皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと

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皇帝陛下の愛娘は魔王は意外と苦労人だと知る

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今日、リリアージュはランメルト魔王國からの使者に連れられて単身ランメルト魔王國に招待される。緊張はしているしもしもの可能性を考えれば、怖くないといえば嘘になる。だが、助けを求める人がいるのならばそれが魔族であっても助けたい。

そもそもプロスペール皇国はランメルト魔王國と非常に遠いため、魔族との交流が一切なく入ってくる情報は噂程度のものばかり。だからその噂を真に受けないリリアージュは、魔族に偏見はあまりない。その無垢さがナタナエルは心配で仕方がない。

「リリアージュ、気をつけていけ。あまり無理はするな。自分を最優先しろ。あまり魔族は信用するな」

「うん、パパ!ありがとう!」

「…本当にわかっているのか?」

「大丈夫だよ。ちゃんと自分を大切にするから。ね?」

「はぁ…心配だ」

「ふふ」

ランメルト魔王國からの使者の転移魔法でランメルト魔王國に向かう前、リリアージュはナタナエルとルイス、いつものメンバーから見送りを受けている。ナタナエルはリリアージュを強く強く抱きしめて放さないが、ルイスに肩を叩かれてようやく離れた。

「リリアージュ様、あまり皇帝陛下に心配をかけるような行動はしちゃダメですよ」

「うん!ルイス、パパをよろしくね。具合が悪くなったらすぐに休ませてね」

「お任せください」

軽くウィンクするルイスにリリアージュは小さく笑う。

「リリアージュ様、本当に行かれるのですか」

「うん」

「ランメルト魔王國の王様は悪逆非道で有名だぜ?俺だけでも連れて行かないか?」

「ごめんね、無理なの」

「私はリリアージュ様が心配です。どうか早く帰ってきてくださいませ」

「エミリアちゃん、ありがとう。必ず帰ってくるよ」

「私、リリアージュ様の大好きな洋梨のシャルロットを作って待ってるから」

「楽しみ!早く食べたいなぁ」

「…リリアージュ様、ご無事のご帰還、お待ちしております」

「うん!ラウル、みんな、行ってきます!」

短い見送りの挨拶を済ませて、最後にナタナエルの頬にキスをしてランメルト魔王國からの使者の元へ行く。転移魔法で移動すると、そこは美しい宮殿だった。

「お初にお目にかかる。プロスペール皇国が第一皇女、リリアージュ・プロスペール殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。私がランメルト魔王國の魔王、モデスト・ランメルトだ」

玉座から自分を見下ろすのは、頭に悪魔の角が二本生えていて、ドラゴンの羽と尻尾が生えていて、吸血鬼のような鋭い牙を持ち、ナタナエルとニコラを思い起こすようなとても綺麗な赤い瞳の男性だった。リリアージュはその瞳を見た瞬間、この人は信用できると確信する。

「お初にお目にかかります。ランメルト魔王國の国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」

「楽にしていい。モデストと呼んでくれ」

「モデスト陛下、私がなにかランメルト魔王國の力になれるとお伺いしました。詳しいお話をお聞かせ願えますか?」

「協力的なのだな。助かる」

「話を聞かない限りはなんとも言えませんが…」

「ああ。まずは、色々と説明したいからこの私の長話に付き合ってくれないか?」

「もちろんです、モデスト陛下」

「そなたは優しいのだな。では、話そう」

おおよそ五千年前。ランメルト魔王國がまだランメルト王国であった時代。瘴気と呼ばれるこの世界の膿のようなものがランメルト王国に発生し、ランメルト王国は瘴気を祓うことができず、ずっと瘴気が残ったままそこに在り続けた。

すると、瘴気を吸った人間や動物達が魔族化、魔獣化して、醜い化け物のような姿になってしまった。

魔族化、魔獣化した人間やペット達は長い長い寿命を望んでいないのにもかかわらず得てしまい、五千年間変わらぬ生活を送り続けていた。

どうすれば解決できるか。西へ東へ奔走して、この五千年間色々な文献を読み漁り、やはり瘴気を祓うしかないと結論が出た。

土地の瘴気を全部祓い、人間やペット達、家畜達の中に溜まった瘴気も祓う。これは並大抵のことではないし、そんなことを時間をかけてやっている間にその人間も魔族になってしまうのは目に見えている。魔族化してしまえば、瘴気を祓うことはできない。むしろ瘴気を生み出す側になってしまう。

誰に頼むか、どうすればいいか、そもそも頼みを聞いてくれる人がいるのか。ランメルト王国がランメルト魔王國に変化してから、他の国はみんなランメルト魔王國を敵視するようになった。かつての同盟国でさえも。

そんな中で、はるか遠く遠く、プロスペール皇国という国に妖精王の加護を受けた美しく優しい姫君がいると報告が上がった。魔族の一部が情報集めのために外に出ており、その一人からの連絡である。

最後の希望が見えたと魔族全体が喜んだが、協力してもらえるかどうかは呼んでみなければわからない。どうか、噂に違わぬ優しい姫君でありますようにと全員が願った。

ランメルト魔王國の悲願。それは瘴気を祓い魔族や魔獣を人間や動物に回帰すること。ただそれだけである。

「…というわけだ。ちなみに瘴気が発生するのは一万年に一度くらいのペースらしいから、そこはまだまだ先だからリリアージュ殿下は心配する必要はない」

「お話ありがとうございます、モデスト陛下」

「協力してくれるか?」

「もちろんです」

リリアージュのその返答に、モデストは優しく笑った。

「なるほど、噂通りに美しい姫君だと思ったが、噂以上に優しい姫君なのだな」

「いえ、そんなにおだてないでください。モデスト陛下は少し意地悪です」

「ふ、おだててなどいない。事実だ」

「モデスト陛下!」

「はは、すまぬ。つい、リリアージュ殿下が可愛らしいものでな。うちにも同じ年頃の娘がいて…いや、五千歳は超えているのだが、魔族化すると成長が止まってしまってな、あの子によく似ているのでつい構ってしまう」

「そうなんですか?瘴気を祓った後、是非お会いしたいです!」

「うん。うちの娘も喜ぶだろう。よろしく頼む」

「はい!」

リリアージュは無邪気に笑う。その様子を魔水晶で覗いていたナタナエルとルイスは、なんとかなりそうだとほっと息を漏らした。

一方でいつものメンバー。ニコラはひたすら勉強に打ち込み、シモンは剣術の稽古に明け暮れ、ラウルは錬金術で魔道具を作成しまくり、エミリアはリリアージュが好きそうな小説を買い漁り、レオノールはそんなみんなにお菓子を作って馬車を走らせて届けた。つまりはリリアージュが心配過ぎて落ち着いていられなかったのだ。

リリアージュの帰りを、みんなが待っている。
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