとか、いいご身分だなとは思うけど…まあ、どうでもいい。

「はい、どうぞ」

私が微笑んでそう言えば、彼は満面の笑みを浮かべた。

「ラッキー!サンキューな!」

彼はラッキーだと笑って、私を置いていく。

あんな男のどこが好きだったのだろう。

色鮮やかだった彼との思い出は、色褪せていく。

だけれど彼に対して期待しなくなったら、一気に気持ちが楽になった。

彼のために何かする必要もないし、好きなように時間を使える。

彼とのデートの予定なんてほぼ毎回潰れるので、先に友達と遊ぶ約束を取り付けても問題ないし。

今後結婚することを思うと憂鬱だけど、まあ愛のない結婚なんて普通なんだから別にいいだろう。













「ごめん、寝坊して遅刻した!」

遅刻してきた彼にちょっとびっくりする。

てっきり今日は、来ないままドタキャンして使い魔にでもその旨を伝えさせるつもりなのかと思っていた。

「来ないかと思っていました」

私がそう淡々と告げると、彼はやや驚いた。

なにを驚くことがあるのだろうか?

そう思われても仕方がないことをしてきたのは貴方でしょうに。

「婚約者とのデートだもん、そりゃあ来るよ」

今更歩み寄ってこられても困る。

私はもう、貴方への恋心は捨てたのだから。

まあ、この後どうせ義妹のためにドタキャンを宣言するのだろうけれど。

「で、今日は義妹さんとどこに出掛けるんです?」

私の言葉に彼は首を傾げる。

もしかして、今日は本当に久々にデートする気でいたのだろうか。

だとしたら、今更すぎる。

「ん?今日は俺たちのデートだろ」

「あら?今日はキャンセルしないんですか?」

私の嫌味に彼はちょっと不機嫌そうな顔になる。

どこまでいっても、自分勝手な人だ。

「しないよ、当たり前だろ」

「いつもは妹さんのために断るのに?」

「それは…なに?根に持ってるの?面倒くさい」

出た、面倒くさい。

その言葉に私は何度傷つけられてきただろう。

「別に根に持ってませんよ、面倒くさいので」

「え」

「どうでもいいんです、もう」

意趣返し。

そのつもりで言った。

同じように傷ついてくれればいいと思って。

「え、それどういう意味?急になに?待ってよ」

急じゃない。

全然、急じゃないよ。

何度も彼女と距離をとって欲しいとお願いしたんだよ。

それを聞いてくれなかったのは、貴方だよ。

「申し訳ないのですが、今日もまた義妹さんのためにデートはキャンセルされるだろうと思っていたのでお友達と出掛ける予定を入れてしまいました。今日は私の方からデートをドタキャンさせていただきますね」

「は?今日はデートの約束してたじゃん!」

「それをいつもドタキャンされるので、先回りして予定を埋めたのです」

彼は私の言葉に激昂する。

でも、私はそれを見てもなにも感じない。

「今日はちゃんとデートできるのに!」

今日は、ね。

「知りませんよ、貴方の都合なんて」

「なんで…そんな冷たいことを言うんだよ」

「貴方に散々蔑ろにされて来たからですよ」

「あ…」

ここに来てようやっと、関係を修復不可能だと知った彼は項垂れる。

項垂れたまま彼は言った。

「…ごめん、でも最後にもう一度チャンスとか」

「ないです」

「…ごめん」

「今後は贈り物とかデートとかはいらないので」

「婚約は…?」

婚約を続けるのか聞かれるけれど、答えなんか決まっている。

「続けますよ、双方の家の利益のための結婚ですから。貴方の家は裕福な家の持参金目当て、家は爵位の高く歴史のある貴方の家との繋がりのため。私はその辺りは弁えていますので」

「そ、そっか…」

ホッとした様子の彼に吐き気がする。

「…結婚はしますが、あくまで義務を果たすだけです。貴方との関係はそれ以上でも以下でもない」

「…っ」

「では、待ち合わせがあるのでこれで」

そして私達は別れた。

この後彼からデートのお誘いや贈り物は届かなくなった。

スッキリした!


















結婚後も、義務的に子供を儲けて後は彼とは没交渉になった。

その分子供達には愛情をたっぷり注いで大切に育てたので、子供達は真っ直ぐにすくすくと成長して良い跡取り、良いお嫁さんになって巣立っていった。

引退してからは、やることがなくなったので彼がまた擦り寄ってこようとしたのを完全拒否。

おひとり様生活を満喫する晩年となった。

ちなみに彼の義妹はもちろん彼と結婚はできず、愛人になることもなく、他所に嫁に出された。

その時の絶望し切った死んだ目は最高だった。

そして私って性格悪いなぁと、彼女の絶望顔に愉悦を感じる自分自身にちょっとだけ落ち込んだ。

もちろん、引退してから擦り寄ってこようとした彼を拒否した時の絶望顔にも愉悦を感じた。

ざまぁみろ!

子供達もそんな私になにも言ってこないので、まあこのくらいの仕返しは許されるよね、うん。
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