皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと

文字の大きさ
37 / 62

皇帝陛下の愛娘は魔王陛下に招待される

しおりを挟む
魔王 モデスト・ランメルト。彼はとても恐ろしい存在だと言われている。ランメルト魔王國というプロスペール皇国からはとても遠い国。その国の王であるモデストは、頭に悪魔の角が二本生えていて、ドラゴンの羽と尻尾が生えていて、吸血鬼のような鋭い牙を持ち、とても残虐な魔王なのだと言う。

ただ、具体的に彼が何をしたかは噂の域を出ない。曰く、他国からの使者を拷問して首だけ返したとか、血を吸われて干からびた使者を送り返してきたとか色々言われている。

しかし、リリアージュはその噂を信じていない。あれだけ優しく皇帝として優秀な父ですら冷血の皇帝と蔑まれることさえある。ならば、噂の魔王も案外いい人かもしれないし、噂通りの悪い人の可能性ももちろんあるだろう。ただ、会ってみなければわからないと思っていた。

女帝になった際には、魔族との交渉なんかもひょっとしたらあるかもしれないし、ゆくゆくはモデストと交流を深める機会もあるかもしれない。その時には偏見を持たずに接してみよう。それで素敵な人ならばそれでいい。そうでなければ、その時は自国の利益を最優先しよう。そう、リリアージュは思っていた。

だからまさか、こんなに早くモデストと関わることになるとは思っていなかった。

「ランメルト魔王國から使者?パパ、パパじゃなくて私がランメルト魔王國から招待されているの?」

「そうだ。だが、断るから行かなくていい」

ナタナエルの声は冷たい。だが、決してリリアージュを嫌っているわけではない。むしろリリアージュが心配でたまらず、不機嫌を隠せないだけである。

「待って、パパ。使者はなんて言っているの?」

「妖精王の加護を受けたお前の力を借りたいそうだ。何をする気か尋ねたが、魔族を人間に戻す為などと嘘をつく。話にならない」

「魔族を人間に戻す?」

「どうせ魔族お得意の嘘だ。リリアージュ、お前は気にしなくていい」

「パパ」

「リリアージュ。頼む、行かないでくれ。俺はお前だけが宝物なんだ。頼む」

「パパ…」

リリアージュが困り果て、ふとルイスを見るがふいと目を逸らされた。今回は味方してくれないらしい。

「でもね、パパ。もしかしたら深い事情があるのかも。話も聞かずに断るのは酷いと思う」

「話ならもう聞いた。嘘ばかりだった。もう用はない」

「嘘とは限らないでしょう?証明のしようもないんだから」

「証明のしようもないことを言うなら、嘘の可能性大だろう」

「それはそうだけど」

「この話は終わりだ。一応伝えておいただけだ。お前はランメルト魔王國には行かせない」

「パパ、待って。私ランメルト魔王國に行く」

「リリアージュ」

「パパ、お願い」

「…リリアージュ、モデストとかいう魔王は、お前一人で来いと言っている」

「…え、護衛も付けずに?」

「そうだ。曰く、瘴気を吸ったら人間は魔族に変質するから妖精王の加護でもない限り近寄らせられないと。だからリリアージュ、お前一人で来いと言っている。そんな戯言信じられない。だからお前を行かせるわけにはいかない」

「…パパ。心配してくれてありがとう。とっても嬉しいよ」

「やっとわかってくれたか、リリアージュ。愛してる。お前は俺が守る」

「うん、パパなら私を守ってくれるって信じてるよ」

「リリアージュ…」

「だからね、私ランメルト魔王國に行くよ」

リリアージュの言葉にナタナエルとルイスが固まる。

「リリアージュ!」

「だって、私のことはパパが守ってくれるでしょう?困っている人はなるべく助けたいの。ね、パパ、お願い」

「…お前はこの国の将来の女帝だ。もっとも大切にされるべきこの国の宝だ。それでも行きたいのか?そんなことが認められると思うのか?」

「でも、もしランメルト魔王國の人達を助けられたら大きな恩を売れるでしょう?ね、悪いことじゃないよ」

「そんなことわかっている!だがそのためにお前を危険に晒すなんて出来ない!わからないのか?危険だと言っているだろう!」

「あのね、パパ。妖精國でこれをもらったの」

リリアージュがドレスの隠しポケットからいつかのガラスの鳥を取り出す。

「このガラスの鳥は瘴気を祓う効果があるんだって。イニャス様の加護を受けた後、つまり今なら私の魔力で一国を救える程の効果を発揮するって。だからね、お願い。行かせて。お話が断片的過ぎてよくわからないけど、魔族にだって救いはあっていいはずだよ」

リリアージュの真っ直ぐな視線に、ナタナエルはたじろぐ。あの幼い子供が、こんなにも立派に成長した。それは嬉しい。けれどだからって、危険を承知でランメルト魔王國に行かせたくはない。

「…皇帝陛下」

「なんだ、ルイス」

「リリアージュ様の意思を尊重して差し上げませんか?」

「ルイス!?お前も行かせないと言っていただろう!」

「でも、過保護にしていてはリリアージュ様の成長に繋がりません。うまくいけばランメルト魔王國に恩を売れるのも事実です」

「だが…」

「どうせ魔水晶で監視して、危なければ助けに行くのですから一緒ですよ」

ボソッとルイスが呟いたのを、リリアージュは聞き逃した。だが、ナタナエルはそれで納得したらしい。ナタナエルは長ーいため息を吐いた後、リリアージュに許可を出した。

「どうしてもというなら、許す。その代わり無事に帰ってくるように」

「パパ、ありがとう!大好き!」

こうしてリリアージュの単身でのランメルト魔王國への出国が決まった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea
恋愛
──私は、何故か触れた人の心の声が聞こえる。 見た目だけは可愛い姉と比べられて来た伯爵家の次女、セシリナは、 幼い頃に自分が素手で触れた人の心の声が聞こえる事に気付く。 心の声を聞きたくなくて、常に手袋を装着し、最小限の人としか付き合ってこなかったセシリナは、 いつしか“薄気味悪い令嬢”と世間では呼ばれるようになっていた。 そんなある日、セシリナは渋々参加していたお茶会で、 この国の王子様……悪い噂が絶えない第二王子エリオスと偶然出会い、 つい彼の心の声を聞いてしまう。 偶然聞いてしまったエリオスの噂とは違う心の声に戸惑いつつも、 その場はどうにかやり過ごしたはずだったのに…… 「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」 なぜか後日、セシリナを訪ねて来たエリオスは、そんなとんでもないお願い事をして来た! 何やら色々と目的があるらしい王子様とそうして始まった仮の恋人関係だったけれど、 あれ? 何かがおかしい……

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子
恋愛
  お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。 お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。 本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。 ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。 「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」 義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。   「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」 家同士が決めた、愛のない結婚。 貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。 だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。 「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」 お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの? そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる! リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌! 私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。 「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」 でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。 「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」 この日から、私の立場は全く違うものになった。 私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

緑の指を持つ娘

Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。 ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・ 俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。 第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。 ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。 疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?

処理中です...