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フリーダムな悪役令嬢に恋をした隠し攻略キャラ
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ドゥニーズ・クローデット。公爵令嬢である彼女は、ずっと妙な違和感を感じていた。父は仕事人間で、あまり家庭を顧みない。母は愛人を囲っていて、弟ばかりを可愛がり彼女をなにかと差別する。弟はなにかと彼女と比べられ優先されることに優越感を覚えているらしい。その家庭環境に違和感を感じていた。
違和感は他にもあった。
「私はこんなに明るい髪色だっただろうか。こんなに目鼻立ちがはっきりしている美少女だっただろうか…?」
…いや、生まれた時からこんなものだったはずだ。鏡を見るたび、気のせいだと彼女は首を振る。
公爵家の教育にも違和感があった。
「なんで勉強がこんなに簡単なのだろう?それでいて何故マナーなどはこんなにも難しいのか。どうして女の子はお人形遊びをしなければならないのか。外で男の子と混じって泥だらけになることはそんなにはしたないのか…」
その違和感は、日に日に大きくなって、彼女を蝕んだ。
そして、五歳の誕生日を迎える今日。彼女はやっと、違和感の正体を掴めた。鏡を見た瞬間、頭が痛くなり、まるで閃光のように一つの記憶が頭を駆け巡ったのだ。
彼女は、転生者だった。
彼女はどうやら、前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。
彼女の前世は、恵まれたものだった。子煩悩な父と母。素直で可愛い、歳の離れた妹。髪と顔は普通にこげ茶の髪にこげ茶色の目で、良くも悪くも普通の顔だった。勉強は面倒だったが、たまに赤点を取ってもげんこつ一つで済む程度には大らかな家庭だった。もちろん姉妹で差別なんてとんでもない。彼女にも妹にも平等に甘い両親だった。彼女は妹を可愛がり、妹も彼女に懐いていた。
そんな妹に勧められた乙女ゲーム。妹が一生懸命にその良さを力説する様子を見て、仕方がないから少し付き合ってあげていた。
その後病を患い他界したが、最期まで家族に囲まれ幸せな人生だった。
前世を思い出したところで気付く。自分はあの乙女ゲームの悪役令嬢だ。正直あんまりゲームの内容は覚えていないのでフラグ回避も難しい。さてどうするか。
小一時間悩んでみたが、結局出た結論は変わらなかった。
ーもう諦めて今のうちに人生楽しんでおこう!
その日からドゥニーズは変わった。
まず勉強については、前世の知識をフル動員し家庭教師共をあっと言わせて天才だと認めさせ、パスした。この時代設定の家庭教師に彼女の時代の科学や算術が負けるはずがないのだ。
次に彼女は生意気な弟を懲らしめて泣かせた。弟を溺愛する母には、愛人を囲って弟と姉を差別するあんたは弟の教育に良くないと正論パンチした。父には少しは家庭を顧みろと怒鳴り込みに行った。
家では暴れるが、一歩外に出ると完璧令嬢の皮を被っていた。猫を被りまくった。これ以上猫いらないってくらい身体中猫まみれにした。これで誰も彼女の家での破天荒振りにも何も言えない。
しばらくすると彼女に弟が謝ってきた。彼女は謝れて偉いと褒めて、改めて姉として弟を可愛がる。外遊びも一緒にして、一緒に泥だらけになった。母はその内愛人に充分なお金を握らせて追い出し、私も混ぜてと言い出した。母が子供の体力に敵うはずないとわかっていたが、わざと全力で遊ぶドゥニーズ。母は困った表情をしながら、楽しそうだった。それを見ていた父は、ある日突然仕事を放り出して勝手に混ざってきた。家族四人で泥だらけだった。その日初めて、彼女達は家族になった。
しばらく経ったある日、綺麗な男の子が彼女の屋敷を訪れた。彼女と弟は泥だらけの姿のまま挨拶させられた。普通、こんな姿で挨拶なんてみっともないし失礼だからと着替えさせられてから挨拶するのだが、それもなかった。よほど良いところのお坊ちゃんなのだろうと彼女は考えた。男の子は泥だらけの彼女を見て顔を顰めた。
怒った彼女は男の子の手を取り、中庭に出て男の子をこてんぱんにした。幼い内は女の子の方が発育がいい。そして彼女は強かった。怒った男の子は何度も彼女に挑んだが彼女はその度に返り討ちにした。彼女の父と母はやっぱりこうなったかという表情でため息を吐いていた。
その内弟もそれに混じってきた。
「二対一なんて卑怯だ!」
「姉上の出鱈目な強さの方が卑怯だ!」
「そうだそうだ!」
二対一での喧嘩の結果、彼女の圧勝。彼女は強かった。
来たばかりは荒んだ表情だった男の子もその内笑顔になった。
「やっと笑ったな、君」
「う、うるさい」
「可愛い」
「うるさい!」
その日から男の子は彼女の屋敷に泊まることになった。一週間の滞在だ。訛りから、隣国から来たのがわかる。
一週間、彼女達は毎日一緒に泥だらけになって遊んだ。しかし楽しい時間は早く過ぎるものである。
滞在最終日。男の子…アルマンは言った。
「ドゥニーズ、俺の婚約者になってくれ」
「私を倒せたらいいよ」
アルマンは泥だらけになるまで彼女に挑んだが、結局勝てなかった。涙目になるアルマンに、彼女は言った。
「特別に婚約者になってあげてもいいよ」
「本当か!?」
「その代わり、何かあったら絶対私の家族を守ってよ」
アルマンはおそらく隣国のお偉いさんのボンボンだと考えているドゥニーズ。彼女が断罪された後、彼女の家族を守ってもらう算段でいる。
「わかった。俺は、ドゥニーズもドゥニーズの家族も守れる強い男になる」
真っ直ぐな瞳で彼女を見つめるアルマン。ドゥニーズは満足げに頷いた。
「じゃあ、約束」
「ああ、約束だ」
そうして彼女達は中庭で、二人きりの結婚式を挙げ、彼女の両親に報告した。
彼女の両親はなぜか困ったような表情で、しかし同時に誇らしそうだった。そして、この婚約は彼女の両親とアルマンの両親、国王陛下だけの秘密にして欲しいと言われた。そして彼女は、表向きは王太子の婚約者ということになった。国王陛下直々の提案だったので、意味がわからないと思いつつも彼女は受け入れた。
あれから数年。彼女は貴族の通う学園に王太子の婚約者として通っていた。
が、ようやくそれも終わり卒業を迎えた日。卒業パーティーで、いきなり彼女に婚約破棄を突きつけるのは王太子。
「ドゥニーズ・クローデット!貴様との婚約は破棄させてもらう!そして今ここで、僕の愛しいベレニスとの婚約を宣言する!」
「ああ。はい、わかりました」
周りはざわざわしていたが、彼女があっさりと了承したことでさらにざわざわしだした。
「き、貴様!立場がわかっていないのか!」
「だから、その子と婚約して私と婚約破棄をしたいんでしょう?いいんじゃないですか?」
つまらない茶番に思わず適当な物言いになってしまう彼女。
「貴様!ベレニスを虐めていたくせによくそんな態度が取れるな!」
「ベレニスに謝れ!」
「ベレニスがどれだけ傷ついたと思っている!」
これはいわゆる逆ハールートだと気付くドゥニーズ。逆ハールートの場合、隠しキャラルート狙いの可能性もある。だとしたら王太子も可哀想だとドゥニーズは同情する。なぜならその場合、ただの当て馬役で終わりだからだ。しかも最後はヒロインの恋を健気に応援して終わりである。
ふと、ヒロインが隠しキャラルート狙いなら断罪ごっこにも乗ってあげた方がいいかと思い、ドゥニーズは口を開く。
「ごめんあそばせ。男爵令嬢なんかにかける言葉はありませんわ」
その言葉に、騎士団長令息が彼女を捕まえ押さえつけて跪かせる。
「往生際が悪いぞ!ベレニスに謝れ!」
「何をしている」
「アルマン様…!」
彼女が取り押さえられていると、アルマンが来た。ベレニスというヒロインはアルマンを見て目を輝かせる。
「アルマン様…私っ…」
「?お前誰だ?それより貴様、俺のドゥニーズに何してる。その穢らわしい手を離せ」
「なっ…!」
「えっ…?」
さらに周りがざわざわする。それはそうだ。
「ドゥニーズも、変な遊びに乗るんじゃない。悪役ごっこ、似合ってなかったぞ」
「む。失礼な。私は全身全霊力を込めて演技したぞ」
えっへん、と胸を張るとアルマンは呆れた顔をする。
「き、貴様…僕がいながら隣国の皇子と浮気をしていたのか!」
「は?」
アルマンが凄む。隣国とこの国では隣国の方が大きいし強いのに良く言えたものである。そして騒ぎを聞きつけて国王が駆けつけて来た。
「…皇太子殿下!この度は息子が馬鹿なことを…本当に申し訳ありません!」
「ち、父上!?」
跪き赦しを乞う父親を見て王太子は唖然とする。
「お前達も謝らぬか馬鹿者!」
国王が王太子を無理矢理引きずり倒し謝らせる。状況がわからないながら、それに伴い逆ハーレムメンバー全員が跪きアルマンとドゥニーズに謝る。ベレニスは一人ぼうっと突っ立ってえ?え?と言っている。
「この度は本当に申し訳ありません!事情があり皇太子殿下の婚約者を息子の婚約者とさせていただいていたのに、この馬鹿どもがこんな不祥事を起こすとは…」
「!?」
「いや、俺に謝る必要はない。ドゥニーズに謝れ」
「本当に申し訳ございませんでした!」
「いえいえ、元々アルマンの方に事情があって私を王太子殿下の婚約者としていてくれたのでしょう?むしろ感謝しておりますわ」
借りて来た猫総動員である。ちなみに、偽の婚約の話は国王が王太子にきちんとしていた。王太子がバカすぎて理解していなかった上に忘れていただけである。
「ドゥニーズ、これ以上ここにいても面倒くさいだけだろう?抜け出して二人で卒業祝いでもしよう」
「いいなそれ!」
そうして彼女達がその場を去ろうとすると急にベレニスが騒ぎ出した。
「ふざけないでよ!この泥棒猫!私のアルマン様を返して!」
襲いかかってくるベレニスからドゥニーズを守るアルマン。
「なんだお前。俺はお前なんかのモノじゃないぞ?俺という存在は全てドゥニーズのモノだ」
「そのセリフも!本当は私のものだったのに!せっかく逆ハーレムフラグ立てたのに!これじゃ気持ち悪い王太子共に媚を売ってた意味がないじゃない!」
周りがまたざわつく。今のは流石に不敬だ。
「なっ…ベレニス?」
「うるさい!うるさい!この役立たず!あんたがしっかりとあの悪役令嬢を惚れさせないから!」
王太子は呆然としている。残念。
「…なにやら脳内で盛り上がっていた様子だが」
アルマンがベレニスに近づき凄む。
「そんなことのために俺のドゥニーズを陥れようとした罪は重いぞ」
「ひっ…!」
「その者を牢に連れて行け!王太子達もだ!」
「はっ!」
そうして卒業パーティーも解散となり、ドゥニーズとアルマンはさっさと二次会に移って騒いだ。その後王太子は廃嫡され市井に放り出された。もちろん他の逆ハーレムメンバーも大体同じような措置が取られた様子。ヒロインは内乱罪とやらで打ち首のち晒し首にされた。
「ああ、ドゥニーズ。いよいよこの日が来たな」
今日はドゥニーズとアルマンの結婚式だ。嬉しそうに言うアルマンに、ドゥニーズも微笑む。
「幸せにしてくれる?」
「もちろん」
「ふふ、それはそうだ。この私を娶るんだから」
幸せにしてもらわないと困る。
「愛してる」
「私も」
そうしてドゥニーズとアルマンは、式が始まる前に二人きりの誓いのキスを交わした。
違和感は他にもあった。
「私はこんなに明るい髪色だっただろうか。こんなに目鼻立ちがはっきりしている美少女だっただろうか…?」
…いや、生まれた時からこんなものだったはずだ。鏡を見るたび、気のせいだと彼女は首を振る。
公爵家の教育にも違和感があった。
「なんで勉強がこんなに簡単なのだろう?それでいて何故マナーなどはこんなにも難しいのか。どうして女の子はお人形遊びをしなければならないのか。外で男の子と混じって泥だらけになることはそんなにはしたないのか…」
その違和感は、日に日に大きくなって、彼女を蝕んだ。
そして、五歳の誕生日を迎える今日。彼女はやっと、違和感の正体を掴めた。鏡を見た瞬間、頭が痛くなり、まるで閃光のように一つの記憶が頭を駆け巡ったのだ。
彼女は、転生者だった。
彼女はどうやら、前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。
彼女の前世は、恵まれたものだった。子煩悩な父と母。素直で可愛い、歳の離れた妹。髪と顔は普通にこげ茶の髪にこげ茶色の目で、良くも悪くも普通の顔だった。勉強は面倒だったが、たまに赤点を取ってもげんこつ一つで済む程度には大らかな家庭だった。もちろん姉妹で差別なんてとんでもない。彼女にも妹にも平等に甘い両親だった。彼女は妹を可愛がり、妹も彼女に懐いていた。
そんな妹に勧められた乙女ゲーム。妹が一生懸命にその良さを力説する様子を見て、仕方がないから少し付き合ってあげていた。
その後病を患い他界したが、最期まで家族に囲まれ幸せな人生だった。
前世を思い出したところで気付く。自分はあの乙女ゲームの悪役令嬢だ。正直あんまりゲームの内容は覚えていないのでフラグ回避も難しい。さてどうするか。
小一時間悩んでみたが、結局出た結論は変わらなかった。
ーもう諦めて今のうちに人生楽しんでおこう!
その日からドゥニーズは変わった。
まず勉強については、前世の知識をフル動員し家庭教師共をあっと言わせて天才だと認めさせ、パスした。この時代設定の家庭教師に彼女の時代の科学や算術が負けるはずがないのだ。
次に彼女は生意気な弟を懲らしめて泣かせた。弟を溺愛する母には、愛人を囲って弟と姉を差別するあんたは弟の教育に良くないと正論パンチした。父には少しは家庭を顧みろと怒鳴り込みに行った。
家では暴れるが、一歩外に出ると完璧令嬢の皮を被っていた。猫を被りまくった。これ以上猫いらないってくらい身体中猫まみれにした。これで誰も彼女の家での破天荒振りにも何も言えない。
しばらくすると彼女に弟が謝ってきた。彼女は謝れて偉いと褒めて、改めて姉として弟を可愛がる。外遊びも一緒にして、一緒に泥だらけになった。母はその内愛人に充分なお金を握らせて追い出し、私も混ぜてと言い出した。母が子供の体力に敵うはずないとわかっていたが、わざと全力で遊ぶドゥニーズ。母は困った表情をしながら、楽しそうだった。それを見ていた父は、ある日突然仕事を放り出して勝手に混ざってきた。家族四人で泥だらけだった。その日初めて、彼女達は家族になった。
しばらく経ったある日、綺麗な男の子が彼女の屋敷を訪れた。彼女と弟は泥だらけの姿のまま挨拶させられた。普通、こんな姿で挨拶なんてみっともないし失礼だからと着替えさせられてから挨拶するのだが、それもなかった。よほど良いところのお坊ちゃんなのだろうと彼女は考えた。男の子は泥だらけの彼女を見て顔を顰めた。
怒った彼女は男の子の手を取り、中庭に出て男の子をこてんぱんにした。幼い内は女の子の方が発育がいい。そして彼女は強かった。怒った男の子は何度も彼女に挑んだが彼女はその度に返り討ちにした。彼女の父と母はやっぱりこうなったかという表情でため息を吐いていた。
その内弟もそれに混じってきた。
「二対一なんて卑怯だ!」
「姉上の出鱈目な強さの方が卑怯だ!」
「そうだそうだ!」
二対一での喧嘩の結果、彼女の圧勝。彼女は強かった。
来たばかりは荒んだ表情だった男の子もその内笑顔になった。
「やっと笑ったな、君」
「う、うるさい」
「可愛い」
「うるさい!」
その日から男の子は彼女の屋敷に泊まることになった。一週間の滞在だ。訛りから、隣国から来たのがわかる。
一週間、彼女達は毎日一緒に泥だらけになって遊んだ。しかし楽しい時間は早く過ぎるものである。
滞在最終日。男の子…アルマンは言った。
「ドゥニーズ、俺の婚約者になってくれ」
「私を倒せたらいいよ」
アルマンは泥だらけになるまで彼女に挑んだが、結局勝てなかった。涙目になるアルマンに、彼女は言った。
「特別に婚約者になってあげてもいいよ」
「本当か!?」
「その代わり、何かあったら絶対私の家族を守ってよ」
アルマンはおそらく隣国のお偉いさんのボンボンだと考えているドゥニーズ。彼女が断罪された後、彼女の家族を守ってもらう算段でいる。
「わかった。俺は、ドゥニーズもドゥニーズの家族も守れる強い男になる」
真っ直ぐな瞳で彼女を見つめるアルマン。ドゥニーズは満足げに頷いた。
「じゃあ、約束」
「ああ、約束だ」
そうして彼女達は中庭で、二人きりの結婚式を挙げ、彼女の両親に報告した。
彼女の両親はなぜか困ったような表情で、しかし同時に誇らしそうだった。そして、この婚約は彼女の両親とアルマンの両親、国王陛下だけの秘密にして欲しいと言われた。そして彼女は、表向きは王太子の婚約者ということになった。国王陛下直々の提案だったので、意味がわからないと思いつつも彼女は受け入れた。
あれから数年。彼女は貴族の通う学園に王太子の婚約者として通っていた。
が、ようやくそれも終わり卒業を迎えた日。卒業パーティーで、いきなり彼女に婚約破棄を突きつけるのは王太子。
「ドゥニーズ・クローデット!貴様との婚約は破棄させてもらう!そして今ここで、僕の愛しいベレニスとの婚約を宣言する!」
「ああ。はい、わかりました」
周りはざわざわしていたが、彼女があっさりと了承したことでさらにざわざわしだした。
「き、貴様!立場がわかっていないのか!」
「だから、その子と婚約して私と婚約破棄をしたいんでしょう?いいんじゃないですか?」
つまらない茶番に思わず適当な物言いになってしまう彼女。
「貴様!ベレニスを虐めていたくせによくそんな態度が取れるな!」
「ベレニスに謝れ!」
「ベレニスがどれだけ傷ついたと思っている!」
これはいわゆる逆ハールートだと気付くドゥニーズ。逆ハールートの場合、隠しキャラルート狙いの可能性もある。だとしたら王太子も可哀想だとドゥニーズは同情する。なぜならその場合、ただの当て馬役で終わりだからだ。しかも最後はヒロインの恋を健気に応援して終わりである。
ふと、ヒロインが隠しキャラルート狙いなら断罪ごっこにも乗ってあげた方がいいかと思い、ドゥニーズは口を開く。
「ごめんあそばせ。男爵令嬢なんかにかける言葉はありませんわ」
その言葉に、騎士団長令息が彼女を捕まえ押さえつけて跪かせる。
「往生際が悪いぞ!ベレニスに謝れ!」
「何をしている」
「アルマン様…!」
彼女が取り押さえられていると、アルマンが来た。ベレニスというヒロインはアルマンを見て目を輝かせる。
「アルマン様…私っ…」
「?お前誰だ?それより貴様、俺のドゥニーズに何してる。その穢らわしい手を離せ」
「なっ…!」
「えっ…?」
さらに周りがざわざわする。それはそうだ。
「ドゥニーズも、変な遊びに乗るんじゃない。悪役ごっこ、似合ってなかったぞ」
「む。失礼な。私は全身全霊力を込めて演技したぞ」
えっへん、と胸を張るとアルマンは呆れた顔をする。
「き、貴様…僕がいながら隣国の皇子と浮気をしていたのか!」
「は?」
アルマンが凄む。隣国とこの国では隣国の方が大きいし強いのに良く言えたものである。そして騒ぎを聞きつけて国王が駆けつけて来た。
「…皇太子殿下!この度は息子が馬鹿なことを…本当に申し訳ありません!」
「ち、父上!?」
跪き赦しを乞う父親を見て王太子は唖然とする。
「お前達も謝らぬか馬鹿者!」
国王が王太子を無理矢理引きずり倒し謝らせる。状況がわからないながら、それに伴い逆ハーレムメンバー全員が跪きアルマンとドゥニーズに謝る。ベレニスは一人ぼうっと突っ立ってえ?え?と言っている。
「この度は本当に申し訳ありません!事情があり皇太子殿下の婚約者を息子の婚約者とさせていただいていたのに、この馬鹿どもがこんな不祥事を起こすとは…」
「!?」
「いや、俺に謝る必要はない。ドゥニーズに謝れ」
「本当に申し訳ございませんでした!」
「いえいえ、元々アルマンの方に事情があって私を王太子殿下の婚約者としていてくれたのでしょう?むしろ感謝しておりますわ」
借りて来た猫総動員である。ちなみに、偽の婚約の話は国王が王太子にきちんとしていた。王太子がバカすぎて理解していなかった上に忘れていただけである。
「ドゥニーズ、これ以上ここにいても面倒くさいだけだろう?抜け出して二人で卒業祝いでもしよう」
「いいなそれ!」
そうして彼女達がその場を去ろうとすると急にベレニスが騒ぎ出した。
「ふざけないでよ!この泥棒猫!私のアルマン様を返して!」
襲いかかってくるベレニスからドゥニーズを守るアルマン。
「なんだお前。俺はお前なんかのモノじゃないぞ?俺という存在は全てドゥニーズのモノだ」
「そのセリフも!本当は私のものだったのに!せっかく逆ハーレムフラグ立てたのに!これじゃ気持ち悪い王太子共に媚を売ってた意味がないじゃない!」
周りがまたざわつく。今のは流石に不敬だ。
「なっ…ベレニス?」
「うるさい!うるさい!この役立たず!あんたがしっかりとあの悪役令嬢を惚れさせないから!」
王太子は呆然としている。残念。
「…なにやら脳内で盛り上がっていた様子だが」
アルマンがベレニスに近づき凄む。
「そんなことのために俺のドゥニーズを陥れようとした罪は重いぞ」
「ひっ…!」
「その者を牢に連れて行け!王太子達もだ!」
「はっ!」
そうして卒業パーティーも解散となり、ドゥニーズとアルマンはさっさと二次会に移って騒いだ。その後王太子は廃嫡され市井に放り出された。もちろん他の逆ハーレムメンバーも大体同じような措置が取られた様子。ヒロインは内乱罪とやらで打ち首のち晒し首にされた。
「ああ、ドゥニーズ。いよいよこの日が来たな」
今日はドゥニーズとアルマンの結婚式だ。嬉しそうに言うアルマンに、ドゥニーズも微笑む。
「幸せにしてくれる?」
「もちろん」
「ふふ、それはそうだ。この私を娶るんだから」
幸せにしてもらわないと困る。
「愛してる」
「私も」
そうしてドゥニーズとアルマンは、式が始まる前に二人きりの誓いのキスを交わした。
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