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まずは婚約から、ね
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「で、殿下…お家に、帰りたい…です」
「安心して、マリア。ここが君のお家だよ。そうだろう?」
貧乏で歴史も浅いクレマン男爵家。その長女で、明日お金持ちの商会の会長の後妻となるはずだった私はマリア。よくある茶髪に茶色の瞳で取り立てて見た目が優れる訳でもなく、かといって人並み外れて悪い訳でもなく。学業も普通。性格は内気。しかし夫となるはずだったクリストファー様は、そんな私に優しくしてくださっていて、親子ほど年の離れた方の後妻となるとはいえ私は嫌ではなかった。むしろ、我が家の借金を肩代わりしてくださることになっていたクリストファー様にとびきり感謝していた。まだ幼い年の離れた弟が家を継ぐ際、借金がないのはいいことだ。そう心から思っていた。
なのに、目の前のきんきら王子がそれを阻止した。昨日、文官である父が宮廷内で不審者を見つけ身を呈して未だ幼き王女殿下を守り、急遽その功績が讃えられることになった席できんきら王子…リカルド第三王子殿下に何故か見初められてしまった私。
リカルド第三王子殿下は、優秀な上のお兄様方のため早々に王位継承権を破棄なさり、いずれは爵位と領地を貰い受け公爵様となるお方。国を、お兄様方を支えるためその身を捧げると宣言なさったかっこいい方。見た目も金髪に緑の瞳で整ったお顔立ちと美しいながら、学業も秀で、剣の腕も確か。わがままを、たった一度も言ったことがないと噂されるほど優しく人のことばかり考える方。
の、はずなのに。一目、私を見た瞬間から人が変わったと言う。今までわがままを言わなかった彼が、私を嫁にと言って聞かなかった。明日嫁ぐと言ってもなお。借金の肩代わりどころかさらに有り余るほどの結納金を納めるから私をくれと、ご自分のポケットマネーからお金をどっさりと出した。そのお金は、爵位と領地を貰い受け公爵になる際、手元に唯一残る大切なお金のはずなのに。第三王子ではなく公爵となられるのだから、そんなにぽんぽんお金を使うのはどうかと思う。ただ、リカルド第三王子殿下はお金を湯水の様に使う方ではないし、まだまだあるからマリアを養うことは心配ないと言われたが。嬉しくない。
私は…クリストファー様が好き。もう優秀な後継もいる方の、愛する妻を亡くして意気消沈した父を見ていられなかった息子さんの用意した後妻の分際で好きなんて厚かましいにも程があるから誰にも言わなかったけど。結婚を、楽しみにしてた。息子さんも理解ある方で、穏やかに過ごせるはずだった。
でも、みんなお金持ちなだけの親子ほど年の離れた方に嫁ぐより、将来も有望な第三王子殿下に嫁ぐ方が幸せだと私の気持ちを勝手に推し量ってクリストファー様との婚約を解消してしまった。今日、婚約解消の席でクリストファー様も「幸せになるんだよ」と頭を撫でてくださる。私はもう、何も言えない。そんなクリストファー様を睨みつけるリカルド第三王子殿下がただひたすら怖かった。その足でリカルド第三王子殿下の用意してくださったという部屋へ拉致され今に至る。
「さあ、マリア。こちらへおいで」
「…」
「マリア?」
「お、お膝の上は…嫌です…」
「どうして?私達は婚約者同士だろう?それとも…マリアは、あの男を忘れられない?」
どこからどこまでも見透かすような瞳。ぞっとして、クリストファー様を守らねばと口を開く。
「そ、そんなことないです。殿下がかっこよくて照れちゃうから…」
「おや、それは嬉しいな。気にしなくていいんだよ。おいで」
今度は素直にお膝の上に乗る。リカルド第三王子殿下は、私の口に食事を運ぶ。
「じ、自分で…」
「雛鳥のように私の手ずから食べるマリアを愛でたいんだ。だめ?」
…クリストファー様に害が及ぶのは嫌。そう思う私を、どこまでも見透かすリカルド第三王子殿下は私への要求が際限ない。
「…はい、殿下」
「リカルド、と呼んで」
「リカルド、様」
「良い子だ。さあ、マリア。あーん」
「あ、あー…ん」
私を満足げに見下ろすこの方の視線から逃れたくて下を向く。しかし今度は後頭部にキスを落とされる。勘弁してほしい。
「愛しているよ、私のマリア…」
いつか、この愛に溺れて死んでしまうような。そんな予感に、私はなんとか心を落ち着かせて誤魔化して精一杯の笑みを浮かべた。
彼女を見た瞬間。身体に電流が走った。瞬間、私は私でなくなった。もう、彼女以外何もいらない。理由などない。これは、運命だ。私はもう、優秀な第三王子ではなく、彼女を愛する一人の男に成り下がった。あまりの私の変わりように魅力魔法の検査をされたが問題なし。洗脳もない。催眠も。こうなったら彼女の愛を必死に請う私を「滅多にないわがままだ」と国王陛下も応援する他ない。彼女の家族も、彼女の幸せを願って私に託してくれた。彼女の嫁ぐはずだった男もあっさりと身を引く。でも、そんな男に悲しげな表情を浮かべる彼女を見て私は悟った。あの男は彼女に想われている。イライラする。けれど、使える。
彼女は、彼を引き合いに出せば簡単に私の要求に応えてくれる。私はここぞとばかりに彼女を愛でる。幸せだ。もちろん、結婚前に無体なことはしない。でも、その分構い倒す。そんな私に気付いていて抵抗できない彼女が愛おしい。
愛しのマリア。どうか、私の腕の中で微笑んで。この愛に溺れて、いずれ死んでしまうその日まで。
「安心して、マリア。ここが君のお家だよ。そうだろう?」
貧乏で歴史も浅いクレマン男爵家。その長女で、明日お金持ちの商会の会長の後妻となるはずだった私はマリア。よくある茶髪に茶色の瞳で取り立てて見た目が優れる訳でもなく、かといって人並み外れて悪い訳でもなく。学業も普通。性格は内気。しかし夫となるはずだったクリストファー様は、そんな私に優しくしてくださっていて、親子ほど年の離れた方の後妻となるとはいえ私は嫌ではなかった。むしろ、我が家の借金を肩代わりしてくださることになっていたクリストファー様にとびきり感謝していた。まだ幼い年の離れた弟が家を継ぐ際、借金がないのはいいことだ。そう心から思っていた。
なのに、目の前のきんきら王子がそれを阻止した。昨日、文官である父が宮廷内で不審者を見つけ身を呈して未だ幼き王女殿下を守り、急遽その功績が讃えられることになった席できんきら王子…リカルド第三王子殿下に何故か見初められてしまった私。
リカルド第三王子殿下は、優秀な上のお兄様方のため早々に王位継承権を破棄なさり、いずれは爵位と領地を貰い受け公爵様となるお方。国を、お兄様方を支えるためその身を捧げると宣言なさったかっこいい方。見た目も金髪に緑の瞳で整ったお顔立ちと美しいながら、学業も秀で、剣の腕も確か。わがままを、たった一度も言ったことがないと噂されるほど優しく人のことばかり考える方。
の、はずなのに。一目、私を見た瞬間から人が変わったと言う。今までわがままを言わなかった彼が、私を嫁にと言って聞かなかった。明日嫁ぐと言ってもなお。借金の肩代わりどころかさらに有り余るほどの結納金を納めるから私をくれと、ご自分のポケットマネーからお金をどっさりと出した。そのお金は、爵位と領地を貰い受け公爵になる際、手元に唯一残る大切なお金のはずなのに。第三王子ではなく公爵となられるのだから、そんなにぽんぽんお金を使うのはどうかと思う。ただ、リカルド第三王子殿下はお金を湯水の様に使う方ではないし、まだまだあるからマリアを養うことは心配ないと言われたが。嬉しくない。
私は…クリストファー様が好き。もう優秀な後継もいる方の、愛する妻を亡くして意気消沈した父を見ていられなかった息子さんの用意した後妻の分際で好きなんて厚かましいにも程があるから誰にも言わなかったけど。結婚を、楽しみにしてた。息子さんも理解ある方で、穏やかに過ごせるはずだった。
でも、みんなお金持ちなだけの親子ほど年の離れた方に嫁ぐより、将来も有望な第三王子殿下に嫁ぐ方が幸せだと私の気持ちを勝手に推し量ってクリストファー様との婚約を解消してしまった。今日、婚約解消の席でクリストファー様も「幸せになるんだよ」と頭を撫でてくださる。私はもう、何も言えない。そんなクリストファー様を睨みつけるリカルド第三王子殿下がただひたすら怖かった。その足でリカルド第三王子殿下の用意してくださったという部屋へ拉致され今に至る。
「さあ、マリア。こちらへおいで」
「…」
「マリア?」
「お、お膝の上は…嫌です…」
「どうして?私達は婚約者同士だろう?それとも…マリアは、あの男を忘れられない?」
どこからどこまでも見透かすような瞳。ぞっとして、クリストファー様を守らねばと口を開く。
「そ、そんなことないです。殿下がかっこよくて照れちゃうから…」
「おや、それは嬉しいな。気にしなくていいんだよ。おいで」
今度は素直にお膝の上に乗る。リカルド第三王子殿下は、私の口に食事を運ぶ。
「じ、自分で…」
「雛鳥のように私の手ずから食べるマリアを愛でたいんだ。だめ?」
…クリストファー様に害が及ぶのは嫌。そう思う私を、どこまでも見透かすリカルド第三王子殿下は私への要求が際限ない。
「…はい、殿下」
「リカルド、と呼んで」
「リカルド、様」
「良い子だ。さあ、マリア。あーん」
「あ、あー…ん」
私を満足げに見下ろすこの方の視線から逃れたくて下を向く。しかし今度は後頭部にキスを落とされる。勘弁してほしい。
「愛しているよ、私のマリア…」
いつか、この愛に溺れて死んでしまうような。そんな予感に、私はなんとか心を落ち着かせて誤魔化して精一杯の笑みを浮かべた。
彼女を見た瞬間。身体に電流が走った。瞬間、私は私でなくなった。もう、彼女以外何もいらない。理由などない。これは、運命だ。私はもう、優秀な第三王子ではなく、彼女を愛する一人の男に成り下がった。あまりの私の変わりように魅力魔法の検査をされたが問題なし。洗脳もない。催眠も。こうなったら彼女の愛を必死に請う私を「滅多にないわがままだ」と国王陛下も応援する他ない。彼女の家族も、彼女の幸せを願って私に託してくれた。彼女の嫁ぐはずだった男もあっさりと身を引く。でも、そんな男に悲しげな表情を浮かべる彼女を見て私は悟った。あの男は彼女に想われている。イライラする。けれど、使える。
彼女は、彼を引き合いに出せば簡単に私の要求に応えてくれる。私はここぞとばかりに彼女を愛でる。幸せだ。もちろん、結婚前に無体なことはしない。でも、その分構い倒す。そんな私に気付いていて抵抗できない彼女が愛おしい。
愛しのマリア。どうか、私の腕の中で微笑んで。この愛に溺れて、いずれ死んでしまうその日まで。
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