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不遇なお姫様と慕われている兄二人
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「お兄様ーっ!」
「出たな!犬っころ!」
「兄じゃないと言ってるだろうに」
「でも一応私も姫です!」
「側妃ですらないメイドの子だろう」
皇子二人に犬っころと呼ばれるのは、ジェネロジテ皇国が第一皇女ラフィネ・オベイサン・ジェネロジテである。
ジェネロジテ皇国の唯一の皇女である彼女だが、皇子である兄二人からは嫌われている。
皇后の息子である長兄、ディニテ・タシチュルヌ・ジェネロジテは側妃ですらない母を持つラフィネを皇女と認めていない。
同じく皇后の息子である次兄、エムヴァン・テチュ・ジェネロジテはラフィネを犬っころと呼び、兄と同じく皇女扱いをしない。
ここだけを見るとラフィネはだいぶ嫌われているようだが、実際はそうではない。
「それでお兄様!今日もパンを焼いたのですが、いかがですか?」
「ん」
「食べる!」
皇女扱いも妹扱いもしない兄二人だが、めげずにしつこく話しかけてくる無邪気な幼い妹に割と結構絆されている。
毎日差し出される手作りのお菓子やパンを警戒せずに食べるくらいには。
そして、当然ながらラフィネも兄二人の期待を裏切らないよう安全と味に最大限の配慮したお菓子やパンを作っている。
「ん」
「美味い!」
「えへへ」
幼い姫はまだ七歳。
しかしこの姫は、歳の割には覚えが良いと言われ優秀なことで有名だったりする。お菓子やパンも使用人の見守りの元ではあるが一応自分で作れるくらいだ。
兄二人はなんだかんだ言っても、そんなラフィネに一目置いているのである。
とはいえ兄二人も、それぞれ将来有望な優秀な皇子として有名だ。
長兄は十八歳にして政を既に任されており、十六歳の次兄はそんな兄を支えるため騎士団に所属しその若さで第二部福隊長を務めている。
「犬っころ、お前今日の勉強は?」
「終わらせてきました!」
「なら暇だから少し相手してやる」
「わーい!」
「今日は何して遊ぶ?」
兄二人の間に入り勝手に手を繋いで、ラフィネは言った。
「お兄様と一緒に居られれば、それで満足です!だから、どんな遊びでも構いません!」
懐っこい姫に、兄二人は癒されていた。可愛く思うのも、仕方がないこと。
…そんな姫を、面白くないと思う者も当然いるわけで。
「あ、痛っ…」
「たかがメイドの子の分際で生意気なのよ!」
年上の女性に、バシッと嫌な音が鳴るほどに強く頬を打たれてラフィネは思わずヘタリ込む。相手は公爵家のご令嬢で、ラフィネは何も言えなかった。
「アンタなんかに皇太子殿下達に近付く権利があると思う!?」
ラフィネを姫と認めていないのは、何も兄達二人だけではない。
国王が認知している以上、ラフィネは皇女だ。公的にもそういう扱いは受けている。相応しい教育も受けているし、見合った生活も与えられている。
しかし側妃ですらないメイドの子という事実は重い。国王がラフィネの母を後からでも娶ればまだ良かったのかも知れないが、結局そうはならずラフィネだけを姫として引き取る形になった。
ラフィネの母はといえば多額の手切れ金を貰い悠々自適な生活を送っている。ラフィネを気にかける様子はなく、手切れ金も受け取ったので会うこともなかった。
そんなラフィネを軽んじる者がいるのは仕方がない。そうラフィネは諦めている。ラフィネは幼いながら、自分の立ち位置の危うさを理解していた。それでも兄達を慕うことはやめないが。
「いい加減王宮から出て行きなさいよ!」
「…」
「なんとか言ったらどうなの!」
既に左の頬を赤く腫らしたラフィネを無理矢理立たせてまた右の頬を打とうとした相手の女性に、ラフィネはぎゅっと目を瞑る。
けれど、頬に衝撃は来なかった。
あれ?とラフィネが周りを見るが、あの公爵家のご令嬢もその御付きの者も居なかった。
「…?」
ラフィネは首を傾げるが、そんなことより兄二人に会うためにも頬を冷やさなければと気付いて氷嚢を取りに行った。
兄二人に頬を赤く腫らした状態で会いに行くのは、なんとなく嫌だった。
王宮内の『お仕置き部屋』。ラフィネの大好きな兄二人が勝手にそう命名して、国王からの許可の下に占領しているその部屋。そこに突然魔法で連れてこられたのはラフィネの頬を打ったご令嬢とその御付きの者。
二人はなぜ自分たちがそこに連れてこられたのか、皆目見当もつかない。だが、目の前で冷たい目を自分達に向けてくる皇太子と第二皇子に顔を青くした。
「お前」
「は、はいっ」
「自分が何をしたのか分かっているのか?」
「え…」
何をしたのか。何もしない。
「な、なにも…」
「本当に?」
「は、はいっ…」
「…俺と弟の、可愛い〝妹〟に手を出したくせに?」
「え…」
いや、それはおかしい。だって、皇太子殿下も第二皇子殿下も…アレを姫だとは認めていない。妹じゃないと公言しているのも聞いた。
「…せっかくだから教えてやるよ。俺も兄上もラフィネのことはとっくの昔に認めているよ。母上の手前、拒絶しているだけだ」
「え」
「俺たちが表立ってラフィネを可愛がったら、母上は今度こそ壊れる。間違いなくラフィネを殺す。ラフィネを引き取る際にも、それはもう荒れてたから。慰めるのも宥めるのも大変だった」
「え、あ…」
「まあつまり。お前は俺たちのお気に入りを痛めつけたってことだよ」
そんな、そんなの聞いてない。
「たっぷりお仕置きしてやるよ。二度とラフィネに手を出さないように」
「そこの侍女も、止めなかったから同罪だな」
「ああ、その後お仕置きのことや俺たちの考えをわざわざ表に出すようなら…家ごと潰すから」
ひっ…と小さな悲鳴が上がる。それを合図に、お仕置きという名の酷い暴力による拷問が始まった。
「お兄様ー!」
「あ!犬っころ!」
「化粧なんてして、急にどうした?」
「…えへへ!可愛い?」
「「馬子にも衣装ならぬ馬子にも化粧」」
ラフィネは結局、頬の痕を化粧で誤魔化した。ついでとばかりのバッチリメイクに、兄二人は可愛いと思いつつも素直じゃない言葉を返す。
「そうだ、錬金術師が間違えてポーションを大量に作っちまったらしいからさ。一つ犬っころにもやるよ」
「え、ありがとうございます!」
タイミングの良さにラフィネは感謝する。ラフィネはその場でポーションを飲んだ。
「なんで今飲んでんの」
「え?…えへへ、転んで怪我しちゃったんです」
「ドジだなぁ」
「えへへ」
にっこり笑って誤魔化したラフィネに、兄二人は痛む心を表に出さないよう必死だ。
「さ、今日は何して遊ぼうか?」
「お兄様と一緒なら、なんでもいいです!」
ラフィネは今日も兄二人を慕い、こっそりと兄二人から守られて危うい日常を乗り切る。
いつか、兄二人が素直になれる日が来ればラフィネはもっと幸せになれるだろう。
「出たな!犬っころ!」
「兄じゃないと言ってるだろうに」
「でも一応私も姫です!」
「側妃ですらないメイドの子だろう」
皇子二人に犬っころと呼ばれるのは、ジェネロジテ皇国が第一皇女ラフィネ・オベイサン・ジェネロジテである。
ジェネロジテ皇国の唯一の皇女である彼女だが、皇子である兄二人からは嫌われている。
皇后の息子である長兄、ディニテ・タシチュルヌ・ジェネロジテは側妃ですらない母を持つラフィネを皇女と認めていない。
同じく皇后の息子である次兄、エムヴァン・テチュ・ジェネロジテはラフィネを犬っころと呼び、兄と同じく皇女扱いをしない。
ここだけを見るとラフィネはだいぶ嫌われているようだが、実際はそうではない。
「それでお兄様!今日もパンを焼いたのですが、いかがですか?」
「ん」
「食べる!」
皇女扱いも妹扱いもしない兄二人だが、めげずにしつこく話しかけてくる無邪気な幼い妹に割と結構絆されている。
毎日差し出される手作りのお菓子やパンを警戒せずに食べるくらいには。
そして、当然ながらラフィネも兄二人の期待を裏切らないよう安全と味に最大限の配慮したお菓子やパンを作っている。
「ん」
「美味い!」
「えへへ」
幼い姫はまだ七歳。
しかしこの姫は、歳の割には覚えが良いと言われ優秀なことで有名だったりする。お菓子やパンも使用人の見守りの元ではあるが一応自分で作れるくらいだ。
兄二人はなんだかんだ言っても、そんなラフィネに一目置いているのである。
とはいえ兄二人も、それぞれ将来有望な優秀な皇子として有名だ。
長兄は十八歳にして政を既に任されており、十六歳の次兄はそんな兄を支えるため騎士団に所属しその若さで第二部福隊長を務めている。
「犬っころ、お前今日の勉強は?」
「終わらせてきました!」
「なら暇だから少し相手してやる」
「わーい!」
「今日は何して遊ぶ?」
兄二人の間に入り勝手に手を繋いで、ラフィネは言った。
「お兄様と一緒に居られれば、それで満足です!だから、どんな遊びでも構いません!」
懐っこい姫に、兄二人は癒されていた。可愛く思うのも、仕方がないこと。
…そんな姫を、面白くないと思う者も当然いるわけで。
「あ、痛っ…」
「たかがメイドの子の分際で生意気なのよ!」
年上の女性に、バシッと嫌な音が鳴るほどに強く頬を打たれてラフィネは思わずヘタリ込む。相手は公爵家のご令嬢で、ラフィネは何も言えなかった。
「アンタなんかに皇太子殿下達に近付く権利があると思う!?」
ラフィネを姫と認めていないのは、何も兄達二人だけではない。
国王が認知している以上、ラフィネは皇女だ。公的にもそういう扱いは受けている。相応しい教育も受けているし、見合った生活も与えられている。
しかし側妃ですらないメイドの子という事実は重い。国王がラフィネの母を後からでも娶ればまだ良かったのかも知れないが、結局そうはならずラフィネだけを姫として引き取る形になった。
ラフィネの母はといえば多額の手切れ金を貰い悠々自適な生活を送っている。ラフィネを気にかける様子はなく、手切れ金も受け取ったので会うこともなかった。
そんなラフィネを軽んじる者がいるのは仕方がない。そうラフィネは諦めている。ラフィネは幼いながら、自分の立ち位置の危うさを理解していた。それでも兄達を慕うことはやめないが。
「いい加減王宮から出て行きなさいよ!」
「…」
「なんとか言ったらどうなの!」
既に左の頬を赤く腫らしたラフィネを無理矢理立たせてまた右の頬を打とうとした相手の女性に、ラフィネはぎゅっと目を瞑る。
けれど、頬に衝撃は来なかった。
あれ?とラフィネが周りを見るが、あの公爵家のご令嬢もその御付きの者も居なかった。
「…?」
ラフィネは首を傾げるが、そんなことより兄二人に会うためにも頬を冷やさなければと気付いて氷嚢を取りに行った。
兄二人に頬を赤く腫らした状態で会いに行くのは、なんとなく嫌だった。
王宮内の『お仕置き部屋』。ラフィネの大好きな兄二人が勝手にそう命名して、国王からの許可の下に占領しているその部屋。そこに突然魔法で連れてこられたのはラフィネの頬を打ったご令嬢とその御付きの者。
二人はなぜ自分たちがそこに連れてこられたのか、皆目見当もつかない。だが、目の前で冷たい目を自分達に向けてくる皇太子と第二皇子に顔を青くした。
「お前」
「は、はいっ」
「自分が何をしたのか分かっているのか?」
「え…」
何をしたのか。何もしない。
「な、なにも…」
「本当に?」
「は、はいっ…」
「…俺と弟の、可愛い〝妹〟に手を出したくせに?」
「え…」
いや、それはおかしい。だって、皇太子殿下も第二皇子殿下も…アレを姫だとは認めていない。妹じゃないと公言しているのも聞いた。
「…せっかくだから教えてやるよ。俺も兄上もラフィネのことはとっくの昔に認めているよ。母上の手前、拒絶しているだけだ」
「え」
「俺たちが表立ってラフィネを可愛がったら、母上は今度こそ壊れる。間違いなくラフィネを殺す。ラフィネを引き取る際にも、それはもう荒れてたから。慰めるのも宥めるのも大変だった」
「え、あ…」
「まあつまり。お前は俺たちのお気に入りを痛めつけたってことだよ」
そんな、そんなの聞いてない。
「たっぷりお仕置きしてやるよ。二度とラフィネに手を出さないように」
「そこの侍女も、止めなかったから同罪だな」
「ああ、その後お仕置きのことや俺たちの考えをわざわざ表に出すようなら…家ごと潰すから」
ひっ…と小さな悲鳴が上がる。それを合図に、お仕置きという名の酷い暴力による拷問が始まった。
「お兄様ー!」
「あ!犬っころ!」
「化粧なんてして、急にどうした?」
「…えへへ!可愛い?」
「「馬子にも衣装ならぬ馬子にも化粧」」
ラフィネは結局、頬の痕を化粧で誤魔化した。ついでとばかりのバッチリメイクに、兄二人は可愛いと思いつつも素直じゃない言葉を返す。
「そうだ、錬金術師が間違えてポーションを大量に作っちまったらしいからさ。一つ犬っころにもやるよ」
「え、ありがとうございます!」
タイミングの良さにラフィネは感謝する。ラフィネはその場でポーションを飲んだ。
「なんで今飲んでんの」
「え?…えへへ、転んで怪我しちゃったんです」
「ドジだなぁ」
「えへへ」
にっこり笑って誤魔化したラフィネに、兄二人は痛む心を表に出さないよう必死だ。
「さ、今日は何して遊ぼうか?」
「お兄様と一緒なら、なんでもいいです!」
ラフィネは今日も兄二人を慕い、こっそりと兄二人から守られて危うい日常を乗り切る。
いつか、兄二人が素直になれる日が来ればラフィネはもっと幸せになれるだろう。
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